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ソウルイーターとの対峙

 広場に駆けつけると、ひときわ強い気配を醸し出している端整な顔立ちをした男とグール達が俺達を待ち受けていた。

 男の背丈は俺と同じくらいで、綺麗に結わえられた美しい銀髪を月光に輝かせている。

 そして猫のようによく光る黄金の目で、油断なく周囲を見渡していた。

 明らかに高級な感じがする貴族風の服を着た彼がマントをたなびかせる姿は、とても絵になる。

 だが、彼から発せられる禍々しい気配は、外面の美しさとは裏腹に、なんともいえないおぞましさを感じさせた。


 俺が彼に声をかけようとしたその時、別方向から勇者ロランとその仲間達が広場に現れた。


(勇者が来ていたのか……ややこしいことにならないと良いなぁ)


 前回のオーベストの村での一件があったので、俺は若干警戒しながらロランに話しかける。


「グールが出現したとの報告を受けて、対処に参りました。出来れば、共闘していただければ助かるのですが……」


 ロランは俺の顔見て少し複雑な顔をしたが、かぶりを振って叫んだ。


「貴様らの仲間が不死なんかになったから、このような存在が生まれたのだ! そのような汚らわしい奴らの手を借りるつもりなど無い……早々に帰るんだな。」


 端整な顔立ちをした男が、俺達のやりとりを見て肩をすくめる。


「天使や悪魔に我らの苦しみが分かるわけが無いだろう……そして、その勇者も戦乙女に騙されてこの世界に来たことが分かっていないのだ。」


 ロランが怒りに道が顔で彼を怒鳴りつける。


「デイヴィット! 《魂食鬼(ソウルイーター)》無勢が、詭弁を並び立てるな。貴様は元勇者の風上にも置けぬ振る舞いをして、人々を悪の道に誘い込んだ極悪人だ。今生の勇者の俺が貴様を無に帰してやる。」


 デイヴィットはロランを侮蔑の表情で見ながら言い捨てた。


「弱い犬ほど良く吠えると言うらしいが……それは本当らしいな。自分が飼い慣らされた使い捨ての番犬程度の存在だということが解って居ないと見える。ところでおまえの隣にいる半神(ロゼッタ)は何歳なのかな?」


 ロランは不思議そうな顔でロゼッタを見た。


「ロゼッタ……君は半神だったのかい? 俺は全くそんなことを聞いてなかったんだが。」


 彼女は一瞬顔を歪めたが、ロランに優しく伝える。


「そうね……王族である私は半神よ。そして勇者である貴方もそう……でも、それがどうしたというの? 天界に仕える者として、それに親しい者に転生するということ自体に何も問題は無いと思うわ。」


 デイヴィットはそんなロゼッタを嘲笑する。


「ロゼッタ……君は相変わらず口が上手いな。その勇者の寿命はあと何年ぐらい残っているのか、私にも教えて貰いたいものだよ。」


 ロランが愕然とした顔でロゼッタを見つめた。

 彼女は逡巡したような顔をしたが、真っ直ぐ彼の目を見て言った。


「貴方は《ドーダ》の面接で、この世界の人間の為に身命を賭して戦うと意気込んでいたではないですか。今更その言葉を翻すというの?」


 二人のやりとりを見ていた賢者のアルケインも、動揺した顔でブツブツと呟いている。

 デイヴィットは困惑している勇者達に優しげな顔で話しかけた。


「ロラン、そして仲間の賢者よ……私はおまえ達を裏切らぬ。我の眷属となって永遠の時をともに過ごそうではないか。」


 俺は彼らのやりとりを見て、心底呆れた顔で溜め息をついた。

 そして無造作にデイヴィットに向かって《浄化刃》を放つ。

 彼は余裕を持った動きでそれを躱して俺を見た。


「魔族は礼儀という物を知らぬ……不意を突けば、私を滅することが出来るとでも思ったのかな?」


 俺は首を振って周囲のグール達に問いかける。


「グールになった時点で、死んだらもう転生することが出来なくなることは知っているんですよね? そして、デイヴィットの胸先三寸で腐り果てて死んでいくことも……」


 一部のグールは『何を当然のこと』をという顔をしていたが、少し豪奢な服を着た男を初めとした者達は、焦ったような顔でデイヴィットに詰め寄った。


「そんな話は聞いていないぞ!? 私達は永遠の若さと力を得ることが出来ると言うから、この街を犠牲にして貴方に忠誠を誓ったのだ。この者の話では、命を枷に貴方の奴隷になるような物ではないか!」


 デイヴィットは冷たい目でグール達を見る。


「貴方達はグールになるときに、私へ永遠の忠誠を誓ったはずではないのか? それとも、私に従えない理由があるとでも言うのでしょうか。」


 俺はデイヴィットを胡乱げな目で見ながら、グール達にさらに問いかけた。


「貴方達が魂を集められなくなったらとしても、デイヴィットは永遠の若さを与えてくれるのですか? ロジーという美しいグールが、半ば捨て駒のように扱われたのを見ていると、そうは思えないんですがね……」


 デイヴィットは呆れた顔で首を振る。


「私は何も嘘は言っていないつもりだが? その者達は永遠の若さと力を得る代わりに、私のために働くと決めたのだ。働けなくなった以上は対価を与えない……それのどこに問題があるというのだ。」


 彼の言葉に、この街の者だったグール達が殺気だった。

 だが、デイヴィットは冷たい目で彼らに宣告する。


「自分の愚かさを棚に上げて、私に刃向かうつもりか? 私がそなたらへの繋がりを切れば、程なくして体が腐り果てて土に還るだろう。そこの悪魔が言うとおり、永遠の無に帰すことになるが、それでも良いならば刃向かってくるが良い。」


 グール達が絶望した顔をするのを見て、俺は彼らに少し哀れみを感じると共にソウルイーターの言い草に腹が立ってきた。

 だから、あえて言わなかったことを彼に告げることにする。


「確かにグールに対するデイヴィットの考え方にも、一理あるでしょうね。」


 デイヴィットは感心した顔で俺を見た。

 俺はそんな彼に心底哀れだという顔をして告げる。


「だが、不死に憧れてノクターンの模倣をした結果、失敗した貴方も結局はグールと同じ……いや、他人にその失敗を解っていながらさせる時点で、それ以下の存在なんでしょうね。」


 デイヴィットはそれまでの尊大な態度を一変させて、怒気に満ちた顔で俺を怒鳴りつけた。


「黙れ! 貴様のような下賤な悪魔に、私の気持ちが分かるとでも言うのか?」


「前世で素晴らしい功績を立てたんだろうってことは、なんとなく解りますが……この世界では不誠実だったんだろうなって想像が容易につきますね。」


 俺は、グール達によく聞こえるように大声でデイヴィットを罵り始める。


「大体、グールに偉そうなことを言っている割に、貴方だって約束守れてないんじゃないのですか? ロラン様にそこの王女とのやりとりを偉そうに講釈しているってことは、同様のやりとりを面接の際にしたんでしょうね。そして、それをきっちりやらずに不死の失敗作と成り果てた。どの口を下げてグールに説教できるか教えて欲しいものですよ。」


 グール達が疎ましげな目でデイヴィットを見始めたところで、彼は激昂した。


「私をそんな目で見るなあぁぁぁぁぁ!? 私はお前達のために、永遠の若さと力を与えてやったというのだぞ……」


 俺は彼の言葉を遮って、軽蔑した顔で告げる。


「自分のためでしょうが? そもそも自分で魂を集めれば良いのに、他人にやらせてる時点で卑怯だと思うんですがね。少なくともノクターンは、頼んでもいないのに勝手に不死になった者達の尻拭いをするために今でも頑張っている……本当に良い迷惑ですよ。」


 デイヴィットを周囲のグール達が恨めしげな目で見始めたが、彼らの体が腐り始めた。

 そして、断末魔の悲鳴を上げるグールの体から美しい光の粒子が放出される。

 デイヴィットは右手を天に向かって掲げてそれを吸い込むと、酷薄な笑みを浮かべた。


「誰のおかげで不死になれたかが解っていない……下賤な悪魔にそそのかされて私を裏切るような存在は、もはや害悪でしかないな。」


 そして、もの凄い威圧感と共に美しい白銀の剣を抜いた。

 アリシアが焦ったような顔でロゼッタに向かって叫ぶ。


「あれは聖剣リュミエール!? 天使や悪魔すら消滅させることが出来る禁忌の武器を、何故デイヴィットが持っているんですか!」


 ロゼッタは目を伏せて何も答えない。

 代わりにデイヴィットが笑みを浮かべて俺に告げる。


「この剣の魔力を受ければ、たとえ貴様だろうが消滅するだろうな……私に対する数々の非礼の報いを受けるが良い。」


 彼はそう言い放つと、剣に魔力を込めて白銀に輝く魔法を放ってくるのだった。

本作を読んでいただきましてありがとうございました。


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また、今後の参考にもしたいので評価や感想・レビューを頂ければ、とてもありがたいです。

より良い作品が書けるように自分のベストを尽くします。


最後になりますが、

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