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勇者達の処遇

 ロランとアルケインがエリシオンに来てから三日ほど経った。

 アルケインが陶磁器などに興味を示していたため、シレーニの伝手を使って工房の見学をさせ、陶芸家との交流もさせたりもした。


 三日目の夜、皆で一緒に食事をしている時、ロランがおもむろにアリシアへ問いかけた。


「ぶしつけな質問となりますが、アリシア様はケイ殿のことを本当に好いている様に見られます。彼のどこに惹かれたか教えていただけませんか?」


 アリシアは途端に耳まで真っ赤になって、俺を見ながら固まってしまう。

 耳ざとくそれを聞きつけたサルマキスが、ロランを優しく窘めた。


「ロラン様、女性にそれを聞くのは野暮というものですよ。さて、仮定の話になりますが……アリシア様はケイ様が魔王軍の幹部を辞めてしまったら、彼との婚約はどうするつもりでしょうか?」


 アリシアは不思議そうな顔をしながら、サルマキスの問いに答える。


「私は別にケイが幹部だから婚約したわけではありませんよ? 彼の人柄に惹かれたのですからね。」


 フェンリルが静かに首を振って、アリシアに問いかける。


「義母の質問にすこし補足させてもらいますが……アリシア様はルキフェル様のご息女という立場です。だから、ケイが婚約者としてふさわしい者だと周囲に認めさせなければならないと、糞爺(フォラス)は考えているわけです……万が一の話ですが、周囲の者達が結婚に反対した場合、アリシア様はどうなされるおつもりですか?」


 アリシアは強い意志を持った目でその問いに答えた。


「例え、お父様やお母様が反対したとしても、私はそれをねじ伏せてでも結婚するつもりですよ。」


 ロランはアリシアの言葉を聞き、どこか納得したような顔で頷いて、彼女に深く頭を下げる。


「ありがとうございます……本当にアリシア様は真っ直ぐな方ですね。」


 そして、俺の方を見て微笑した。


「ケイ殿は幸せ者だな……アリシア様の心を完全に掴んでいる。」


 俺は隣にいるアリシアの手を優しくとって穏やかな顔で頷く。


「ありがとう。俺は魔王軍に転生して色々とあったけど、彼女や仲間にも恵まれて幸せに暮らしているんだ。前にも伝えたけれど、ロラン様達にも同様に幸せに暮らして欲しいと願って居る。君達は、前世で自分の身を捧げて世界を救ったんだ。だから、次の人生は自分のために生きて欲しいと思ってるのさ。」


 ロランとアルケインは俺の言葉の意味を噛みしめるように聞くと、すっきりとした顔で手を差し出した。


「思えば、俺達が使命を成すことのために配慮してくれる者は多かった……だが、俺達自身の幸せについてそこまで考えてくれる者は居なかったと思う。クロノスに戻った後、一度ロゼッタとよく話し合ってみるよ。」


 俺は彼らの手をしっかりと握って励ますと、フェンリルがおもむろに俺の後ろに来てバシバシと背中を叩いた。


「実はな……俺もこいつに助けられたクチでな。仕事も結婚もこいつのおかげで上手くいったのさ。アレトゥーサ! お前もそう思うだろう?」


 フェンリルがアレトゥーサを呼んで、ロラン達に自分たちのなれそめ等を話していく。

 彼らが笑いながら俺を見てくるので、気恥ずかしくなって手元の酒を一気に開けた。

 そんな俺のことをアリシアはとても優しげな顔で見つめているのだった。



 * * *



 次の日の朝、ロラン達はクロノスに戻っていった。


 それから二週間ほど経った頃、俺とアリシアはルキフェルに呼び出された。

 大広間に行くと、悩ましげな顔をしたルキフェルがフォラスと何かを協議しているようだ。

 ルキフェルは俺に気づくと、申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。


「ケイよ……勇者と賢者が魔王軍に亡命したいと申しておる。」


「ええっ!? 亡命ってどういうことですか! 普通に魔王軍に編入って形になるんじゃないんですか?」


「我も本当に勇者達をケイが説き伏せるとは思っていなかったのだが……人間の勇者は多大な力を持つ者故、それを持って魔王軍を牽制すると言う意味合いも持っている。その力を持つ者がこちらに編入することで魔王軍の力がさらに増大してしまうと、クロノスの王が難色を示しておるのだ。」


「ロランとアルケインはどう言っているのですか?」


「抑止力としての力として求められていると知っていれば、転生しなかったと申しておる。我としては迎え入れてやりたいのだが……対応を誤れば人間との全面戦争となりかねないのだ。」


 ルキフェルの話を聞いたアリシアが怒った顔でルキフェルを詰った。


「お父様は、ケイが勇者達を勧誘したら迎え入れると言っていたではないですか! 今更その言葉を覆すのですか?」


 ルキフェルが困った顔で俺を見るので、俺はアリシアの肩を優しく叩いて落ち着かせる。

 そして、ルキフェルに優しく問いかけた。


「ちなみに、ルキフェルはこちらに編入した後、彼らをどう処遇するつもりだったのですか?」


「転生者で、こちらに恭順の意思を持っているとなれば、幹部待遇で迎え入れるつもりだ。ケイのように独立した業務を与えるつもりで考えているぞ。」


「なるほど……ちなみに、幹部の側近という形ではいけませんかね?」


「む……どういうことだ? それで問題が解決するというのか。」


「幹部の側近にすることで、彼らの人間に対する影響は所属する幹部に関係する事件が発生した時に限定されるというわけです。そういった形でこちらが譲歩して、クロノスを交渉のテーブルに着かせればよいのではないでしょうか?」


 ルキフェルはフォラスに俺の案についての意見を聞く。

 フォラスは笑みを浮かべて俺に問いかけた。


「勇者と賢者はその案を飲むと思っておるのか? 前世で英雄だった者が、他の者の下に甘んじるとは到底思えないのじゃが……」


「その勇者と賢者って呼び方、やめませんか? 彼らにはロランとアルケインという名前があり、紛れもなく一人の人間なんです。」


 ルキフェルは考え込んだ後に、意を決したように俺達に告げた。


「むぅ……我はロラン達と《ナロウワーク》で一度面接をすると言うことで協議をしようと思う。ケイも我と共に来てくれるだろうか?」


「えっ……俺も行っても良いんですか!? あそこって基本的に世界を統括する人が行くんですよね?」


「今回のような件は初めてなのでな……それに関わった当事者も招集した方が良いだろう。クロノスの王も呼ぶので、忌憚なく話をするべきだと我は考えておる。」


 俺は頷くと、ルキフェルにもう一つ提案をすることにした。


「ロランはフェンリルの下で武術顧問と酒の製造、アルケインはノクターンの下で魔術の開発とヴァルハラの技術をエリシオンへ継承させる役務をやらせてみたいのです。もちろん当人同士の合意が必要だと思うのですが、フェンリルとノクターンに伝えておいてもらえるでしょうか?」


 アリシアが笑顔でルキフェルに伝える。


「私も彼らと一緒にエリシオンで過ごしましたが、ケイの案は的を射ていると思います。おそらくロラン様とアルケイン様はその案を受け入れると思いますよ。」


 ルキフェルは微笑して頷いた。


「いいだろう……フェンリルとノクターンにはその案を伝えておこう。後はケイの交渉術次第だな。」


「ご期待に添えるように尽力しますよ。」


 一通りの方針が決まった後、フォラスが笑みを浮かべて俺の肩を優しく叩いた。


「体はもう大丈夫なようじゃのう? 儂の方も謹慎という名の休暇を満喫させてもらったぞ。」


「ソウルイーターの件、ありがとうございます。そういえば、ノクターンは元気にしていますか?」


「あやつは、しょげかえっておったわ。ケイの実力を見くびっていたせいで危険な目に遭わせたとな……この件が落ち着いたら、会いに行ってやってくれぬか?」


「もちろんですよ。それに、もしかしたら新しい弟子が出来るかもしれないんですから、しょげかえっている暇なんて無くなると思いますがね。」


「それもそうじゃな……上手く話がまとまることを願っておるわい。」


 俺は笑顔で頷くと、ロラン達との面接の準備に取りかかるのだった。

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