亜人達との修練
ルキフェルから武器の具現化の調整のためにも、毎日の修練へ出るようにと言われたが、それは俺も望むところだった。
なにせ、相棒の斧槍はとても使いやすい上に、努力するほど腕が上がっていくのを実感できるのだ。
一ヶ月ほど通っているが、俺は修練というものが楽しくてしょうがなくなっていた。
今日も修練場に行くために部屋を出ようとすると、アリシアが笑顔で俺に話しかけてくる。
「今日も修練ですか? 精が出ますね。」
「ああ、しっかりと頑張って、アリシアを守れるような男にならなくっちゃいけないからな。」
「今でも十分……いえ、何でもないですよ。」
アリシアは俺にの頬に軽くキスをして、優しく送り出してくれた。
(なんか……新婚さんみたいで、いいよなぁ)
俺は、幸せを実感しながら修練場に向かうのだった。
* * *
いつも通り修練場に向かうと、キキーモラ達がいたので挨拶をしたが、彼女らは真っ赤な顔をして、そそくさと持ち場に戻っていった。
修練場に着いても、フェンリルと部下達が笑みを浮かべて俺の顔に注目している。
不思議そうな顔をする俺の前に、フェンリルが歩いてきて話しかけてきた。
「ほう……神聖なる訓練場にそんな姿で来るとは良い度胸しているな?」
「え? 俺、何かしでかしましたか?」
「ほれ、それで顔を拭いてみろ。」
フェンリルからタオルを受け取ると、真っ赤な口紅の跡がついていた。
(しまったあぁぁぁぁ!? まさか、頬にキスマークつけたまま、ここまで歩いてきてしまったのか……)
彼はニヤニヤと笑いながら、俺の肩を叩いた。
「俺たちのルールでな、そういう色男は乱取りで鍛えなおすって決めてるんだ。今日は覚悟しておくんだな。」
周りの部下達が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そして、それぞれの得物を構えながらじりじりと俺に迫ってくる。
「ひいぃぃぃ! お慈悲をくだされえぇぇぇぇ!?」
俺の必死の懇願もむなしく、フェンリルが叫ぶ。
「慈悲などあるか! 諦めて武器を具現化して戦うんだよ。死線を乗り越えた分だけ強くなるってもんだからな。」
仕方なく、俺は斧槍を具現化して構えた。
ちなみに最近は、俺が不老不死で自己再生できるからって、皆は実戦用の得物で斬りかかってくる。
逆に俺のほうは、味方を殺すわけにはいかないので刃先に魔力を入れずに戦う。
ルキフェルのおかげでこういった細かい調節もできるようになった為、俺も思う存分武器を振るえるのだが、怪我の心配なしに全力で戦えるということで、俺と立ち会いたがる奴が多くなっているのだ。
まあ、最初の頃は文字通り何もできずに半殺しの目にあいまくった。
だけど、この体は本当に便利だ。
何度叩き伏せられても、しばらくすれば立ち上がることが出来る。
そして、痛みを忘れずに駄目だったところを修正していくうちに、俺の技量はめきめきと上がっていったのだ。
* * *
さて、始めに俺と戦うために出てきた奴は、槍を構えたリザードマンだ。
彼は鋭い突きを俺に放つが、俺は横に跳んでその攻撃をかわして斧槍で足払いを仕掛ける。
うまく転倒させたところに、武器を突き付けて降参させた。
次に出てきたのは、筋骨隆々のミノタウロス。
力強い両手斧を俺に振り下ろしてくるが、俺は斧槍の柄を使ってそれをうまく受け流し、逆に彼の斧の柄に一撃を食らわせて斧を地面にめり込ませる。
そして、そのまま斧槍を触媒として、魔力を込めた強烈な回し蹴りを放つ。
ミノタウロスはその威力に耐え切れずに大きく吹き飛ばされた。
(フェンリル直伝の蹴技はやっぱりこういう時役に立つよな)
体で覚えろという割には、フェンリルはとても分かりやすく俺に武術を教えてくれる。
今の体術も彼直伝のもので、体に魔力を込めて一撃を放つという強力なものだ。
俺に部下達がやられたのを見て、副官のリオンが俺の前に進み出た。
「修練を初めて一か月の者に追い抜かれてしまうとは情けない……私がお相手いたしましょう。」
(うわ……リオンさんか、この人は容赦がないから苦手なんだよな)
ちなみに、フェンリルの副官のリオンは二メートル以上の体躯を持つ長い銀髪を持つ男で、なんというか白い肌に銀の胸毛がチャームポイントのボディービルダーっぽい亜人である。
訓練着の時は、普通の武人っていう感じがするのだが、普段着が赤いブリーフに謎のチャンピオンベルトっぽい何か、そしてわざわざ脱ぐためのマントを羽織っているという独特の服装なため、変人として有名だ。
なんとも暑苦しい彼は、変身すると格好いい銀獅子に変化するので、どちらかというとずっとその恰好をしていたほうがモテるのではと思うのだが、本人曰く『人型の肉体美の追及をしたい』といってポージングをし始めるので、今では誰も突っ込みをいれなくなった。
一部の肉体美を極めんとするファンの中では、《銀兄様》と呼ばれているらしいが……
断じて彼は男色でないということはフォローしておく。
そんなリオンは、いきなり銀獅子に変身して魔剣を具現化させた。
「ケイ殿も、やるようになりましたからね……手加減はなしですよ?」
「お手柔らかにお願いします。」
彼は前方に跳躍し、一気に間合いを詰めて俺に斬りかかってくる。
空気が切り裂かれる音がする中、迫りくる刃を俺は柄で受けた。
だが、実体の剣を防げても、剣に込められた空気の刃は防げずに俺の胸元が切り裂かれる。
(痛えぇぇぇぇ!? 相変わらず、この攻撃はきついな)
リオンは呆れた顔で俺に言い放つ。
「何度も言っているでしょう……魔力がこもっている剣を受けるときは、防護魔法をかけなさいって! 出来ないなら武器で攻撃を払い、そのまま身を捻って追撃を躱すのです。」
(そもそも、俺に防護魔法を教えてないですよね?)
フェンリル曰く、折角自己再生と不老不死があるのだから、痛みで覚えたほうが上達するそうだ。
毎日半殺しの目にあっているおかげで、だいぶん痛みにも強くはなってきた気がするのだが……
こういった攻撃は相変わらずとても痛い。
だが、俺もこのままやられっ放しになるわけにはいかない。
いつの間にか来ていたアリシアが、固唾をのんで見ているのだ。
(アリシアの前で、無様な姿は見せられないからな)
俺は少し距離を取って、斧槍をリオンの頭に振り下ろす。
それを読んだリオンが首を少し横に倒して躱すと、凪払いを仕掛けてきた。
先ほどのアドバイスを参考に、俺は斧槍を回転させて凪払いに合わせるように柄で攻撃を払ってリオンの懐に潜り込む。
リオンが驚愕に目を見開く中、そのままの勢いで石突を胸に当てると、確かな手ごたえを感じた。
(やった……はじめてリオンさんから一本取れたぞ!?)
フェンリルが『そこまで! ケイの……』と言いかけたとき、リオンが両手で俺の頭を殴りつけ、地面に叩きつけてしまった。
「きゅぅ……」
結局、喜んだのもつかの間、俺は見事に地面にめり込んで気絶してしまうのだった。
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