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魔王様との面接

 小部屋の扉は思ったよりも豪奢だった。


(今までの常識が通用しない世界のようだしな……もう魔王様が来ているかもしれないな)



 コンコンコン……


 俺は三度扉をノックすると、中から声が聞こえてきた。


「入ってくるがよい……」


 威厳がありながらも、とても耳触りが良い声が聞こえて俺はどことなくホッとしながら入室する。


「失礼します。」



 俺は静かに小部屋の中に入った。


 小部屋の中は思ったより広く、立派なテーブルと品の良い調度品が置いてある。

 そして、テーブルの向こうには耳がとがった理知的な目をした者がいた。


(思ったよりは人間っぽい……というか、イケメンじゃないか。そして、豪奢な服でとても品が良い。穏やかな目なのにものすごい威圧感を感じる……この人が魔王様なのだろうか?)


 俺はひとまず一礼をすると、椅子の前に進み出て彼の言葉を待つ。


 怪訝な顔をした彼は、俺に問いかけた。


「どうした……座らぬのか? それとも立っているのが趣味なのかね。」


 俺は少し気圧されながらも、静かに答える。


「申し訳ありません。人間の面接では、こういった時は目上の方が座るように勧めるまで座ってはいけないという決まりごとがあったのです。」


「なるほど……我の前では、そのような気遣いはいらぬ。座るがよい。」


 俺は椅子に座って、自己紹介を開始した。


「黒井 圭と申します。前世では営業と品質管理を務めておりました。また、種々の雑用や会社に関わる庶務などの経験もあります。」


 彼は興味深そうに俺を見て話しかける。


「我が名はルキフェル、魔王と呼ばれし者だ。ナロウワークの者より、そなたの前世での経歴は見せてもらった……中々面白い生き方ではないか。この≪雑用マスター≫と言うのは今まで聞いたことがないが、素晴らしい経験だな。」



 俺はルキフェルの言葉に少し心を動かされた。


(雑用を評価してくれたのは、久々だ……)


 ルキフェルは静かに俺に告げる。


「我が魔王軍でも求人をかけているのだが、≪ラクルート≫、≪ドーダ≫のようなエリート人生を送ったものが転生してくると、奴らは『前世で俺は英雄なのだ』とか言って、滅茶苦茶をしよるのだ。それで、≪ナロウワーク≫にも求人を出したわけだ。」



 俺は折角なので、仕事内容について聞いてみることにした。


「ところで、魔王軍の管理者というのは、どのような職務をするのでしょうか?」


 ルキフェルが笑みを浮かべて俺に告げる。


「我がいる世界では、五百年前から人間と魔王軍がお互いに協定を結んで、平和な世を築いてきた。だが、時間がたてば状況も変わる……それぞれの居住圏などの変化によって、諍いが生じ始めておる。そなたには、その原因を調査しながら状況を改善して欲しいのだ。」


 俺は少し状況を整理しながら、ルキフェルに尋ねる。


「恐らく……そのような諍いを起こすのは、新しく住み始めたものでしょうか?」


「ほう……なぜそう思うのだ?」


「昔からその土地で生きている者にとっては、多少の問題があってもそれが当たり前として、許容できるものなのです。ですが、異なる土地や世界から来たものは、常識というものが異なるために、その問題を過剰に気になってしまうのでしょう。」


「なるほど……そういった者に対してどう対処するのだ?」


「まずは移住前に、十分に特性や危険性について説明をするべきでしょうね。もう移住したものに対しては、しっかりと説明をした上でお互いに安全に暮らすための妥協点を見出すといったところでしょうか。」



 ルキフェルは満足げに頷いた。

「それが理想的な回答であろうな……ちなみにこの前≪ラクルート≫から来た前世勇者の者は、そんな奴らは力でねじ伏せればよいとのたまりおった。」


(そのほうが……魔王軍っぽいのではないのか?)


 俺はそう思っていたが、どうやらルキフェルは違ったようで笑みを浮かべて提案する。


「我はそなたを気に入った……是非とも魔王軍の管理者に迎えたい。条件は求人に書いたとおりだが、何か質問はあるか?」


「そうですね……強靭な肉体ってどのようなものなのでしょうか? 出来れば、人型というほうが嬉しいのですが。」


「安心するがよい。われの眷属として受肉させる……それならば文句はあるまい?」


 俺は、思わずその場で『お願いします!』と二つ返事をしそうになったが、まだ条件の確認は終わっていない。


(前のように、いきなり転生後に事情が変わった……なんてこともありうる、しっかりと最後まで確認しなければ危ないんだ)



 俺は、次に仕事に関するスキルアップについて確認することにした。


「分かりました。仕事に関するスキルアップとは何ですか?」


「スキルを習得するための教練を受けさせるといたところだ。会得するかどうかはそなたの努力次第になるがな。」


「それは望むところです……何も教えてくれずに、いきなり現場に放り出すようなことはしないっていうことですね。」


「そういうことだ。安心するがよい。」


(結構しっかりしているんだな……思ったよりこの求人はお宝なんじゃないだろうか?)



 俺が段々とこの仕事をやりたくなって来たのに気づいたのか、ルキフェルが微笑して水晶玉を取り出す。


 彼が何かの力を手に込めると、水晶玉に一人の女性が映り始めた。


「特典について話していなかったが、まだ独り身のこの娘と仕事ができるぞ? 少し気難しいところはあって嫁の貰い手がないのだがな……一緒に仕事をしていれば、そのうちそなたにも結婚のチャンスがあるやも知れぬ。」


 その瞬間、俺は即答した。


「やります……いえ、是非ともやらせてください!」



――やばすぎだろ! こんな美人と仕事できるなら死んでもいい。


 そこには何というか……紅色の瞳で白銀色の長髪を持つ、美人がいたのだった。

 きれいに結えた長髪を尻尾のようになびかせながら、悠然と歩く姿はそれだけで神秘のように感じる。

 男装風には見えるが、きっちりとした身なりはそれだけで品の良さを感じさせる。



 そう……俺は恥ずかしながら、彼女に一目惚れをしてしまったのだ。


(俺は……次の生を受けたら、この人を彼女にしたい!)


 ルキフェルが、微笑して俺に告げる。


「それでは……すぐに転生をしてもらうとするか。」


「ちょっと待ってください! 最後に一つだけ我儘を聞いてくれますか?」



 怪訝な顔をするルキフェルに、俺は手を差し出す。


「俺の姿でいられる最後の瞬間なので、この姿で上司となる人と握手をしておきたいんです。」


 ルキフェルは噴き出すように笑った後に、快く俺と握手した。


「そなたは変わった者だな……気に入った。褒美に、私からお前に権限を加えてやろう。お前は私の友として、転生後はどのような立場の者とも対等に話せ。私がそれを許してやる。」


 俺は、あまりの待遇にびっくりしたが、ルキフェルの好意に感謝する。


 そして、握手をしながら俺の体は光の粒子に変わっていって……

 まるで夜勤後の眠りに落ちるかのように、俺の意識は失われていった。

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