フェンリルの事情
アレトゥーサは、顔を真っ赤にしてフェンリルに向かって叫んだ。
「あっ……あんた!? いきなり何を言い出すのよ! 結婚通り越して子供の話って……どこまですっ飛ばしちゃってるわけ?」
俺も慌ててフェンリルに問いかける。
「フェンリル……どうしたんだ? いきなりそんなこと聞かれても、アレトゥーサもビックリしちゃうと思うぞ。もう少し分かりやすく聞いてみたらどうだろうか。」
フェンリルがハッとした顔をして、アレトゥーサに謝罪する。
そして、頭を掻きながら、亜人の子供についての話を始めるのだった。
* * *
この世界において、亜人が魔物と人間の混血というのは誰でも知っていることだが、母親が人間か魔物かということもかなり重要なことだ。
魔物が母体の場合は、出産自体は問題ないことが多い。
だが、人間の場合は生まれてくる子が異形であることを受け入れられない場合も多いのだ。
考えても見てほしい……
人間というのは単一の種族で、人間から人間が生まれてくるのが当り前なのだ。
それが、人間から異形のものが生まれてくるとなれば、それを嫌悪するものがいないとは限らない。
いや、むしろ嫌悪するものが殆どだった為、母親とその子供は人間の世界から追われることとなるケースが多かった。
まあ、人間が大きな卵や魔物を産むということに、忌避感を持つ者が多かったということもあるのだろう。
天使と人間のハーフのように、明らかに人の形をした異能者となれば、崇められる対象となるが、残念ながら、そこまで人間というものは寛容ではないのだ。
また、父親の魔物の生息域が、普通の人間が住めるような場所であれば良いが、そうでなければその母親は人間の世界と魔族の世界の両方で住む場所がなくなる。
結果として人間の世界では、亜人は忌み子として扱われることが多かった。
逆に魔物の世界では、同族の誇るべき力を受け継がないことが多かったため、《半端者》として下げずまれ、不当な扱いを受けることが多かったのだ。
* * *
フェンリルがそこまで話した後に、アレトゥーサに語り始める。
「俺の祖父は、怪我をしているところを人間の女に手厚く看護されたそうでな……止せば良いのに、その後に人間に化けて夫婦になったそうだ。結局、その女はあまりにも強すぎる魔力を持った子を孕んだせいで、親父を生むのと引き換えに死んでしまった。」
彼女が静かに頷く中、彼はさらに話を続ける。
「そして……親父はクロノスで身分の高い半神の女と駆け落ち同然で結婚したが、亜人と一緒になったという理由で、お袋は実家と絶縁させられちまった。彼女は一応天使の血も混じっていたが、人の血のほうが強かったらしくてな……親父よりも大分早く天寿を全うしちまったよ。」
そこまで話を聞いたところで、アレトゥーサがフェンリルの目をまっすぐ見て問いかける。
「まあ……事情は分かったわ。それで、結局、フェンリルはどうしたいわけ? 人に思わせぶりなそぶりしておきながら、俺はこういう奴だから付き合えないって言いたいのかしら。そういう話だったら幻滅ね……もっと、堂々としていて自分に自信を持っている奴だと思っていたんだけどね。」
「いや……俺の話をちゃんと聞いていたのか? 確かに俺はお前のことを良い女だと思った。だが、俺と一緒になるということはそれだけの問題があるということを……」
アレトゥーサが酒をあおって、ショットグラスを乱暴にテーブルに叩き付ける。
「四の五の言い訳並べるんじゃないわよ! 私が好きかどうかを言えばいいだけのことじゃない。そもそも、私の父親だって亜人だし、母親は泉の精霊よ? 確かにあんたの生い立ちは可哀想だと思うけど、そんな同情心で一緒になると思われたくない。男ならしっかりと自分の意思で物事を決めなさいよ。」
酒場にいた者達がアレトゥーサの言葉に賛同する。
「なんだかわからねえが、フェンリルの旦那が悪い!」
「女にここまで言わせておいて、まさか何もしねえとかねえよな?」
「かぁ~っ! もう見てらんねえよ。普段の豪気な態度はどこへ行ったんだよ。」
フェンリルが驚いた顔でアレトゥーサを見つめて……
そして、意を決したように両手で彼女の手を取って告げた。
「アレトゥーサ……俺にとって、お前ほど魅力的な女性はいないだろう。俺と結婚して生涯を共に歩んでくれないだろうか?」
アレトゥーサは自分が言った言葉の意味を思い出して、耳まで真っ赤にしながら頷いた。
酒場全体が歓声で沸く中、パンテラが満面の笑みで大皿の魚料理を持ってきた。
「アレトゥーサ……だったかい? あんたの啖呵はなかなか良かったよ。これは私とリオンからのご祝儀だからさ、たくさん食べておくれよ。」
フェンリルもアレトゥーサも固まってしまった為、俺はてきぱきとそれぞれの皿に料理を取り合分けていく。
アリシアはショットグラスに酒を注いで、それぞれの手にグラスを持たせる。
俺は、酒場中に聞こえように叫んだ。
「親友のフェンリルが、素晴らしい女性とのお見合いに成功したことに……乾杯!」
周囲の者が祝福の乾杯をする中、フェンリルとアレトゥーサはショットグラスの酒を空けた。
そして、周りが囃し立てる中、半ばやけくそ気味に口づけをするのだった。
* * *
周囲がフェンリル達を祝福して楽しい時間過ごす中、おもむろにフォラスが現れた。
「どうやらお見合いはうまくいったようじゃの?」
フェンリルが訝しげな眼でフォラスを見る。
「出羽亀か? 相も変わらずエロ爺だな。」
「この老体にそのようなことを……ひどいとは思わぬかの?」
アレトゥーサがすかさずツッコミを入れた。
「ケイに私をけしかけたことを、もう忘れたというのね? さすがお年をとると物忘れが激しいことで。」
フォラスが困ったような顔でこっちを見るが、アリシアが告げる。
「すべてフォラスの自業自得ですね……このお酒を飲んで反省されてはいかがでしょうか?」
アレトゥーサが満面の笑みでフォラスに《糞爺フォラス》を注ぐと、苦々しげな顔をしながら飲み干した。
「悔しいが……美味いのう。このように美味い酒に《糞爺》と名付けるのはいかがなものかと思うぞ。」
俺は笑みを浮かべてフォラスに伝える。
「年を取るほど、酒の味は熟成されるんでしょう? 味がある糞爺と考えればよいじゃないですか。」
フェンリルが大笑いして俺のグラスに酒を注ぐ。
「そりゃあいいや! 熟成された糞爺……良かったじゃねえか。」
フォラスが悔しそうな顔をして煙のように消えてしまった。
(少し可哀想なことをしたなかな……後でフォローしておくか)
だが、そう思ったのをすぐに俺は後悔した。
爺が居た場所に水晶玉が転がっており、フェンリルとアレトゥーサとのやり取りがつぶさに録画されている。
フェンリルが水晶玉を握りつぶして、歯ぎしりした。
「あの糞爺め……やっぱり出羽亀していやがったな。」
アレトゥーサが微笑して彼の頬にキスをする。
「やりたいようにやらせときなさいよ。私達、やましいことは何もしていないわ。」
酒場の者達がフェンリル達を冷やかし始めた。
「こりゃあ……フェンリルの旦那は尻に敷かれるな。」
「美人の姉ちゃんの方が肝が据わってるぜ。」
「姉ちゃんにかかれば、旦那も形無しだな。」
フェンリルが立ち上がって啖呵を切った。
「うるせえ! てめえらも悔しかったらこれぐらい、いい女捕まえてみやがれ。」
フェンリルの惚気とも思える啖呵で酒場が笑いに包まれる中、アレトゥーサは幸せそうな顔をしながらフェンリルへ酒を注ぐのだった。
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