ケイの卒業祝いとフォラス達の婚姻の宴
フォラスの店に着くと、ボギーが俺達を迎え入れた。
「本日に限って当店はルキフェル様の貸し切りとなっております。ケイ様とフォラス様にとって、めでたい日でありますので、どうぞ楽しい時間を心ゆくまでお過ごしくださいませ。」
(ん? フォラスのめでたい日……って、もしかして!?)
俺がフォラスを注視すると、彼は素知らぬ顔でそっぽを向いた。
(なるほど……サプライズってことか)
色々と察した俺は笑顔で頷く。
それを見たボビーは優しげに笑いながら、俺とアリシアをルキフェルとヒルデの居るテーブルに案内した。
着席した後、俺はルキフェルとヒルデに深く頭を下げる。
「本日は俺の卒業祝いをして頂いて、ありがとうございます。」
ルキフェルは鷹揚に頷きながら、嬉しそうな顔で俺を見た。
「ノクターンとの修練を覗かせて貰ったが、素晴らしい魔術を編みだしたものだ。あれを使われた魔術師は、なすすべもなくケイの前に倒れるだろうな。」
「相殺の魔法を自分の間合いに使えないかと考えてみただけのことです……あそこまで上手くいくとは思っていなかったんですけどね。」
「それに、ノクターンの鎌を二度も損傷させるとは、たいしたものだな。我もあの者と戦ったことがあるが、まともに攻撃を当てることが難しかったのだぞ。」
「そうだったんですか。なんだかそう言われると嬉しくなりますね。」
俺が素直に喜んでいる中、ヒルデが笑顔で俺に話しかけてくる。
「フェンリルに続いて、フォラスとノクターンの間を取り持つなんてね……ケイは今や一部の魔族からは《愛の繋ぎ手》なんて呼ばれているのよ。」
(《愛の繋ぎ手》って……むしろ俺とアリシアの愛をもっと進展させたいよなぁ)
俺はもっとアリシアと進展したときのことを想像して鼻の下を伸ばすと、ヒルデは微笑してアリシアに言った。
「私としては、もっとアリシアが積極的にアピールすべきだと思うのよ。ケイはちょっとエッチだけど、自分から押せるタイプじゃないと思うの。」
アリシアは顔を真っ赤にしながらヒルデに抗議する。
「私達には私達のペースというものがあるんです! ケイも私もお互いに好き合っているので、大丈夫です。」
ヒルデは俺を一顧した後、悪戯っぽい笑みを浮かべながらアリシアに告げる。
「そうは言ってもねぇ……私の時もそうだけど、良い男って放っておくと悪い虫が一杯寄ってくるのよね。」
アリシアが眉をピクリと動かした瞬間、ヒルデがとんでもない一言を放った。
「作っちゃおうか……既成事実! ちょうどフォラスの店だし、良い機会じゃない?」
アリシアが顔から蒸気が出そうなくらい真っ赤になって目をぐるぐる回す中、ルキフェルがヒルデを窘める。
「あまりアリシアをからかうでない……確かにヒルデは積極的だったが、アリシアには恋愛というものをもう少しさせてやりたいのだ。それに、娘と結婚させることを周囲も納得しなければ、内乱にもつながるのだぞ。」
ヒルデは呆れたような顔でルキフェルを見て、問いかけた。
「ケイはこちらに来てから一年も経たないうちに、亜人の地位向上、ヴァルハラの改善、デイヴィットの討伐、クロノスの勇者と賢者を平和的にこちらに恭順させて、フォラスとノクターンの婚姻をつなぎました。これ程の功績を立ながらもまだ納得しない者は、どうすれば納得するというのでしょうか?」
ルキフェルが困ったような顔をする中、フェンリルがロランを連れて挨拶に来た。
「ケイ! 俺にロランを推薦してくれてありがとよ。こいつは中々やる奴でな……相殺の魔法は中々難しいようだが、それ以外の技術がやべえレベルで高い。しかも、仲間との連携が異様に上手いから、一日で周りに馴染んじまっったよ。」
「ケイ様がフェンリル様に引き合わせてくれたおかげで、これほどまでに充実した時間を過ごせるようになったよ。リオン殿も良い方で、俺に亜人について色々と教えてくれるのだ。」
「それは良かったですね。今度、リオン行きつけの《女豹》という良い店があるので、一緒に行きたいですね。」
「ほう……そんな店があるとは。是非その時を楽しみにさせて貰うとするよ。」
「そういえば、ケイの奥義を糞爺に見せて貰ったが……あれは凄かった。俺の《魔術師殺し》をあれほど上手く使いこなされると、少し嫉妬したくなってくるな。」
「あれはフェンリルの教え方が上手だったからだと思っていますよ。おかげで魔法の習得もかなりスムーズに出来ました。」
話が盛り上がってきたところで、ルキフェルがすっと立ち上がって周囲に聞こえるように告げる。
「さて、それではケイの修練の卒業を祝おうと思う。」
店の水晶玉にフェンリルとノクターンからしごかれている俺の様子が映し出されて、フェンリルとノクターンが笑みを浮かべてみている。
一方、ロランとアルケインは若干引き気味だが、尊敬がこもった眼差しで俺を見つめているようだ。
ルキフェルは優しげな笑みを浮かべて俺を立たせた。
「一年と経たないうちに、ケイは申し分の無い実力を身につけつつある。だが、それに奢ることなく自分の実力を向上させるよう努力するのだぞ。」
俺はルキフェルの言葉を受け、深く一礼する。
「ありがとうございます。これからも精進致します。」
ルキフェルは満足げに頷くと、ノクターンを呼んだ。
「さて、ケイがロランとアルケインをこちらに引き入れたのは皆が知るところだが、彼はその褒美にノクターンとフォラスの婚姻を願い出た。フォラスたっての願いで、今回の件の関係者と身内のみで内密に祝うことにするが、どうしてもノクターンの身内より贈り物をしたいとの申し出があってな……」
ノクターンが不思議そうな顔をする中、入り口が開いてフォラスの弟子の魔女達とオベロンが現れた。
「姉さんがフォラスと結婚すると聞いてね、妻にドレスを作らせたよ。」
オベロンの言葉と共に、美しいプラチナブロンドの髪を綺麗に結い上げた女性が進み出る。
彼女の手は淡く黄金色に輝くドレスをノクターンに手渡すと、花開くような微笑みをして礼をした。
「義姉様、おめでとうございます。五百年越しの愛の成就……本当に素敵ですね。」
ノクターンは嬉しげな顔でドレスを受け取りながら女性に笑いかけた。
「ティターニア……ありがとう。私もこんな日が来るなんて思いもしなかったわ。」
俺は呆気にとられてルキフェルを見る。
「えっ……オベロンがノクターンの弟……しかも奥さんも居たんですか?」
「そうだ……元々、ノクターンは《精霊魔女》を統べる者だった。今は彼女の義妹のティターニアがそれを務めている。そして、フォラスの弟子となっているニンフは元々はノクターンの直属の親衛隊として働いていた者達だ。」
(何気に、ノクターンって精霊の中で高位の存在だったってわけね)
ノクターンは更衣のために、ティターニアとフォラスの弟子の魔女達と共に一度退出する。
しばらくして、眩く輝くドレスを纏ったノクターンが、ティターニアに手を引かれて戻ってきた。
金色のドレスの光がノクターンの青白い髪や半透明の体を綺麗に照らし、彼女の美しさを際立たせる中、フォラスがノクターンに近づいて手を取った。
「精霊女王のドレスじゃな……昔を思い出すのう……」
「そうね……このドレスを着ていた頃を思い出しちゃうわね。かつて、敵として戦っていた貴方と私が夫婦になれる日が来るなんて……夢みたいだわ。」
二人はルキフェルとヒルデの前に進み出て、静かに傅く。
「我ら夫婦となりましても、ルキフェル様への忠節を忘れずに職務に邁進致します。」
ルキフェルは威厳を込めて周囲の者に告げる。
「そなたらは長い苦難の時を経て夫婦となる。物事には相応しき時があると言われているが、今がその時だったのだろうな。敢えて言う必要も無いと思うが、永遠の時を共に生きる者として末永い幸せを願って居るぞ。」
フォラスとノクターンが嬉しげな顔で頷く中、ルキフェルが俺の方を向いて何か言うように促した。
(ええっ!? また俺が何か言わなくちゃいけないの?)
相変わらずの無茶ぶりに戸惑いなからも、俺はフォラスとノクターンの前に進み出て、祝いの言葉を伝えた。
「俺よりもずっと永き時を過ごしてきた二人に、定命だった頃の俺の言葉を贈りたいと思います。俺が前世で心がけていたことなのですが、日々を良く生きる様にしました。一日を大事に、その日が良くない日だったとすれば、一週間後に満足いく日に出来るように……そうして時を重ねた後、幸せになれれば、その積み重ねた日々のおかげで良くなったと思えるでしょう。」
俺は一呼吸置いた後、彼らに優しく笑いかけた。
「さて、本日はフォラスとノクターンにとって、その幸せになれた日と言えるでしょう。これからは二人で一緒に時を歩んでいくことになりますが、力を合わせてさらなる幸せを掴めることを心から願っています。」
フォラスが笑みを浮かながら俺の肩を叩く。
「ケイは時々、哲学者のような考え方をするのう……じゃが、今の言葉は気に入った。贈り物としてありがたく受け取っておくぞ。」
そして、ノクターンを抱き寄せて熱い抱擁をしながらキスをする。
店中が祝福の歓声に沸く中、フォラスとノクターンは幸せそうに笑っているのだった。
本作を読んでいただきましてありがとうございました。
これにて第三章は完結となります。
閑話を入れた後に第四章に移りたいと思いますので、引き続き本作をよろしくお願い致します。
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