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竜族と精霊魔女

 俺は食事をしながらノクターンから竜族についての話を聞いた。

 精霊魔女がそれぞれの要素の恩寵を象徴する者に対して、竜族は力を示す者だそうだ。

 表裏一体のような関係を続ける中で、恋愛感情を抱くようになるのは自然な流れというわけらしい。


「アントピリテはリヴァイ君のことが好きだったんだけど、そもそもリヴァイ君は格好良い男の子が好きなのよね……だから、あの子が全身全霊で歌っても彼には届かなかったってわけなのよ。」


「もしかして、アズガルドもそういった気があるんですか?」


 ノクターンは俺の疑問に対して、意味ありげな笑みを浮かべる。


「もし、そうだったら……どうするのかしら?」


 俺は慌ててブンブンと首を振った。


「俺はアリシア一筋なんで! 後ろの純潔はしっかりと守らせて頂きますから!!」


 それを聞いたアリシアが不思議そうな顔で俺を見る。


「後ろの純潔……一体なんのことなのでしょうか?」


「えっと……その……なんというか、形容しがたい何かと……」


 何とも答えがたい質問に、俺はしどろもどろになってしまう。

 そんな俺の頭をフォラスが思いっきり叩いた。


「この痴れ者があぁぁぁぁ!! 純真なお嬢様になんと言うことを教えようとしておるのじゃ!?」


「何をするのですか!? ケイが可哀想ではないですか!!」


 なかなかにカオスな状況となり始めたところで、ノクターンが悪戯っぽく笑った。


「はいはい、そこまでにしましょうね! アズ君はアンバー一筋なので男色には走ることはないわよ。」


 俺は深く息を吐いた。


「はあぁぁぁぁぁ……あまり驚かさないで下さいよ。身近な知り合いに、男でも女でも貪り喰っちまうような恐ろしい性獣がいるのだから、そんなこと言われたら信じちゃうじゃないですか。」


「あはは、ごめんなさい。まあ、アズ君は直情的だから一度実力を認めたら素直に話を聞いてくれると思うのよ。だからお姉さん的には、一発ぶちのめしちゃうのが良いと思うんだけどね。」


(とんでもないことを言い始めたな……)


 工房がある区画をまるごとを溶岩の海へと変えられるような化物にそんなことをしたら、体がいくつあっても足りない。

 そう思った俺は助けを求めるようにアリシアを見る。

 だが、彼女は真面目な顔をしながら俺に頭を下げた。


「アズガルドもまた、私と同じように自らの心を殺しながら地上の平和のために身を捧げ続けました。彼にも赦しを与えて頂けませんか。」


 俺は決まりが悪そうな顔をしながら、静かに首を横に振った。


「いや……その……赦しだなんて、そんな大それた事をしたつもりはないんだ。俺は自分が大事だと想った相手が理不尽な思いをしながら生き続けるのを見たくなかっただけさ。勝手に俺が前世で感じていた辛さとかを重ねて、そうなって欲しくないという気持ちを押しつけだだけ……なのかもしれない。」


 俺達のやりとりを見ていたノクターンが、決まりが悪そうに頭を掻いた。


「そんなことを言われると、お姉さんも辛いかな……アンバー達が意中の相手が居ても一緒にならなかったのって、私が死霊となって精霊女王を退いた上にフォラスと結ばれていなかったのに配慮していたって事情があるの。アンバーはアズガルドの気持ちを知っていたし、自分の気持ちに素直になれていれば、ここまで話もこじれてなかったかもしれないわ。」


「ふん……それはアズガルドに甲斐性が無いだけの話じゃろうて。ノクターンと儂が結婚した今となっては、そんな枷なぞ存在しておらぬわい。男らしく堂々と妻に迎えたいと告白すれば良いではないか。」


(偉そうに言っているけど、フォラスもぎりぎりまで素直になれなかったよね?)


 必死に笑いを噛み殺している俺をフォラスが睨め付けた。


「儂のことはどうでも良い! 早く、何か妙案をださぬか。」


(うーん……こう言うのって本人達の気持ち次第じゃないのかな?)


 そもそも、俺は前世で《年齢=彼女いない歴》だったわけだし、そんな妙案を出せと言われても困る。

 不器用な性格だから、相手に自分の本心をさらけ出すことしか出来なかったわけだ。

 結果としてうまく行っているとはいえ、それこそノクターンのいう一発ぶちのめすというやり方と何ら変わりは無いのかもしれない。


(ん?? 本心をさらけ出す……というか、そういった場を作ってやればいいわけか)


 俺はアンバー達に話した()()()()を思い出す。

 それをノクターンに提案すると、彼女は我が意を得たりとばかりに上機嫌で頷いた。


「そうそう! そういった感じの機会を設けたかったわけ。ケイったら、予知能力でもあるんじゃないかしら。じゃあ、私は早速アンバーへ……」


 だが、そこでフォラスがノクターンを制止した。


「待たぬか! いきなりそういったことを持ち出されても、あの娘は中々首を縦には振らぬじゃろうて。儂に妙案があるから、その機会を待つのじゃ。」


「う~ん……そうかもね。それじゃあ、ダーリンにお任せするわ。」


(なんか……もの凄く嫌な予感がする)


 満面の笑みを浮かべる両者を見て、何とも言えない嫌な予感がした。

 そんな俺にアリシアが優しくお酌をする。


「きっとケイならうまく纏めてくれると信じてます。アズガルドの説得なら私も手伝いますので、どうかよろしくお願いします。」


 酒に仄かな暖かさを感じて、俺は思わずアリシアの方を見る。

 すると、彼女は悪戯っぽく笑った。


「ふふっ……ケイのことだから、背筋に悪寒が走ってきたと言いそうな気がしました。だから、少しお酒を温めておきましたよ。」


 アリシアの気遣いに、気持ちがすこし軽くなった気がした。

 俺は彼女に勧められるがままに酒を口にする。

 口内の温度より若干暖かめの酒がするりと喉を撫で、とても心地よい気持ちになった。


「この一件が片付いたら、またこんな風にお酒を注いでくれるかな? それなら少し頑張っちゃおうか……なんてね。」


「もちろんです! その時は、もっと美味しい料理を作ってあげますからね。」


 アリシアは花開くように笑って、優しく俺を抱きしめる。

 言葉では言い表せないほどの至極な柔らかさと鼻腔をくすぐる良い香りに、俺の心臓の鼓動は否応なしに高鳴っていく。

 酒のせいで少し単純な思考になったようで、この幸せな感覚を与えてくれる彼女の為に俺は全力で頑張ろうと思ってしまうのだった。

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