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フェンリルとアレトゥーサの結婚式

 お見合い成立の日から二週間後の夜、エリシオンの街でフェンリルとアレトゥーサの結婚式が行われることになった。


 当初は、ルキフェルがペルセポネの大広間で大々的に行うようにとフェンリルに勧めたのだが、本人達の強い希望でエリシオンの広場で行うことになった。


 広場にはエリシオンの街の魔物だけでなく、ペルセポネに住む亜人達も招待されている。

 建物の窓からは二人を祝福する横断幕が掲げられ、街全体が結婚式の式場のような雰囲気を醸し出していた。

 また、広場に設けられた各テーブルには、オベロンからの祝いの花がセンス良く飾り付けられていた。 

 ファウヌスの親類の《フォーン》という種族の亜人が美しい旋律で笛を吹くのに合わせて、ハーピー達が美しい歌声で場を和やかな雰囲気に醸し出していく。


 そして、キキーモラやシルキー達が、テーブルにシレーニ特製の酒やサルマキスが監修したエリシオン伝統の料理を並べていた。


 ルキフェルとヒルデはオベロンとノクターン、そしてフォラスと共に貴賓席に座って談笑している。

 また、美しい漆黒の毛並みをした鷲の上半身に獅子の下半身をした立派な魔物が座っていた。

 彼は《グリフィン》のグライフで、魔族を統括している者だそうだ。


 俺とアリシアは、仲人のような立場だったということで、フェンリルとアレトゥーサの傍に付き従っている。

 純白のタキシードを見事に着こなしたフェンリルは、アレトゥーサの髪に薄桃色のバラを挿した。

 なんでも、この薔薇の名前もアレトゥーサと言うらしく、フェンリルがオベロンに頼んで用意してもらっていたらしい。


 オベロン曰く、ピンク色のバラの花言葉は『感銘』という意味があるそうだ。

 フェンリルらしい考え方で、自分が認めた女に対する敬意を花で示したということなのだろう。


 サルマキスがきれいに結い上げた髪に挿されたバラと明るい赤色の口紅が、純白のマーメイドドレスとのコントラストで彼女の美しさを際立たせる。


 思わず、アレトゥーサをよく知る参列者達が彼女に賛辞の言葉を贈る。


「あのシレーニの娘がこんな姿になっちまうとはな……」

「ちくしょう! サルマキスの若え頃に瓜二つだ。」

「それでいて、あの色男に首ったけなんだろう……まったく羨ましいぜ。」


 フェンリルが気恥ずかし気に頭をかきながら、アレトゥーサにささやく。


「なんというか……馬子にも衣裳だな。女は化けると聞いていたがここまでとは思わなかったぜ。」


 アレトゥーサは少し意地悪な顔をして彼に問いかけた。


「それじゃあ、いつもの私は綺麗じゃないってことで良いかしら? 私は普段のフェンリルもいい男だと思っているんだけどね。」


 フェンリルは慌てた顔をして前言を撤回する。


「べっ、別に俺はそういう意味で言ったんじゃねえよ。普段も十分すぎるぐらい可愛いだろうが。」


 アレトゥーサが花が開いたような笑顔で彼に笑いかけた。


「ありがとう。私って鈍いからさ……これからはちゃんと毎日綺麗かどうか言うようにしてね。」


「お……おう……」


 フェンリルは顔を真っ赤にしながら素直に頷く。

 路地の亜人たちが彼を思いっきり冷やかした。


「フェンリルの旦那が子犬みてえに素直に頷いているぜ!」

「やっぱ普段強気なお人ほど、ああやって尻に敷かれるんだよ。」

「《金狼王》が見る影もねえな……美人の力は恐ろしいねぇ!」


 フェンリルがギリギリと歯軋りをするが、アレトゥーサが彼の顔をつかんで、路地の連中に見せつけるようなキスをする。

 そして、連中に向かって啖呵を切った。


「ごあいにく様! 外でいくら立派でも、家の中で誠実な男じゃなければ好きになんてならないわ。私はそんなフェンリルが大好きよ。」


 周囲から歓声が上がる中、シレーニとサルマキスが二人に近づいてきた。


「フェンリル様。娘は初心だが俺たちの娘だから、きっとあんたを満足させてくれるにちげえねえ。好きなだけ愛し合って下せえ。」


「私の娘だけあって、これと思った男には一途についていくと思います。そして夜のほうも積極的になるでしょう……ですが大丈夫です。たくさん孫が生まれても、しっかりとサポートしますので安心してくださいね。」


 フェンリルがドン引きしている中、アレトゥーサが二人を叱りつけた。


「お父さんもお母さんもいい加減にしてよ! この人とっても真面目なんだから、そんなこと言ったら毎日が大変なことになっちゃうわ。」


 シレーニたちがすったもんだと騒いでいる間に、オベロンが微笑しながら俺に近づいてくる。

 彼はフェンリルとアレトゥーサを見ながら俺に話しかけてきた。


「あのアレトゥーサとフェンリルを結婚させてしまうとはな……水晶玉で見るまでは信じられなかったが、大した手腕だね。」


「いえ、彼らの本質自体は似ていましたし……どちらもきっと異性と付き合うのに壁があっただけなんでしょう。それがたまたま上手く無くなってくれただけのことです。」


「宝石花の件といい、君には驚かされるばかりだ。いつか、君に仕事を頼むかもしれないが、その時はよろしく頼むよ。」


「その時はぜひよろしくお願いします。」


 オベロンは満足げに頷くと、フェンリルとアレトゥーサに祝いの言葉をかけ始めた。

 それと入れ替わるようにナベリウスが俺の前に歩いてくる。


「先日はすまなかったな。あまりにも気持ちよかったために眠ってしまったようだ。」


「いえ……俺も何というか、すごく穏やかな気持ちになって幸せでした。」


「何と言えば良いか、ルキフェル様に撫でられているような、そんな懐かしい気持ちになったよ。あとな……ケイ殿は、孫の心に刺さっていた大きな棘を取ってくれたのだ。これからもあいつのことをよろしく頼むぞ。」


 俺は笑顔で頷くと、ナベリウスはオベロンと共に楽し気にフェンリル達と話し始めた。

 アリシアが、嬉しそうな顔で俺の袖を引っ張る。


「ナベリウスは転生者を嫌っていましたが、貴方のことを本当に好きになったみたいです。まるで、お父様と話している時みたいに優しげな目をしていました。」


「そうかな……それは嬉しいな。また、いつかあのふかふかの頭を撫でたいもんだなぁ。」


 この前の気持ちが良いふかふかの感触を思い出していると、不意に耳に息を吹きかけられた。


「ひゃあぁぁぁぁ!? あっ、アリシア……俺何も悪いことは……」


 驚きながら息を吹きかけられた方向を見ると、ノクターンの顔が間近にあった。


「あわわわわ……近い! 危うくキスするところだったじゃないですか!?」


 ノクターンが悲しげな顔をして俺に問いかける。


「私って、そんなに魅力ないのかしら……お姉さん、ちょっと傷ついちゃったわ。」


「いえ……すごく魅力的です。だからこそ、逆にまずいじゃないですか……俺はアリシア一筋なので、誤解されるようなことはしないんです。」


 彼女はコロッと表情を変えて笑いながら俺の方に寄りかかってきた。

 ふわっとしているが確かに柔らかい感覚がしてきて、俺はドギマギする。


「ならいいわ。それより、あの不良坊やを更生させちゃうなんて凄いわね……お姉さん、貴方に興味が沸いてきちゃったわ。」


「そ……そうですか? 美人にそう言われるとうれしいですね。」


 アリシアが強引に俺を抱き寄せて、膨れっ面をした。


「ノクターン……戯れが過ぎますよ。ケイは私の彼氏です! あまり誘惑しないでください。」


「あはは……怒った顔も可愛いわよ。興味があるといっても仕事の面だから、安心して頂戴な。さて、私はフェンリル君の可愛いお嫁さんと話しそうかしら。」


 ノクターンはそう言うと、俺の頬にキスをしてアレトゥーサにフェンリルが若い頃の武勇伝(やんちゃ)について話し始めた。

 アレトゥーサがそれを聞いてクスクスと笑う。

 フェンリルが大慌てで、両手を振ってそれを阻止しようとしているが、おそらくは無駄な抵抗に違いない。


 そんな彼女たちを微笑ましげに見ていると、フォラスが笑顔で俺に近づいてきた。


「ケイも大分名が売れてきたようじゃのう……師匠として鼻が高いぞい。」


「そうなんですか? 全然実感が沸かないんですけど。」


 フォラスはかなり呆れた顔をして俺の脇腹をつついた。


「お主……フェンリルだけでなく、オベロンやノクターン、そしてグライフと儂からの好意を持たれるということは、魔王軍の大半を味方にしたということに等しいのじゃぞ。もう少し自覚を持ってもらわねば困るわい。」


(そ……そうなのか。そういえば、彼らは魔王軍の幹部だったもんな)


 だが、彼はさらに不穏なことを言い始める。


「フェンリルから一本とれた話は聞いておる。そして、あやつはしばらく忙しくなること間違いなしなので、しばらくはノクターンの下で修業と仕事をしてもらおうと思う。」


「えっ……そうなんですか?」


 アリシアが俺の腕をぎゅっと手繰り寄せて、フォラスに問いかける。


「もちろん私も一緒に行っても良いんですよね?」


(おっほおぉぉぉぉぉ!? アリシア……胸が当たってますよ! )


 鼻の下を伸ばして至福の表情をする俺の頭にチョップを入れながら、フォラスは優しい笑みを浮かべた。


「もちろんですじゃ。お嬢様とケイは大事なパートナーですからな。二人を引き裂くような真似は致しませぬぞ。」


 アリシアが嬉しげな顔で頷く中、ルキフェルが立ち上がって叫んだ。


「さて、そろそろフェンリルとアレトゥーサの結婚式を始めようと思う。」


 皆が自分の席に戻った後、ルキフェルがフェンリルとアレトゥーサに近づき、優しげな顔で彼らの手を取った。


「そなたらは、純粋でまっすぐな心を持っておる。共に支えあい、亜人の象徴として彼らを導いてやるのだぞ。」


フェンリルとアレトゥーサは、ルキフェルに深く礼をする。

そして、ルキフェルが俺に祝辞の言葉を言うように目で指示してきた。


(えっ……聞いていないんですけど)


俺は焦ったが、フェンリルが信頼した顔をしてこちらを見ているので、背筋を正して二人に祝いの言葉を伝えることにした。


まずはフェンリルに向かって話しかける。


「俺の親友フェンリルは、武器でいえば槍です。真っすぐに色々なものを貫き通す純粋な男で、とりわけ修練に関しては真面目すぎて、俺は何度も体を吹き飛ばされました。」


周りから笑いが生じる中、彼の眼を真っすぐ見て伝える。


「彼の最大の長所は、それまでの考えが間違っていたと思ったときに、素直に相手に謝罪できること。そして相手の能力を素直に認めることが出来るところです。だから彼はきっと良い夫となって、妻のことを愛するでしょう。」


フェンリルが嬉しそうな顔をして頷いた。

そして、俺はアレトゥーサに言葉を贈る。


「アレトゥーサとは酒蔵の仕事をした時に知り合いました。彼女も仕事に関して純粋に向上心を持ち続ける素敵な女性で、きっとそういう所はフェンリルとよく似ているのではないかと思っています。」


アレトゥーサが静かに頷いて、次の言葉を待つ。

俺は優しく彼女に伝えた。


「彼女の最大の長所は、はっきりと相手に自分の気持ちを伝えられることです。フェンリルはそれを聞く度量もあるので、きっと素晴らしい夫婦になれると俺は思っています。」


 そこまで話したところで、俺は二人に悪戯っぽく笑いかける。


「堅苦しいのはここまででいいですよね? 後は、二人でしっかりと愛し合ってるということを、皆に見せつけてやってください。」


 フェンリルとアレトゥーサが顔を見合わせて固まった後……

 最高の笑顔になって、どちらともなく口づけを交わす。

 そして、その場にいる者全てが歓声を上げて、二人の夫婦としての門出を祝福するのだった。

本作を読んでいただきましてありがとうございました。

これにて第二章は完結になります。


閑話を入れた後に第三章に入りたいと思いますので、次の章も引き続きお願い致します。


いつものお願いとなってはしまいますが、

本作に興味を持っていただけたら、是非ブックマークをいただけると嬉しいです。


また、今後の参考にもしたいので評価や感想・レビューを頂ければ、とても嬉しいです。

より良い作品が書けるように自分のベストを尽くします。


最後になりますが、

もし、本作を読んで評価しようと思った方は、

↓ににある☆を選んでこの作品を評価していただければ嬉しいです。


今後とも本作をよろしくお願い致します。

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