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鉱山都市ベルクヴェルグ

 ポルトゥスにて新たな教皇を迎え入れてから数ヶ月経った。

 ミカエルの魔王軍に対する感情が少し緩和されたのか、魔王軍とクロノスの関係は改善傾向にあり、双方の交易が盛んになりつつある。

 そのため、従前より人間向けに輸出されていた物について、より人間に対して特化した対応を求められるようになっていた。

 そんな中、俺とアリシアはルキフェルからペルセポネから東の鉱山都市ベルクヴェルグへと赴くように命じられるのだった。



 * * *



 ゲートを抜けて、俺とアリシアはベルクヴェルグの街に到着した。

 街の近くには大きな火山があり、熱気がこの街まで伝わってくるようだ。

 

(火山が近いというだけあって、とても暑いな)


 まるでサウナの中にでもいるような熱い空気を吸いながら、俺は周囲を見渡した。

 家は花崗岩で作られた石造りで、無骨ながらも趣向を凝らしている。

 街の中心部と思われる場所には、大きな建物があり、そこから縦横無尽にパイプが伸びて家々に繋がっている。

 また、火山の方から街へ鉱物を運ぶリフトが繋がっており、街の工房に運び込んでいるようだ。

 そして、街のあちらこちらから、金属をコツコツと叩くような小気味よい音が鳴り響いていた。

 俺は物珍しげにキョロキョロと辺りを見回しながら、アリシアに話しかける。

 

「まるで街全体が工場みたいだね。」


「そうですね。クライノートと呼ばれる火山が近くにあるこの街には、金や貴重な鉱石が潤沢に採れる鉱山があるんです。そこから運んだ鉱石をドワーフが加工して、コブラナイがその価値を見定めるんですよ。」


「へぇ~そうなんだ。しかし、よく考えられて作られているようだね。」


 縦横無尽に街をつなぐ配管の流れを目で追いながら、俺はこの街を設計した者に尊敬の念を抱く。

 その時、ふと後ろから声をかけられた。


「物珍しそうな顔でこの街を見回しているようだけど、気に入ってくれたのかい?」


 俺が後ろを振り向くと、そこには、フォラスと褐色の肌をした目力の強い女性が居た。

 女性の背は俺と同じぐらいの高さで、癖のある暗い金髪を無造作に束ねている。

 唇は少し厚めだが、少し高い鼻と良いバランスでかみ合っていて、エキゾチックな魅力を感じさせた。

 スタイルは、少しスレンダーだが、筋肉質で均整が取れている。

 作業服のような男物のシャツとズボンを着ているが、肌が艶やかなのでドレスを着ればきっと映えるに違いない。


(そういえば、フォラスとノクターンの婚姻の宴の時に見た気がするな)


 俺はそう思って、その女性に会釈をする。


「魔王軍の管理者のケイです。街全体が工場のようで圧倒されました。そういえば、以前ノクターンとフォラスの婚姻の宴の際に、お会いしたと思うのですが……」


 女性は琥珀色の目を細めて頷いた。


「おお! 覚えていてくれたのかい? あたしの名はアンバーだ。爺さんの弟子で、このベルクヴェルグの街を取り仕切っているんだ。」


 フォラスが肩をすくめながらアンバーをジロリと見る。


「これ! 儂を年寄り扱いするでない。まったくお前という奴は……師匠に対する敬意をもっと持たぬか。」


 だが、アンバーは全く気にせずに、屈託のない笑顔をフォラスに返した。


「宝石も黄金も、年季が入っていた方が味があるってもんだ。そういった意味で、最大限の敬意を払ったつもりなんだけどさ。爺様くらいに長く生きたお方なら、それくらいの機微が分かるもんだろう?」


 フォラスはやってられんと言った顔でそっぽを向くと、大げさにため息をついた。


「まったく……この娘は御しがたい。それはそうとして、ケイはあの配管に興味があるようじゃな。」


 俺は大きく頷くと、配管の流れを目で追いながらアンバーに問いかけた。


「見たところ、中心の建物で蒸気作って家々に送っているようですね。リフトは蒸気の力を使って動かしているのでしょうか?」


 彼女はフォラスを一顧した後、試すような顔で俺に問いかけた。


「ケイ様はどうしてそう思うんだい?」


「家々に繋がる配管にドレン抜き(蒸気が冷えたときに出る水を抜く排水溝)があるからですよ。それに、リフトに繋がる動力系の脇から蒸気が噴き出していたので、そう推測しました。」


「なるほどね……それも《雑用マスター》とやらの力なのかな?」


「まあ……そういう所でしょうか。仕事柄、雑務で工場内を回る際に実際の工程の流れを確認するために、配管の流れを見るようにしているんですよ。」


(QC工程図だけじゃ分からないことがいっぱいあったんでね……)


 俺は、アンバーに前世の経験を少し伝えることにした。


「俺は、雑務の際に積極的に現場へ出ることで、実際に現場で何が行われているかを見るようにしていたんです。特に、配管の流れを知ることは、工程の繋がりを知る上でかなり有効な手段だったんですよ。」


「確かにそう言うのって大事だよね。他に何か気にかけていたことってあるのかい?」


「類似した配管についても、知っておいて損はないと思っています。例えば、原料の供給と次工程へ繋がる配管、イオン交換膜を通した製品用の水と洗浄や冷却に使用する工業用水の配管、加熱に使用する蒸気配管と熱媒の配管等……こういった配管を取り違えることで、不良品が出来る可能性があるんです。」


 アンバーは感心したような顔をして、俺の手を優しく握った。


「師匠が認めるわけだ……気に入った! 折角だから、あのリフトの動力源を見せてあげようか?」


(おおっ!? それは是非見てみたいな)


 彼女からの思わぬ提案に、俺は思わず彼女の手を握り返しながら頭を下げた。


「本当ですか!? 是非見せてください!」


 俺とアンバーのやりとりを見ていたアリシアが、若干気まずげな顔でアンバーに訊ねた。


「アンバー……本当にあの動力源をケイに見せるつもりなんですか?」


 アンバーは満面の笑みを浮かべてサムズアップする。


「お嬢は心配性だなぁ……あまり心配しなくても大丈夫だよ! ()()()()もケイ様に会いたがっていたし、私としてもこの街のことを知ってもらう上で、重要だと思うわけよ。」


 アリシアはなおも微妙な顔をしながらも、諦めたように首を振った。


「そうですか……貴女がそう言うならしょうがないですね。ケイはあの動力源を見ても驚かないでくださいね。」


(えっ……そんなに凄い物なのか!?)


 アリシアが何故不安そうな表情をするのか分からなかったが、町の隅々まで広がる配管を通せるぐらいの動力源となれば、是非見てみたいものだ。

 一抹の不安はあったが、俺とアリシアはアンバー引っ張られるようにして、街の中心部にある建物へと案内されるのだった。

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