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2話:遠くから見た姿

「まぁ、バルディ様。そのように頭を掻き毟られては、折角整えていらしたお髪が大変なことになっておりますわ」


 私はバルディ様の手を止めてこちらに頭を下げて頂き、手ですが整え直しました。


「済まないな。ミディ。ありがとう」


「いいえ。それにしても随分と珍しい事ですわ。バルディ様がそのように言い淀むなどと」


「うん。……ミディ。私と君との婚約は続行するし、この話をしたからと言って、その後の展開など何も無い。それは理解して欲しい」


「は、はい。かしこまりましたわ」


 いつになく真剣なバルディ様に良く分からないながらも頷きますと、ようやくバルディ様は話を始めました。


「実は先日のミディや他のご令嬢達のプレデビューの夜の事なのだが」


 社交界デビューは王家主催の夜会と決まっておりますが、そこで恥をかかないために、夜会のプレデビューとして、同じ年頃の親同士で交流のある子息令嬢達何名かで集まります。その中で一番爵位が上の方の屋敷で開催するもので、私の夜会のプレデビューは、侯爵令嬢様のお屋敷でございました。プレデビューはどちらかの親若しくはご両親揃って参加するのが基本で、婚約者のいらっしゃる子息令嬢方は、婚約者のお披露目も兼ねていますので、私もバルディ様とかの侯爵令嬢様のお屋敷にて落ち合う事になっておりました。


「あの夜会がどうかなさいまして?」


「私はあの夜、天使を見たのだ」


「まぁ! 天使様でございますか?」


「本物ではないよ。天使のように清純な令嬢、ということだ」


「まぁそのような方が」


「そうなんだ。ミディと落ち合うために、会場でミディのお父上にお会いして、君の居場所を尋ねた。お父上は、ミディが友人数名とバルコニーから庭園に出るとお話してくれてね。それで私は君を探しにバルコニーから庭園へと向かおうとバルコニーに出たのだが。その時、庭園の仄かな明かりの下に天使が居た。私は呆然としてしまってね。その時はミディにも悪いがミディの事を忘れてしまっていたんだ」


「まぁ」


「天使は一瞬だけしか見られなかったが、黒い髪に黄色いドレスだった。バルコニーから庭園の距離が有ったし後ろ姿だったけれど、それだけは分かったんだ」


「そうですの」


「その後、私は天使の元に行こうと慌ててバルコニーから庭園へ出る階段を降りた時には、もう天使は見えず、ミディや友人達が庭園からバルコニーに戻って来るのが見えたのさ」


「そうでしたのね。という事は、その天使のようなご令嬢様は私達の近くに居たのでしょうか?」


「それなんだよ! それをミディに尋ねたくてね」


「まぁそうでしたの。それがどうしたらいいのか分からない事態、でしたのね?」


「うん。私は別に天使を探したいわけでは無いんだ。ただ、あまりにも一瞬のことで、彼女が実在したのかどうかを知りたくてね」


「では、天使様がいらっしゃったとして、恋人にされる、とかでは……」


「しないよ。そんなのミディにも彼女にも失礼だろう。私は彼女が実在したとして、彼女を日陰者にするつもりは無いよ」


 確かにバルディ様が私との婚約を続行し、婚姻するので有れば、その天使様が実在したとして、その方とバルディ様が恋人になったとしても、その方はバルディ様の妻では無いので表舞台には出られません。バルディ様が仮にご実家の跡取りで有ったとしても愛人扱い。ましてやバルディ様は私の所へ婿にいらっしゃるお方。私が認めても、妻にはなれませんから愛人なのは変わりません。


 貴族は男性も女性もその多くが政略結婚で、恋愛は結婚してから、と言われます。夫婦で恋愛が出来るなら構いませんが、婚外恋愛が多いのも事実。お互いにお相手……つまり結婚していてからの恋人同士も多いようですわ。私の両親はお互いに恋をしましたから、夫婦で恋愛をしているタイプですわね。まぁ夫婦で恋愛の方が少ないですので、お互いにお相手がいる場合の恋愛は“恋人”と呼んだとしてもまぁ要するに互いが“愛人”という日陰者扱い。関係はあくまでも密かに、で。公にしてはならないルール。


 どうやらバルディ様は、天使様にそのような結果をもたらす気は無いようです。


「まぁそうですわね。私と婚姻なさるなら、天使様は日陰者ですものね」


「それもそうだけど。ミディに嫌な思いをさせる気も無いよ」


「嫌な思い、ですか?」


「だってミディは、ご両親がお互いに恋をし合っているから、そういう夫婦になりたい、と言っていただろう? 私と結婚するからには、私とそうなりたいって事だ。だから私はそんな不誠実な事をして、ミディに嫌な思いはさせないよ」


「まぁ……。ありがとうございます、バルディ様。そのようなご配慮を頂いて嬉しく思いますわ! バルディ様が私のパートナーで良かったですわ」


「そうか。そう言ってもらえると私も嬉しいよ」


 私とバルディ様はニコッと笑い合います。


「バルディ様はその天使様に一目惚れされましたのね」


「一目惚れ……。そうか。うん、そうだな。私は天使に恋をしたんだ」


 そうだとすると、私はどうしたらいいでしょう。幼馴染みであり婚約者でもあるバルディ様の恋を応援したいとは思います。私と結婚する以上、せめて好きな人を思う気持ちくらいは、認めたいですわ。


 という事は、私に何が出来るのかしら。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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