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魔法の修行

意識を取り戻すと、アリシアが心配そうな顔で俺を抱き上げた。


「まだ、動かないほうが良いですよ。結構強い電撃だったんですから。」


(うほおぉぉぉぉ!? やっぱり膝枕は最高だなぁ)


太腿の柔らかい感触を堪能していると、いきなり地面と頭が挨拶をした。


「いてて……いきなりひどいじゃないか……」


 抗議の目をアリシアに送ると、彼女は焦った顔で首を振った

 ふと後ろに強い気配がしたので恐る恐る振り返ると、ノクターンが怖い笑顔で俺に告げる。


「修行中にいちゃつくとは良い度胸ね。太ももの感触を楽しめるぐらいには元気そうだし、もう一遍頑張ってみようか。」


「体が痺れて力が……」


 ノクターンがスッと指を動かすと、俺の尻が燃え出した。


「熱いぃぃぃぃぃ!? 俺の……尻があぁぁぁぁぁ!」


 ピョンピョンと飛びまわる俺を見て、慌ててアリシアが水魔法を俺にかける。

 『ジュウゥゥゥゥ』っという音を立てながら、何とか俺の尻から火が消えてくれた。


「ありがとうアリシア。助かったよ……ってどうしたの?」


 アリシアが気まずげに俺のほうを見て、すぐに真っ赤な顔になって目をそらす。

 フォラスが笑みを浮かべて俺に告げる。


「お尻丸出しで、しかも猿のように真っ赤じゃのう……ケイは”でりかしー”にかける男じゃな。」


「イヤアァァァァ!? 見ないでえぇぇぇぇ……」


 両手で尻を隠しながら、慌てて俺はズボンを修復するのだった。



 * * *



 痛む尻をさすって涙目になりながらも、俺はノクターンに対峙する。


「いくらなんでも、いきなり尻を燃やすのはやめてもらえませんかね?」


「ケイは厳しいほうが燃えるって師匠が言っていたのよね。それに、どのみち再生するから問題ないんじゃないのかな?」


「俺の尊厳の問題です。まだ、キスしかしてない彼女に生のお尻を見せちゃうなんて、やっぱり問題があると思うんですが。」


「うーん……お姉さんには年頃の男の子の気持ちは難しいわね……アリシアはどう思う?」


 急に俺の尻についての話題を振られたアリシアは、顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。


「しっ……知りません!? そんなマジマジと見ていないですし……引き締まっていてかっこいいと思ったぐらいです。」


(えっと……フォローありがとう……)


 色々な意味で問題がありそうな発言をしているアリシアを尻目に、俺は斧槍を構えた。


「これ以上、修行しないで話していると色々と大変なことになりそうなので、始めましょうか。」


「良い心がけね。しっかりと体で魔法を体感してイメージをつかんでいくのよ。」


(ん? 体感してイメージをつかむって……こうかな?)


 俺は先ほど受けた雷のイメージを斧槍に具現化して放ってみる。

 槍の先から雷がノクターンへ向かって放たれた。

 彼女は微笑するが、無造作に雷を大鎌で払った。


「大したものね……でも、まだまだ甘いわね。」


 その時、側方で轟音がしてフォラスが叫んだ。


「この馬鹿者があぁぁぁぁっ!? 弾く方向を考えぬか。危うく儂に当たるところじゃったぞ?」


 ノクターンがしれっとした顔でフォラスに突っ込みを入れる。


「でも……師匠って、そもそもの話……そんな攻撃食らいませんよね?」


「そういう問題じゃなかろうて……気分的に嫌なんじゃよ……」


(案外、この二人って似たような雰囲気があるよなぁ)


 俺がニヤニヤと笑っていると、ノクターンが不穏な笑みを浮かべて釜を回転させる。


「なんか余裕がありそうね……じゃあ、もう少しステップアップしていこうか。」


 彼女を中心に、息をするのも苦しくなるような氷の世界が広がっていく。

 氷の粒子が徐々に氷柱となって彼女の周りに浮遊し始めた。


 アリシアが俺に向かって警告する。


「ケイ、浮遊してください! そのままだと足が凍って動けなくなります。」


 俺は慌てて飛ぼうとしたが、時すでに遅しで足元が凍ってしまった。

 半ばやけくそ気味に斧槍を足元の氷に向かって振ると、氷がきれいさっぱり消えてなくなった。


(えっ……これも消えるの!?)


 驚いた顔でノクターンを見ると、彼女もまたびっくりした顔で俺を見ている。


「まさか……ここまできれいに打ち消されるとはね。フェンリルも厄介な技を教えてくれたものだわ。」


 彼女は笑みを浮かべて、氷柱を俺に向かって飛ばす。

 俺はその攻撃を相殺していくが、不意にぞくりとした感覚を周囲から感じた。

 すぐに後ろに飛び下がって間合いを取るが、四方八方から雪の結晶が舞ってくる。

 斧槍を高速で回転させて攻撃を防ごうとするが、すべては防ぎきれず、結晶に触れたところが鋭利な刃物に触れたように切り裂かれていく。

 さらに切り裂かれたところが凍っていって、俺の動きを封じていく。


 アリシアが思わず俺に向かって叫んだ。


「体に魔力を纏わせて打ち消すんです! ケイなら出来ます。」


(拳や足に魔力を纏わせるのを体全体にする感じかな? ……って、俺がいつもやっていることじゃないか!?)


 俺は服を纏うのと同じ感覚で全身に魔力を纏わせていく。

 その瞬間、凍っている場所に違和感を感じた。


(なるほど……この違和感を相殺すれば良いわけか)


 俺はいつも服を纏う時とは異なる感覚に対して魔力を発動させると、体に付着した氷の結晶がきれいに消え去った。


(なるほど……ルキフェルが常に纏っておけと言っていた意味がようやく分かってきたぞ)


 余談ではあるが、品質管理の職務を行っているときに重要なのがこの違和感を感じるということなのだ。

 普段と異なる音や臭い、そして物の置き場所に製品の手触り……

 視覚や聴覚、そして嗅覚などの五感をフルに活用してちょっとした違和感を感じたらそれを確認して是正する。

 まさか、魔法の相殺でこんな経験が役に立つとは思って位はいなかったが、どうせ役に立つならばフルに活用させてもらうことにした。



――その時、俺は気づいてしまった。


(目の前で魔法を出しているノクターンは幻覚だ)


 意識を集中して周囲の空間に違和感がないかを感じていく……

 そして、俺は右斜め後ろに斧槍を振り下ろした。

 惜しくもノクターンには当たらなかったが、彼女の鎌に俺の攻撃は当たって周囲の氷が消えていく。

 ノクターンは驚いた顔をして俺に問いかける。


「なんであれが幻覚だってわかったの!? しかも、私の位置まで……完璧に偽装していたはずなのに……」


「うまくは言えないんですけど……違和感ってやつでしょうか。」


「むぅ~……それじゃ分からないじゃない。」


 ノクターンは膨れっ面をしながら、鎌を振り下ろした。

 俺は難なくその攻撃を受け止めたが、一気に体が重くなる。

 そして、無様に地面に転がった。


(体が鉛のように重い……というか地面にめり込んでる!?)


 俺の体がまるで金属になったのように重くなってうまく体が動かせなくなる。

 しかも、体がどんどん地面にめり込んでいく。

 

「貴方にかかる重力を百倍ほどに増やしてみたわ。さて……今日のレッスンはここまでにしてしましょうか。」


(やばい……早くこれも相殺しないと)


 俺は自分にかかる重力を相殺しようと体に魔力を巡らせる。

 何とか相殺できたつもりだったが、ノクターンはその隙を見逃さない。


「よく相殺できたわね……大分頑張ったから、ご褒美にとっておきの魔法をかけてあげるわ。」


 俺の足元に大きな深紅の魔法陣のようなものが現れたと思った瞬間、大爆発が起こった。

 光で視界が真っ白になる中、体がバラバラになりそうな衝撃を受けて、アリシアのほうへ思いっきり吹き飛ばされる。


「うわあぁぁぁぁ!? とっ、止まらない……アリシア、避けてくれ!」


 だが、アリシアはこともなげに俺を抱きとめて、優しく地面に卸した。


「ケイ……大丈夫ですか。こんなにボロボロになって……修行とはいえ、少しやりすぎです!」


 ノクターンはしれっとした顔でアリシアに告げる。


「出来る子には、それなりのメニューを用意してあげないといけないのよ。それだけケイを認めているってことなの。」


 なおも納得いかない顔をしているアリシアがノクターンに詰め寄ろうとしたところで、ファラスが口を挟んだ。


「ルキフェル様から連絡が入ったのじゃが……《生屍(ゾンビ)》が出たそうじゃ。とりあえず、仕事を終わらせてから修行について話し合おうではないか。」


 《生屍》の言葉に、アリシアとノクターンの顔がこわばる。


「あれが出たとなれば、どこかに糸を引く者がいるかもしれないですね。」


「仕方ないわね……すぐに始末しないとまずいから、後でこの件については話しましょ。」


 フォラスがゲートを開くと、ノクターンがすぐに飛び込んでいく。

 俺は、アリシアに抱きかかえられながら、ゲートを抜けていくのだった。

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