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武器発注の改善提案

 バケツの水をかけられて目を覚ますと、リオンが申し訳なさそうな顔で謝ってきた。


「すみませんね……あまりにも見事な動きだったので、思わずそのまま反撃してしまいました。」


「いえ、リオンさんにそういって頂けると本当に嬉しいです。」


 フェンリルがニヤニヤしながら俺に耳打ちする。


「アリシア様がいるからって、いいところ見せようとしたんだろう? さっきのあれは良い動きだったぞ……後でしっかりと、ご褒美でも貰っておくんだな。」


(ご褒美……)


 思わず顔が熱くなって生唾を飲み込んでしまったが、その幸せな気分は後ろで部下から報告を受けたリオンが怒声を放ったことによって一気に霧散した。


「だから言わんこっちゃない! 私があれほど言っていたではないですか……武器が壊れてなくなる前に私に報告しなさいと。」



 俺はリオンの元へ走っていくと、彼に怒られてばつが悪そうにした部下達が俯いていた。


「どうしたんですか、リオンさん?」


「ケイ殿、聞いてくださいよ。この子たちに修練用の武器を切らさないよう、『武器が壊れて残り少なくなったら、報告しなさい』って言っておいたのです。それなのに、『誰かが報告するからいいだろう』と黙っていて……結局、武器のストックがなくなってしまったんです。だから、これから発注しなくちゃいけなくなったんですよ。」



 フェンリルがやれやれといった顔で、部下達を叱りつける。


「前みたいに、鍛冶屋のところに行くのが面倒だっていうのは百歩譲って許してやった。だがな……俺やリオンに報告するぐらいはできるだろうが! なんで、それくらいできねえんだよ……」


 彼はそう言った後、ポンと手をたたいて俺のほうを見た。


「ケイ、お前ならこういうことの解決方法を知ってるんじゃねえか? よかったら力になってくれねえかな。」



 俺は笑顔で頷いて、彼らに武器の保管状況を見せてもらうことにした。

 フェンリルが快くそれを了承したので、俺はアリシアにも声をかけて武器がしまわれている倉庫へと向かうことにするのだった。



 * * *



 リオンが倉庫の扉を開くと、少しカビ臭い匂いがしてくる。

 薄暗い倉庫の中には、木箱が無造作に置いてあり、それぞれの武器が無造作に突っ込まれていた。


(なるほど……武器ごとには分けているわけか)


 俺は、まずは出来ているところから褒めることにした。


「武器ごとにしっかり分けられているんですね。」


 リオンは表情を和らげて箱を見渡す。


「そうなんですよ。私が担当になってからは、しっかりと武器ごとに分けるようにしたんです。」


 俺は頷くと、箱の大きさから大体の入っている本数を推測する。


「恐らくは百本単位で発注しているんじゃないですかね。ただ、これでは残量が一目で分からないというところに、不満を感じると言ったところでしょうか。」


「そうなんです。スペースには余裕があるので、何か良い方法がないかと悩んでいるところですね。」



 俺は、紙を借りて細長い長方形を作った後、等間隔に半分くらいの切り込みを入れて組み上げる。


「保管するだけなので、そんなに強度はいらないと思います。武器の形に合わせた格子を作って縦に保管するようにすれば、だいぶん楽になるのではないでしょうか?」


 フェンリルは笑みを浮かべて格子を眺める。


「これくらいならば手間もあまりかからないから、鍛冶屋に頼んでも難色示さずにやってくれるかもしれねえな。流石はケイだな……だが結局のところ、俺とリオンが発注するために残りの残量を調べなくちゃいけえねのは手間だよな?」


 俺は頷くと、武器の一つを手に取ってハンカチを巻き付けた。


「こうやって、発注したい残量以下の武器全部に、ハンカチみたいな目印をつけておくのはどうでしょうか? 部下たちが自己申告してくれれば最高なのですが、しなかったとしても修練の際にそういった目印のある物を見つけたら、目印を受け取って発注するみたいな感じにすれば、報告漏れもだいぶ減ると思います。」


「なるほど……それで、他の目印があるものはどうすんだ?」


 俺は箱の取っ手にハンカチを括り付けてみせる。


「発注後に取り外して、こうやって箱に括り付けておくのはどうでしょうか? そうすれば発注済みかどうかもすぐにわかります。」


 フェンリルは納得して、満足げな顔で頷く。


「確かにそれもそうか。リオンはどう思う?」


「そうですね、特に問題はないと思います。ところで、ケイ殿はこういったことをよく経験されていたのですか? とても慣れていらっしゃるようだったので。」


 俺は静かに頷くと、昔のことを少し話した。



 * * *



 前世の俺は、自分の所属する場所での薬品や備品発注の担当もしていた。

 だが、最後の一本の試薬瓶を開けても何も言ってこない上に、なくなりそうになってから『なんで発注してくれないんだ』と勝手なことをいう奴は非常に多かった。


 ただでさえ、残業が多くて帰るのが遅くなっているのに、毎日すべての試薬の残量チェックまでやるなんて、流石にやってられない。


 そこで俺は、格子状にプラ板を組んで、試薬瓶の種別ごとに分けて整理すると共に、最後の一本の瓶に試薬名を付けた結束バンドの輪をつけて、開けたら未発注のところにかけるような仕組みを作り出した。

 結果として、それくらいならやってくれる奴が多くて……というか、最後の一本だということが一目で分かっているのに黙っている奴も特定できるので、そいつに対するお局の神の雷(激おこ説教祭り)を眺めて《ざまあ》出来たのが一番良かったと思っている。



 * * *



「……と、まあこんなところですよ。だから俺もリオンの気持ちがよくわかるんです。」


 リオンが嬉しそうな顔で俺の手を握った。


「ケイ殿に謝らなければならないことがあります。実は……私も転生者や天使が苦手でした。ですが、貴方の日々の修練に取り組む姿勢やこういった対応を見る限り、フェンリル様の言う通りで貴方が信用できる方だと確信いたしました。」


 俺は微笑して彼の腕を優しく握り返した。


「いろいろな事情があるのかもしれないですが、こうやって信頼してもらえるのは嬉しいですよ。それに、修練の時は種族関係なく真摯に教えてくれたじゃないですか。俺は、そういう人は尊敬できる人だと思っています。」


 リオンは嬉しそうな顔で俺に深く頭を下げる。


「ケイ殿との手合わせは面白いですからね。メキメキと実力を上げる貴方は、最近は部下達の良い刺激になっているようで、彼らが以前よりもさらに真面目に修練に取り組むようになりました。」



 フェンリルがポンと手を叩いて、俺とリオンの肩を抱いた。


「しかし、そういうことならば……あれだな。今日は礼もかねて、俺達と酒でも飲みにいかねえか? もちろんアリシア様も一緒に来ますよね?」


 アリシアは一瞬戸惑った顔したが、俺を見て頷いた。


「私も行って大丈夫でしょうか……あと、フォラスがケイにお給金を渡すのを忘れておりましたので、あとでお財布も渡しますね。」


(あれ? アリシアって飲み会が苦手なのかな……)



 俺は一瞬その反応に違和感を感じたが、風呂に入ってからアリシアと合流してペルセポネの酒場へ行くことにするのだった。

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