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ナロウワークでの会談2

 俺は机に広げた資料をロラン達に見せながら説明を始めた。 


「まず初めにロラン様につきましては、亜人を統括するフェンリルの副官として武術顧問を務めて頂きたいと考えております。また、シレーニの酒蔵での作業を通じて亜人の地位向上の業務も兼務して貰いたいとと考えております。」


 ロランは俺の提案に興味深げな顔で問いかける。


「何故その業務を俺に任せたいと思ったのか、教えてもらえるかな?」


「現在、亜人を統べるフェンリル様は武官業務から統括業務全般になったため、武官としての業務に滞りが生じております。数々の戦いを乗り越えられたロラン様に武官を纏めて頂き、治安維持と亜人の結束の強化をお願いしたいと考えてます。また、シレーニの酒は今や亜人の象徴となっております。酒に対する作業に感銘を覚えてくださったロラン様こそ、亜人の地位向上のために必要な人材と考えた次第にございます。」


ミカエルは驚いたような顔で、俺に問いかける。


「幹部ではなく副官扱いだと!? しかもあの《半端物》共の為に働かせるとは……ケイ殿は正気とは思えぬな。」


「いえ……俺は至って真面目に話をしているつもりです。本人の適正と能力に応じて、やりがいがある仕事を提案したに過ぎません。」


「確かに、その扱いであればクロノスに対する影響は、亜人との摩擦に限定されるだろうが……勇者がそれをのむとは到底思えぬな。」


「とりあえず、アルケイン様の分の説明もしてもよろしいでしょうか?」


 ミカエルが頷いたので、俺はアルケインに向き直って説明を始めた。


「アルケイン様につきましては、死霊を統べるノクターン様の副官として魔術研究に務めて頂きたいと思います。また、ヴァルハラの工房での技術をアルケイン様が習得し、それをエリシオンの工房の職人に伝授する役務もお願いしたいと考えております。」


 アルケインは静かに頷くと、俺に尋ねた。


「ノクターン様は死霊の始祖と言われ、数多もの魔法を使われると聞いておりますので、魔法研究については納得できます。ですが、ヴァルハラの技術をエリシオンの職人に直接伝えないのは何故かを、教えて頂いても良いでしょうか?」


「ヴァルハラの職人達は真摯に技術を磨き続けて、名工の域にまで達する者も少なくありません。ただ、直接その技術をエリシオンの職人へ伝えてしまうと、死霊化に魅力を持つ者が出てくるかもしれないのです。その為、アルケイン様にヴァルハラの技術を学んで頂き、エリシオンの職人を指導する形でその技術を活かしたいと考えております。」


 アルケインは納得した表情で俺の説明を聞いたが、ミカエルが呆れた顔で俺に告げる。


「全く馬鹿げているな……《死神》のような汚らわしい者と関わらせる上に、カビ臭いヴァルハラの地で骸骨や死霊共が手慰みに鍛えた技術を習わせるとはな。」


 俺はミカエルを真っ直ぐに見つめながら、真面目な顔で部屋にいる者全てに語りかけた。


「副官という立場につきましては、地上におけるロラン様とアルケイン様の影響力を考えて、クロノスに配慮しなければならないと考えた次第です。ですが、それ以外の部分については、ロラン様とアルケイン様の経験を活かして、魔王軍に貢献できる形の職務を用意させて頂いたと自負しております。」


 その上で俺はロランとアルケインに大事なことを告げる。


「恐らく、魔王軍で働いている間にも色々なことがあって、当初思っていたことと異なることが沢山あるかもしれません。だからこそ、職務を進める中で仲間を作って欲しいと思っております。ロラン様であれば修練や酒蔵の作業で関わる者。アルケイン様であれば死霊の工房やエリシオンの職人達。そして職務を進める間に他の種族の者達と接するでしょうから、その者達とも広く交誼を結び、この世界に根付いて欲しいと願ってます。」


 伝えることを全てを話した後、俺はルキフェルに確認する。


「以上が俺からの条件の提示です。ルキフェルから何か伝えることはありますか?」


 ルキフェルは鷹揚に頷くと、ロラン達に話しかけた。


「ケイが提示したことについては、遵守しよう。そして、ロランとアルケインについてはフォラスの眷属として受肉させようと考えておる。副官としての仕事の能力次第では、将来の地位の向上についても考えておるぞ。」


(あの糞爺の眷属って……大丈夫なのか!?)


 だが、ミカエルはルキフェルの言葉を一笑に付した。


「さらに二人も悪魔を増やすだと!? そんな馬鹿げたことを天界が許すわけ無いだろう! それに、私が勇者と賢者を手放すと思っているのか?」


 ルキフェルが二回手を叩くと、レディが入室した。

 ミカエルが訝しげな顔で彼女に問いかける。


「紛争以外で調停者が我らの間に割って入るのは禁じられているはずだが、これはどういうことかね?」


 レディは刀身がなくなり、柄だけになった剣をミカエルに見せる。

 ミカエルはそれを見た瞬間に凍り付いたように固まった。


「なっ……これは聖剣リュミエール……まさか、ルキフェルがこれを天界に……」


 レディは静かに頷くと、ミカエルに告げる。


「どのような経緯で、クロノスで保管されている聖剣が《ソウルイーター》デイヴィットの手に渡ったかは問いません。ですが、このような物を地上で使われたことが大きな失態となるということは、聡明な貴方なら理解できますよね? ルキフェル様は敢えてこの剣を破壊して、天界に献上することで今回の事態を収めたのです。」


 ルキフェルは静かに首を振りながらミカエルに告げる。


「ロランとアルケインの件については、すでに天界に申し出てある。その上で、天界より彼らに好きな所属先を決めさせるように指示された。」


 ミカエルが怒りに満ちた目でルキフェルを見つめる。


「人間のために地上を平定するという役務を放棄して魔物共の頭領と成り下がった貴様が、いまさら天界の僕のような口を開くでない!」


 レディが厳しい声でミカエルを叱責した。


「ミカエル様は天界の意思を無視されるということでよろしいでしょうか? それならば、デイヴィットの件も含めてクロノスを罰することに致しましょう。」


 ミカエルは悔しそうな顔をしたが、渋々とロランとアルケインへ好きにするように指示をする。

 彼らはルキフェルに深く礼をして、はっきりとした声で宣言した。


「私達はルキフェル様の下、魔王軍で未来永劫の忠誠を誓います。」


 その瞬間、彼らの体が抜け殻のように崩れ落ち、二つの光り輝く虹色の珠がルキフェルの手に収まった。

 ルキフェルは慈しむようにその珠を優しく包み、レディに頭を下げた。


「調停者の手を煩わせたことを深くお詫びする。天界の方々によろしく伝えて欲しい。」


 レディが優しげな表情で頷く中、ロゼッタが俺とアリシアに向かって叫んだ。


「貴女さえいなければ……ロランは私の夫になる素養があるかもしれなかったのに! 最愛のケイを殺して魔王軍に引き入れ、さらに彼を使って地上で勇者や賢者を堕落させた……やっぱり貴女は《男殺し》で世界に不幸をもたらす存在だわ!?」


 俺がロゼッタに反論しようとしたのをアリシアが静止して、凜とした態度でロゼッタと対峙した。


「ケイはそんな《男殺し》の私を心の底から愛してくれています。ロゼッタ様にもそのような方が見つかることを心より願っております。」


 アリシアは深く一礼をした後、俺の手を優しく取る。

 レディが厳かな声で部屋の全員に告げた。


「それでは、今回の件につきましてはこれで終結させて頂きます。天界は地上の平和を心より願っていることを忘れずに、各々の職務を全うしてください。」


 ルキフェルは深く頷くと、ゲートを開いて俺の肩を叩いた。


「よくやってくれた……おかげで上手く話がまとまった。」


 俺は笑顔で頷くと、アリシアと共にゲートを通って地上へと戻るのだった。

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