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一件落着……ですよね?

 もう何回手合わせをされられたかわからない。

 とりあえず千回まで数えたところで、俺は数えるのをやめた。

 いつ果てることのない立ち会いの繰り返しに疲れ果てて、俺は地面に倒れ伏す。


「はぁ……はぁ……もう……勘弁してください。」


 そんな俺を見てアズガルドは肩をすくめた。


「なんだ……もう終わりか? まあよい。()()()これくらいにしておいてやろう。」


 『今回』という危険な言葉の響きに、俺は思わず顔を上げた。


「へっ……今回?? まさか、またこんなことをやれとでも言うのですか? 冗談じゃないですよ!!」


 アズガルドは『何を当然のことを言っている』といった表情で俺を見下ろして、にやりと笑った。


「当然であろう? 我は地上のためにこれまでずいぶんと我慢を重ねてきた。このまま発散をせずに我慢を続ければ、いつか怒りが爆発してしまうやもしれぬ。そうなれば、困るのはケイの方だと思うぞ?」


 俺は助けを求めるようにノクターンの方を見る。

 だが、彼女はうれしそうな顔で俺に近寄って、ポンポンと肩をたたいた。


「アズ君って照れ屋だからこんな言い方しかできないんだけど、ケイのことをものすごく気に入ったのよ。」


「ええっ! そうなんですか!? 全然そんな風には見えなかったんですけど……」


 俺はそう言いながらアズガルドの方をチラリと見た。

 彼は気恥ずかしげに頭をボリボリとかきながらそっぽを向いた。


「姉君様、あまり余計なことを言ってはならぬ。ケイが調子に乗ってしまうではないか。まあ……今の我は気分がよい。だから、ケイの願いを一つぐらいは叶えてもよいと思っているぞ。」


 ノクターンはそんなアズガルドを一顧すると、俺に向かって意味ありげに微笑んだ。

 それを見た俺は少し考えた後に、アズガルドに願いを伝えようとした。


「それなら、アンバー……」


 だが、アズガルドはそれを遮った。


「姉君様に何を吹き込まれたかは知らぬが、『アンバーから《合コン》とやらに誘われたら、我がそれに応じろ』ということについては聞けぬ。それは、我自身が決めることだからな。」


 彼の返答はある意味予想がつくものだった。

 俺は悪戯っぽく笑いながら、静かに首を振った。


「誘われたらではなく、貴方がアンバーを合コンに誘って下さい。店とかについては俺の方がフェンリルにでも話をつけときます。誇り高い竜族なら、欲しいものは戦って勝ち取るものなんでしょう?」


 アズガルドは腕組みをしながら眉間に皺を寄せてきた。

 そして、度しがたいといった表情で首を横に振った。


「ケイよ……なぜ、それほどまでに他者の幸せを望むのだ? まさか、今までの転生者と同じように、己の犠牲をもって世界の平穏を望むとでも言うのではあるまいな。そんなものはただの偽善であって、何の解決にもならぬぞ。」


 アズガルドの声はとても厳しかった。

 だが、俺をのぞき込む彼の目は意外なほど優しかった。

 俺は少し考えた後、まっすぐに彼の目を見ながら答えた。


「お人好しと呼ばれるかもしれませんが、定命の者だった俺からすれば、アズガルドとアンバーの関係ってものすごくもどかしいんですよ。自分が望めば手に入るはずなのに、それをせずに拗らせていく。アンバーはとっても良い女性なんだから、ティターニアが業を煮やしてお見合いなんかでもさせたらすぐに成婚してしまいますよ?」


 『アンバーがお見合い』という言葉に反応して、アズガルドが目をむきながら俺の襟首をむんずとつかんだ。

 そして、ものすごい勢いでガクガクと揺らしてきた。


「アンバーがお見合いだと!? 何処の何奴とするのだ! そんな奴は我がねじ伏せてくれる!!」


「ちょっ!? 落ち着いて!! 例えばの話ですって……」


「これが落ち着いてられるかあぁぁぁぁぁ!! 俺の……()()()()()()()()()を誘惑する奴は誰だろうが潰してくれ……ぶふぉっ!?」


 怒りに震えなえながら吠え立てる彼の脳天に、ノクターンが強烈なチョップをたたき込んだ。

 不意打ちで強烈な一撃をもろに食らったアズガルドはそのまま地面に倒れ伏した。


「ぐぬぅ……姉君様よ……いきなり殴るとは、ひどいではないか。」


 涙目になりながら頭をさするアズガルドを見ながら、ノクターンはあきれ顔で言い放った。


「そんなに、アンバーのことが大好きなら直接《合コン》とやらに誘えばいいじゃないの。」


 ノクターンはそう言いながら、とある方向を指さす。

 その方向を見たアズガルドはぴしりと固まった。

 なぜなら、そこに頭のてっぺんから下まで真っ赤に顔を染めたアンバーがいたからだ。

 

「なんだよ……そんなにあたしのことが好きなら、最初から素直にそう言えばいいんだよ。そうすりゃ、もっとあたしだって素直になれたんだ。」


 ぼそりとそうつぶやくアンバーに、アズガルドはぶんぶんと首を振りながら絶叫した。


「はうあああぁぁぁぁ!? どっ、どういうことかあぁぁぁぁぁ!!」


 そんな彼に、ノクターンは悪戯っぽい顔で言い放った。


「こうでもしなきゃ、貴方は踏ん切りつけられないでしょ? もう言っちゃったんだから、さっさと《合コン》とやらに行ってらっしゃいな。」


「馬鹿な! 我は愛を囁くならもっとロマンチックな雰囲気の場所で、最高の口説き文句を……」


 頭を抱えながらオロオロとしているアズガルドの腕をアンバーがむんずとつかんだ。


「そういうまどろっこしいのはいらないんだよ! それとも、さっきのはでまかせだったとでも言うのかい?」


「いや……それは我の本心からの気持ちだ。」


 アンバーは気恥ずかしげに顔を背けるアズガルドの顔を強引に引っ張って、唇を重ねた。

 目を見開くアズガルドの頭を、彼女は満面の笑みを浮かべながらペシペシと叩いた。


「それならさっきので十分だ。さあ、フェンリルの旦那の店とやらにでも行って、さっきの恥ずかしい告白の続きでも聞かせてもらおうか。今日は二人っきりで《合コン》とやらをしようぜ。ずいぶんと待たせたんだから、夜通し聞かせてもらうよ。」


「わ……我は同意したわけでは……」


「ほら! 男なら、ごちゃごちゃ言わずにさっさと行くんだよ!!」


(いや……合コンって、そういう意味じゃないんだけどな……)


 激流のような二人の世界に完全に置いてきぼりを食らった俺に出来たことといえば、アンバーに引きずられていくアズガルドへ遠い目をしながら手を振って見送ることだけだった。

 アンバーとアズガルドが去ったことにより、静寂が訪れる。

 いろいろなことから解放された気がして、俺が大きなため息をついた。


「ふぅ……なんか思いっきり疲れたな。それじゃ、俺はこれで失礼しますね。」


 魔王城の資質に戻ろうと俺がゲートを開いた瞬間、背後から耳に息を吹きかけられた。


「どわあぁぁぁぁ!? ノクターン! なにをするんだよ。」


「私は何もしてないわよ? ねえ、ダーリン。」


 思わず振り返ると、俺の頬にブスリと指が刺さった。

 そして、そこには好々爺然とした笑みを浮かべたフォラスが居た。


「さすがケイじゃな。あの転生者嫌いのアズガルドが、お主にはあそこまで気を許すとはのう。それに、アンバーのとのこじれた仲もうまくまとまったようじゃしな。」


「ええと……いつから見てたのかな?」


「それは秘密じゃ。そんなことより、この者たちがケイに話があるというので連れてきたのじゃ。」


 フォラスはそう言うと、ゲートを開いて二人の男を呼び出すのだった。

いつも本作を読んで頂きましてありがとうございます。


次回は2/23(木)更新予定です。

引き続き本作をよろしくお願い致します。

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