婚約破棄?追放?了承致しました。感謝致します
私はカリン・ロズランド19歳。ロズランド公爵家の娘です。今まさに婚約者から婚約破棄を告げられています。
「お前とは婚約破棄だ!お前のような悪役令嬢など俺はお断りだ!俺は可愛いリリスと結婚する!」
「お姉様、ごめんなさいね。アルク様は私を選んで下さいました」
「さっさと出て行け!この家にお前がいる場所などない!今後一切親子の縁も切る!!」
「そうですわ。チリ一つ持ち出す事は許しませんからね。さっさと出て行って!」
さっきから叫んでるのは婚約者だったアルク様と母違いの義妹のリリス。実父のエリアス。義母のシャロンです。
執事長や侍女達は遠巻きに見ている。
「分かりました。今すぐ出て行きます。
あ!でもこちらにサインだけ下さいね。婚約破棄の書類です。私のサインはしてありますので、アルク様のサインを頂いたら正式に婚約破棄になります。
こちらは親子の縁を切る書類です。お父様もお願い致します」
カリンはサイドテーブルの引き出しから書類を出し、2人に差し出した。
「用意が良いじゃないか。ほら、サインしたぞ」
「こっちもだ!これでお前の辛気臭い顔を見なくて良いと思うと清々するわい」
アルクと父はサインした2枚の書類を渡した。
「ありがとうございます。これでお二人とのご縁もなくなります。
セバスチャン、この書類を神殿と国王陛下に届けて下さい」
執事長のセバスチャンに指示した。
「承りました」
セバスチャンは書類を受け取り、部屋を後にした。
♢♢♢♢♢♢
カリンは言われた通り、何も持たず馬車にも乗らず歩いて屋敷を出て行った。
「やっと居なくなってくれたわ」
「お姉様なんて野たれ死ねば良いのよ!」
「煩い小言を聞かなくて済むな」
「これからは俺の自由に領地経営をして好きなように使うぞ!俺の金だ!」
それぞれが感情を隠す事なく言いたい事を言っていた。
♢♢♢♢♢♢♢
歩いて出たカリンは5軒先の屋敷に入っていった。
「お帰りなさいませ。カリン様。話は本邸の侍女から聞いております。今夜からこちらが本邸になりますね。あちらに居た者達は皆今夜荷物を持ってこちらに移動します」
「やっとあの人達から解放されたわ」
「長い間お疲れ様でした!お風呂の用意も出来ています。香油でマッサージもしますので、ゆっくりなさって下さいね」
「マーシャ、いつもありがとう」
マーシャの手は魔法使いみたいに私に癒しを与えてくれる。
♢♢♢♢♢♢
ロズランドの爵位も領地も元々7年前に亡くなった母の物だった。領地経営も順調で幼い頃からカリンも意見を出し、手伝いをしていた。
母は馬車の事故で崖から落ちたが遺体は見つからなかった。
母が亡くなってからは父は愛人だった義母と再婚し、田舎の領地に居るのが嫌で義母と義妹と3人で王都暮らしをしていた。
田舎の事など自分には分からないからと幼い娘と執事長に任せっぱなしで、書類に必要なサインがいる時だけ、カリンが王都に出向きサインを貰い、その時に王都で暮らす資金を置いて帰っていた。その資金も足りない時は、すぐに持ってこいと催促する事も多々あったが……。
アルクが婚約者になったのも、父が個人的にお金を得る為に私と婚約したら次の公爵位が手に入るとアルクの両親に話を持ち掛けたからだった。
私が上手く領地経営して収入が増えるのが分かって、全てを自分の好きなようにしたくなった父が、急に領地に帰ってきて私を追い出したのだった。
私の実父だけど、本当にロクでもない人間。悪巧みだけは頭が働くのよね。母と婚約時代、母には好きな人が出来て婚約破棄をして欲しいと言われた夜、母に薬を盛り母の処女を奪い私を孕ます事に成功して、結果結婚させた。二度とその身を触らせなかった母への腹いせに堂々と愛人を社交界に連れて行った。
望まれて身籠った子供では無いのに、母は私に沢山の愛情を注いでくれた。あんな父に母が大事にしていた領地をやるものか!
♢♢♢♢♢♢♢
「誰か!何故誰も朝の支度にこない?」
「貴方、屋敷に侍女も執事も料理長も庭師さえ居ないわ!」
「お父様、私達4人しか居ないわ」
「公爵、召使い達が誰一人居ないなんて一体どうなっているのですか?」
4人は訳が分からなかった。お腹が空いても朝食を用意してくれる者も居なければ、身支度を手伝う者すら居ない……。ただ立ち尽くしていた。調理場には食品はあったが料理などした事がない義母はパンとミルクを出すだけで精一杯だった。
質素な朝食を摂り終わり、4人は執務室の金庫に向かった。金庫を開けると50万ルピナがあり、メモが添えられていた。メモには『50万ルピナとこの屋敷は貴方方のものです。これを減らすのも増やすのも貴方方次第です。お元気で。カリン』
「あ、あり得ない!一体どういう事なんだ!」
叫びながら外を見ると、執事長のセバスチャンが馬車から降りているのを見つけ、大急ぎで声を掛けた。
「待て!セバスチャン!!」
階段を急いで降りたエリアスは息が切れ切れだった。
「どうされましたか?」
セバスチャンは落ち着いて返事をしていた。
「一体どうなってるんだ?屋敷には俺達以外誰も居ないし、金庫には少しの金しか無く、こんなメモが!」
エリアスはセバスチャンにメモを見せた。
「お嬢様は慈悲深いお方ですね。縁を切られたと言うのに、お屋敷やお金まで残されるのですから」
「どういう事だ!?俺が公爵で領主だぞ!!」
「それは違います。4年前からこのロズランドの領主はカリン様で御座います。公爵位もカリン様が引き継がれておりますよ」
「そんな訳ないだろう!」
エリアスはセバスチャンの言葉に憤怒していた。
「道の真ん中で騒々しい。何をそんなに騒いでらっしゃるんですか?」
5軒先の屋敷からカリンが出てきた。
「お前!まだこんな所に居たのか!?さっさと、領地から出て行け!」
「そうよ!それになんでそんな豪華なドレスを身に纏っているのよ!チリ一つ持ち出すなってお母様から言われたでしょう!!」
「そうよ!いますぐ脱ぎなさい!!」
「まだ僕に未練があって近くを彷徨っているのか?」
4人は思いを吐き出した。
「ギャンギャン叫ぶのはやめてください。先程セバスチャンが言いましたが、この領地は私が領主です。元お父様が4年前に公爵位と領主の放棄の書類にサインされて、国王陛下も神殿も今は私が公爵で領主であると認めてくださってます。それに貴方方の屋敷からは何一つ持ち出していません」
カリンは冷静に簡潔に説明した。馬鹿にも判るように。
「じゃ何故そんなドレスを着ているのよ!」
馬鹿ではなく大馬鹿だから理解できないリリスが噛み付いた。
「私の個人の屋敷はあちらです」
カリンは5軒先の屋敷を指差した。
「なんでお前個人の屋敷があるんだ!?」
「私が公爵位を継ぎ領主になったお祝いに領民が建ててくれた屋敷です。私の私物は全てこちらにあります。それに好きな方に綺麗に見せたい女心が分かりませんか?」
「ぼ、僕の為に着飾るなんて可愛らしいじゃな…くっ!?」
アルクはカリンに近づき抱きしめようとした。その瞬間喉元に剣の先が近づいた。
「俺のカリンに近づくな!」
金髪碧眼の美丈夫がカリンの前に立った。
「カリンは僕の婚約者だぞ!無礼だぞ!!」
「馬鹿らしい!婚約破棄の書類にサインまでしておいて!恥を知れ!!」
「う、煩い!どこの誰か知らないが僕はベンツ子爵の息子だぞ!」
「俺は国王だが、まだ文句あるのか?」
「たかが国王が……こ、国王陛下!?」
アルクは真っ青になり、腰を抜かし座り込んだ。
「国王陛下!私達はあの悪女に騙されたんです!助けてください!!」
「そ、そうです!私の知らぬ間に公爵位も領主の座も奪い取ったのです!」
「あの悪女は人間の皮を被った悪魔ですわ!捕まえて処刑してください!!」
早速国王に近づき懇願する馬鹿達。
「俺の愛しの婚約者をよくもそこまで馬鹿にしてくれるものだな!大体騙されたと言っていたが、書類をろくに読みもせずサインしたのはお前自身だろうが!あのサインをした時俺も同席していたんだ!言い訳などするな!!連れて行け!!」
サイラス国王は騎士団に命令した。
サイラスは7年前、前国王が急死し、16歳で跡を継いだ前国王の歳の離れた実弟だ。
父も義母も義妹もアルクも騎士団に連れて行かれた。国王を愚弄した事も含め正式な裁きを受けるようになるだろう。過去、父と義母は母を毒殺しようと画策していた。毒の手配をしている事に気が付かなければ母は毒殺されていただろう……。
私とサイラスはアルクからの婚約破棄の書類が受理された後すぐに婚約した。
書類を見たサイラスは急いで私の元に来てくれていたという訳だった。
「いままでよく頑張ったな。王妃になればまた大変な事も多いが、俺が守り幸せにするからな!」
サイラスはカリンを抱きしめ頭を撫でた。
「サイラスありがとう!私も貴方を幸せにするわ!」
カリンもサイラスを力強く抱きしめた。
「もう!お熱いんだから。ねぇダーリン」
「僕達には負けるんじゃないかな?マイハニー」
「カリン姉様!」
カリンによく似た女性とサイラスに似た男性、そしてカリンを姉様と呼ぶ少年。
馬車の事故で亡くなったと言われているカリンの母のキャロリンと同じく急死したと言われる前国王クリフ。2人は若かりし頃恋に落ち、一緒になろうと約束したが、エリアスの卑怯な行いで一緒になる事は叶わなかった。キャロリンはカリンを産み育てる事で愛を封印していた。一方クリフは王位を継いだがキャロリンを忘れられず王妃を迎える事はせず、歳の離れた弟を次の国王にするべく動いていた。7年前、最愛のキャロリンが夫達に毒殺される計画を知り、自身を急死した事にし、キャロリンも事故死した事にして、愛を確かめ合った2人は隣国に旅立った。幼いカリンとサイラスは私達なら大丈夫だからと2人を後押しした。
大変な事も沢山あったが、2人で乗り越えて行く過程でカリンとサイラスもお互いがかけがえのない存在になっていた。
カリンを妻に迎えたいサイラスは兄クリフに相談し、キャロリンは事故の時記憶を無くし隣国で隣国の男性と家庭を持ったが、記憶が戻り家族と共に帰ってきた事にしようと。
2人は公爵家を継ぐのは隣国で出来た2人の長男ケントが居るから安心して嫁に行けと言ってくれた。
その後カリンとサイラスは結婚し、国民を思いやる国王夫妻が誕生した。
父や義母、義妹、アルクは数々の悪事が発覚して生涯牢屋の中で過ごす事になった。母キャロリンとクリフは領民達と一緒に汗を流す毎日で、ケントも勉学に励んでいた。王国内ではいつもどこかで笑い声が聞こえていた。
この作品を読んでくださってありがとうございます!
感謝します。
今後の創作意欲向上の為評価頂けたら嬉しいです!よろしくお願いします!!