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招かれざる客

 それからまもなくして、店は開店した。

 ちなみに俺達は、店の中全体が見渡せるVIP席に案内されている。


(何というか贅沢すぎて落ち着かないなぁ……)


 根っからの平民の俺には、こういった場所はあまり慣れていないので尻がこそばゆい。

 そんな俺を見たフォラスが、悪戯っぽい笑みを浮かべて問いかける。


「ケイはこういう場所は慣れておらぬのかのう?」


「上司に連れられてたまに行くことはありますが……なにぶん薄給だったもんで、あまり行く機会には恵まれなかったですね。」


 一方のアリシアはと言うと、こちらは物珍しさに色々と観察しているようだ。


「色々な方が来ていらっしゃるのですね……あら? あの方はかなり身分の高い方の奥方様ではないですか。」


 フォラスが目を細めてアリシアに告げる。


「ここは、身分の高い方のサロンとしても使われることがありますのでな。そういった方々が、個人で利用されることもあるのですぞ。」


 店の客層は着ている服からして、確かにかなり身分の高そうな者が多いようだ。

 それ故か、インキュバスに対する態度が結構きつめな者も多い。

 だが、雰囲気が悪くなる前にボギーが見事にサポートに回り、彼女らの気分を良くしている。


(やっぱりボギーは仕事が出来るんだなぁ)


 そんなボギーの対応に感心していると、女性達の大きな笑い声が聞こえてきた。

 どうやらファウヌスの居るテーブルのようだ。


「そこで俺がグイッと腰を突き上げると、どうなると思う?」


 彼は自慢の下半身を誇張するような体勢で笑いを誘いながらも、話の輪から外れている女性をめざとく見つけて酌をする。


「お嬢さん、少し飲み足りないみたいだよ? 俺が酒をついでやるから、一緒にお話ししようぜ。」


 彼は手慣れた様子で彼女の手を優しく握ると、素晴らしい技術で水割りを作っていく。


(おおっ!? あいつ……バーテンダーの経験でもあるのかよ!)


 女性は酒を飲んだ瞬間に目を見開いて、ファウヌスを見た。


「なんで私がこれが好きだって分かったの?」


「そりゃあ……俺にとって女性はみんな神様だからな。前来た時にどんな酒を頼んだかは、しっかり見てるつもりだぜ。」


 彼女は嬉しげな顔で、ファウヌスと話し始めるのだった。


(確かにあれなら、人気出るのも分かるよなぁ)


 さりげなく『俺はおまえのこともしっかりと見ている』が出来る上に、話のつかみ方も上手だ。

 フォラスが満足げな顔をしながら俺に話す。


「ファウヌスは女性にモテる為ならば、努力を惜しまないのじゃよ。元々酒蔵の息子だけあって酒に対する知識が深い上に、女性が好きでたまらない。ボギーの教え方も良かったが、あの者の素養もあるのじゃろうな。」


「確かにこれならスカウトもしたくなりますね。」


「まあ……そういうことじゃのう。」


 それからしばらくして会話などが円熟したところで、女達が気に入った男と二階に上がろうとした時に騒ぎが起こった。


「私こんなに頼んでないし、このお酒も飲んだ覚えはないわ!? この店はぼったくりでもしてるんじゃないの?」


 かなり気が強そうな悪魔の女性とその取り巻きが、酒で酔った顔をしながらインキュバスに詰め寄っている。

 ボギーが手慣れた様子で女性の手を取った。


「シャーロット様、私どもに何か不手際がありましたか?」


「頼んでもいないお酒をデカンタに入れられた上、飲んで良いと言った覚えがないのに勝手にこいつらが飲んでいたのよ! あんたの店はどういう教育をしているのかしら。」


 ボギーが静かに頭を下げると、女性は高慢な態度で彼に言い放つ。


「あまり度が過ぎるようなら、私のパパに報告させてもらうわ……そうなれば、貴方の主人の立場も悪くなるんじゃないかしらね。」


 周囲の客が興ざめした顔で二階へ行くのをやめていく。

 ファウヌスは残念そうな顔をしながらも、彼女らに深く礼をする。


「今日は不快な思いをさせてしまってごめんよ……俺はおめえらと話すの大好きだから、また来てくれねえかな?」


 女性達はそんなファウヌスが可愛いのか、彼にキスをして告げる。


「今日は興ざめだから二階へ行かないけど、また絶対に来るからその時は楽しませてちょうだいね。」

「ファウヌスが悪いわけじゃないのよ……この店の品格に合わないような下品な女がいけないんだからさ。」

「というか……私達と一緒にアフター行かない? 複数プレイでも私かまわないわよ。」


 フォラスが優しげな笑みを浮かべてファウヌスに言った。


「ご婦人方もそう言ってくださってるのじゃ。儂が経営するご休憩場所の《愛の巣》にでも連れて行ってやりなされ。」


 ファウヌスが嬉々として女性達の腰に手を回して、意気揚々と店から出て行く。


「今日のお詫びに、寝かさないぐらいかわいがってやるからな。」


 女性達もまんざらじゃない様子で店を出て行く。

 フォラスはやれやれといった顔で首を振った。


「ファウヌスがああやってフォローしてくれるから良いのじゃが……こういうことが続くとかなり困るというわけじゃよ。」


「あの女性を出禁にするというのは駄目なんですか?」


「こちらもそうしたいところなのじゃが、なにぶん証拠がないものでなぁ……ボトルの取り違えとか、飲んだ飲まないという話で出禁したとなれば、儂の店の評判が下がるという訳なのじゃよ。」


「なるほど……そういうことでしたか。そういえば、『パパに言いつけてやる』と言っていましたが、あの女性は身分が高いのですか?」


 フォラスは難しい顔をして頷く。


「まあ、儂の失脚を狙う者も多い……とだけ言っておくとするかの。」


 俺はそんなフォラスを見て彼の肩を叩いた。


「いつもお世話になっていますから、力になりますよ。それと、こういうことって雰囲気が大事だと思うので、ボギーと相談しながらやっても良いですか?」


「もちろんじゃ。儂も立ち会いながらやるので、遠慮無く案を申すが良いぞ。」


 俺は頷くと、フォラスの為にこの問題を解決する方法について考えることにするのだった。

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