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プロローグ 歩きスマホはやめよう

よろしくお願いします。


雪が降りそうだ…。

つけなれたネックウォーマーと手袋の温もりを感じながら帰路についた。


雪が降っている時よりも降る前の方が寒い気がする。早くコタツに入りたい。


「進路どうするかなぁ…」


誰に聞かせる訳でもないのに、大きめにため息をついた。


1人で帰る時には、いつもなら考えないようにしていることまで考えてしまうものだ。


「帯島、お前は他のやつよりも出遅れてるぞ。早めに進路考えた方がいい。最低でも学部だけ考えてこい」


さっきの面談での担任の言葉が思い出された。歳の割に皺が目立つ顔と共に。どうでもいいのに鮮明な記憶。


まだ3年にもなっていないのに、せわしいやつだ。


やりたいことなんてない。これから見つかる気もしないし。そもそも見つけようとしてないんだけど。



シャリ、シャリ、シャリ、、


規則的な雪を踏む音。大分水が混じっている。明日は晴れだと言っていたから、明日にはこの雪も全て溶けるだろう。


どうせなら俺のこの煩わしい憂鬱も溶かして消してくれればいいのに。


ピロン♪ピロン♪


スマホを見ると通知が2件入っていた。


画面には見慣れたアニメキャラのアイコンと「岡崎」の文字。



『土日さあ、劇場版に備えておれん家で過去作復習しようぜ!』

『そんで考察しまくろうぜ!』


文字越しに、楽しそうな顔が想像できる。


岡崎も俺と同じく、先のことなんか考えずただ、今を生きている奴の1人だ。


おそらく高校で1番よくつるんでいる友達。アニメやマンガの話でよく盛り上がる。


気づいたら、もう家の近くの交差点まで来ていた。


ピヨ…ピヨピヨ…


聴覚障害者用の音と共に信号が変わった。


俺は岡崎へのメールを返信しながら横断歩道を渡る


『オッケー。ポップコーン持っていくわ』


そう入力して送信ボタンを押そうとした、その刹那。



ギャリギャリギャリギャリ!!



唐突な摩擦音。


音の方を向くと、そこには既に目前まで迫った車、



ゴッッッ…!


鈍い音




天地がひっくり返った……




そんな感じがした。



一瞬の浮遊感も束の間



ゴッッ…


ズッザザザザアアア!!



思考を置き去りにして俺の体は地面に叩きつけられる。




視界には灰色の空と、そこから落ちてくる粉雪が見えた。



「ゔゔゔ…ぁああ"あ"」



そして体に漸く痛覚が追いついてきた。



痛い…痛い…痛い!…苦しい…


上手くしゃべれない。というより息がしにくい。肋骨も折れているのが感覚で分かる。折れた肋骨が肺に刺さったってとこだろう。


後頭部からは異様に熱を感じる。頭部からの大量の出血が原因であることは容易に分かった。


視界も思考もぼんやりとしてきた。血が足りないんだろう。


辺りの人々がざわついてこちらを見ている。1人の老人があおざめた顔でこちらに駆け寄ってきた。



すぐに分かった。



コイツか…俺を轢いたのは…


ジジイじゃねえか……早く免許返納しろや……


ちゃんと冬タイヤにしてたのかよ……


何やら俺に向かって叫んでいるが、よく聞こえない。


意識も朦朧としてきた……



こんな時に思い出されるのは……



---------------------




「お前さぁ、進路とか考えてんの?」


ピシュン、ピシュン。カチャカチャ…ピシュン!



クリアを頼まれたボス戦に挑みながら、岡崎に尋ねた。視線はゲーム画面から離さない。



「おい、ちゃんとボスに集中しろよ。負けるぞ。」


「あー大丈夫。ちゃんとやるから。で、どうなん?」



「ぜーん、ぜん。まあ、そういう時期になったら未来の俺がなんとかするっしょ。おお!今のよく避けたな!俺いっつもそこでやられんだよ〜。」



未来の俺って…。呑気なもんだ。まあ、ゲームしといて俺が言えることでもねぇんだけど。



このまま何も考えずにダラダラ過ごしていたい、なんて願望は叶わないもんかねぇ〜。



デデーン、ドゥドゥンドゥン!



重低音と共に映し出されるのは見慣れたコンティニュー画面!


「うおぉい!今のはいけただろぉー」


「うるせぇなぁ、文句言うなら自分でやれよなぁ」


「自分でやるよりも上手いやつのプレイ見てる方が楽しいの、さぁ、リベンジ頼むぜ!もうこのゲームオーバーのBGM飽きたから。」



「またかよぉ…もう俺のプレイ見てそろそろ覚えたんじゃねえの?w」


このボス戦は何回挑戦したんだろう。死んでもまたコンティニューのくり返し。


人生もすぐにコンティニューできるなら、何度も学生時代を繰り返してみたい。


あー、でもそのためには死ななきゃならんのか。痛いのはやだな。



「岡崎、もし死に方選べるとしたらさぁ、どうやって死にたい?」



「なんだよ、唐突に」


全く今までの会話につながらない質問に困惑した様子だ。


一応俺の思考の中ではつながっているのだが。



「まあ、痛いのはやだよなぁ」


「同感」



「…軽い病気とかかな。それも余命何年とかは宣告されたい。」


「なんで?」


「だって考えてみろよ。もし自分が余命1年とか言われたらどうする?勉強なんかするか?」


「する訳ないだろ。ずっとゲームしたり、マンガ読んだり、今みたいに友達の家で遊ぶかな。やりたいことしかしないな。」


「だろ!しかもそれを合法的にできる。親や友達も協力してくれるだろうな!全力で。普段なら食えない物食わしてくれたりとかいけない場所まで連れて行ってくれる。そのまま幸せ絶頂で死ねたら最高だよな。」


「確かに、最高だな!」


岡崎の話に俺もなんだか高まってしまった。


「あ…でも、1年じゃ、短いな。今読んでるマンガ1年じゃ完結しないじゃん。その最終回読むまでは死ねないな。」


「そっか、それはやだな。……俺も童貞卒業するまでは死ねねえわ!」


ニカッと笑った岡崎の口から白い歯が除く。



「おお…それは死ねねえなw」




----------------





狭い部屋の中で岡崎と2人で談笑した記憶……





なんでこんなしょうもないことなんか思い出したんだろう。


こんなふうに道路に横たわって空を見上げたことなんかなかったから、新鮮な感じだ。



降る雪が全て自分に向かって降ってきているようだ。いや、雪どころか灰色の空全てが自分に向かって落ちてきているような。



もう、自分の体のことは分かる。


俺はじきに死ぬ。車に轢かれたんだ。



直接の死因は頭部の激しい打撲による出血多量だろう。


このまま雪が俺の死体を隠してくれそうだ。



あぁ、眠い。このまま眠ればもう起きることはないのだろう。



岡崎にまだメール返してねえや。既読無視されたと思われてんだろうな。


もっと岡崎や、クラスの奴らと遊びたかったなぁ。


父さん、母さん…、アニキ…


あぁ、瞼が重い。


もう、意識が……。



----------------



『コンティニューしますか?』


   『はい』・『いいえ』





ん…なん、だ、これ?……とりあえず…



     『はい』



『イレギュラーモードが解禁されました』


『イレギュラーモード01


<深淵王子>

がプレイ可能になりました』



『コンティニューするモードを選んでください』


『ノーマルモード』



『イレギュラーモード01<深淵王子>』





何が何やら……普通にノーマルで……



………深淵王子?………



もう、いいや。


好奇心の赴くままに。



『イレギュラーモード01<深淵王子>』



『イレギュラーモード01<深淵王子>が選択されました。モードの情報をダウンロードします』





『ダウンロードが完了しました





ー世界の構築を開始します。』










自分が死んだら最後に何を思い出すんだろうか。

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