第1話 後悔
なるべく書き続けたいです。
輪廻転生。
一度は聞いたことがある言葉。
何度も生まれ変わって生を繰り返す行為。コンティニューってそういうことすか?
意識がなくなる前に脳内に浮かび上がった謎の質問が気になりすぎる。
俺なんて答えたっけ?なんか好奇心に任せて変な方を選んだような。
深夜までゲームしまくった日の翌朝によく陥る、目が覚めているのかいないのか分からないあやふやな意識で記憶を辿る。
たしか……深淵なんとか…だったような…
ブオオオオオオオオ!!!!
俺の思考は謎の爆音で強制中断された。
「なんの音だよ……こんな目覚ましかけてねえぞ」
重い瞼を頑張って開くと…そこには…
「なん…だ…これ…?!」
煌煌と燃えるマグマ。漆黒の空と轟く雷鳴。草木一本も生えていない岩の大地のいたるところで火炎がゆらゆらと滾っていた。
全ての生命活動を忘れ、ただそこに存在している景色を目に刻む。
何もわからない。ここがどこなのか。なぜここにいるのか。俺は今俺のままなのか。一つだけわかっているのは、この世界は今ここに俺の目の前に存在して、それを認識している俺がここにいるということだ。
「すげええ……」
きっとどの世界遺産よりも壮大で鮮烈でそれでいて禍々しい。手で数えるほどの世界遺産しか知らないがそう確信できた。
思い出したように呼吸をすると、喉に高音の大気がなだれ込んだ。慎重に呼吸しないと一瞬で声を奪われそうだ。
ここは地球じゃない。どう考えても。
そして、俺もまた……
「なるほど、そういうことね。」
全身に感じていた違和感。なんとなくわかっていたことだ。
肌は紫、手足には鋭い爪、背中には大きな翼。頭の角と鏃型の尻尾。目の前に広がる禍々しい光景と、思い出された深淵王子というワード。溢れる大量の情報をかき分けて、全てのニューロンがつながった。
「………もしかすると、……ここ魔界じゃね?もしくは地獄か。で、俺は悪魔か?」
魔界じゃないにしろ、闇属性の匂いはプンプンする。中2病はこの世界でも継続中だ。
車で轢かれて死ぬ直前に脳内に浮かび上がった、コンティニューの表示。もしあそこでノーマルモードを選んでいたら人間界での生が再びスタートしていたのだろう。しかし、俺が好奇心に任せてイレギュラーモードを選んでしまったばっかりに、今この魔界らしき場所に悪魔らしき肉体で、生まれ落ちたみたいだ。
転生はフィクションの世界ではなかったのか…
しかもコンティニューとか、ダウンロードとかやけにゲームみたいなワードばかりだったなあ。
輪廻転生もデジタル化してきているのだろうか。
輪廻転生デジタル化ってなんだよ。パワーワードか。
状況をある程度認識したところで、自分の体を詳しく確かめてみる。
肌は、よく見ると肌そのものが紫というよりも、薄青い皮膚に、内部の赤黒い血が透けて、結果的に紫色になっているのがわかった。
角は2本。サイズはそこまで大きくない。動かしたり、引っ張ったりしてもびくともしなかった。
興味深いのは、翼と尻尾。何せ、人間の時よりも動かせる場所が増えたんだから。
翼は肩甲骨に力を入れたら少し動いた。
「ふんんんっ……!」
適当に力んでみる。
バサッ、バサッ!
「おお、おおおお!ほんのちょっとだけど浮いたぞぉぉ!」
味わったことのない感覚に興奮してしまった。
「もういっちょ……」
コツを掴むと早く飛べそうだ。肩甲骨にゆっくり力を入れる感じで……
バサバサバババササ……
「うわっ!」
ザザザザアアア…
ブサイクな音を立てて、落下してしまった。やはりそう簡単にはいかないか。
再チャレンジしようと顔を上げると何やらけむくじゃらの物体があった。アップすぎてよくわからない。毛の下からは細長い足が伸びている。
なんだこれ。なんかヤギの足みたいな…。
………おいおい…まじかよ。
瞬時に、生き物の足だと分かる。
あれえ、おかしいなぁ。こんなにマグマだらけの灼熱な世界のはずなのに、暑さが引いていく。
そして、これまでとは別の汗がダラダラと垂れてきた。
恐る恐る上を見上げると、大きな角を生やし、四つの眼球で、俺を見下す巨大な生物が立っていた。
フシュウウ……
鼻息は荒く、足と同じく顔もヤギのような見た目をしている。全身はけむくじゃら。ヤギLevel99みたいな。
逃げなきゃ……逃げなきゃ…
「動け、体。動け、動け、………」
呼吸が荒い。
足が動かない。翼や尻尾と違って動かし方はよく知ってるはずなのに…なんで…。
ブオオオオオオオオ!!!
怪物は声を荒げて昂った。
まるでこれから獲物を仕留めるぞ!と気合を入れるように……。
イレギュラーモードに何かするんじゃなかった。
私も転生してみたい…。