ドリアードとの戯れ
色々と恐ろしい話を聞いてしまったが、気を取り直して網に魔法をかけて貰うことにした。
ポピィは森の近くの畑の脇に網を置き、ドリアード達に魔法をかけさせる。
ドリアード達の小さい手から柔らかい光が生まれて、網を包み込む。
網が小さい光の粒子に変わり、彼女達の手の上にふわりと乗った。
彼女達はタンポポの綿毛を飛ばすように優しく息を吹きかける。
光の粒子は畑へ飛び散り、ふんわりと地面に吸い込まれていった。
畑が春の陽気に当てられたように暖かくなり、芽が出始める。
ドリアード達は初々しい黄緑色の新芽を慈しむように愛でるのだった。
(なんというか……微笑ましいなぁ)
先ほどの恐ろしい体験を忘れさせる愛らしさに、思わず俺はほっこりとしてしまう。
ドリアード達はしばらく畑を愛でた後、網のあった場所から白い粉末を持ってきた。
彼女達は困ったような顔をして、粉末を俺に手渡す。
「これ……いらないの~」
「ん? この白い結晶は何かな……海の香りがするなぁ。」
白い粉末からは海の香りがして、俺はそれを嘗めてみる。
さらりとした食感と共に、口の中に塩の味と何とも言えない魚介の味が広がった。
「美味しい!? まるで上等な海鮮だしのような味わいだ。アリシア! これちょっと嘗めてみてくれないか?」
アリシアも粉末を一嘗めして驚く。
「アレトゥーサが魚料理で考えている出汁と同じような……いえ、それ以上の味がします。どういうことでしょうか?」
俺達の様子を見たフォラスも粉末を嘗めて、納得したような顔で頷いた。
「なるほど……魚網と言うことで、海の味が染みついているというわけじゃな。ドリアード達はこういった物は苦手じゃが、儂らにとっては良い副産物になるかもしれぬ。」
(確かに藻塩とか塩田で作った塩は旨味があるよな)
俺は屈みながらドリアード達が持ってきた粉末を貰っていく。
「この粉がいらないなら、俺が貰っていくね。これから定期的に、いっぱい網を持ってくるんだけど、同じように魔法をかけてこの粉をとっておいてくれないかな?」
ドリアード達は純真な笑みで頷いた。
「白い粉をケイ様がもらってくれるなら、いいよ~」
俺が優しげに頷くと、ドリアードが頭を撫でて欲しそうにすり寄ってくる。
あまりの可愛らしさに、思わず頭に手を伸ばしかけたところで、アリシアが俺の腕を取った。
「頭を撫でたら駄目ですって! まったく……油断も隙も無いですね。」
ドリアード達は無邪気な顔をしながら舌を出す。
「ばれちゃった~! ざんねんざんねん……」
(お……恐ろしい子!?)
俺は悪戯っぽく笑いながら、頭を撫でる代わりにドリアードを抱き上げてくるくる回った。
「そういう悪い子は~こうしてやるぞ~!」
「きゃ~! 目がまわる~!?」
一通り回った後に優しく地面に下ろすと、わらわらとドリアードが寄ってくる。
どうやら、ああいった遊びが好きなようで、一通り相手をする羽目になった。
ドリアード達は満足げな顔で一斉に頭を下げる。
「ケイ様、ありがと。楽しかったです~」
笑顔で頷く俺を見ながら、フォラスが呆れた顔をして呟いた。
「木に取り込まれかけたというのに、呑気なもんじゃのう……ケイは幼女嗜好でもあるんじゃなかろうか?」
アリシアが微笑ましげな顔で首を振る。
「ケイは前世でも、宴を主催した際に女性が連れてきた子供をあやしていました。純粋に、そういった世話をするのが好きなんだと思います。それに……」
そして彼女は、何かを思い出しながら顔を赤く染めて言い放つ。
「ケイは《レンタルビデオ》と書かれた店で、胸が大きい女性の釣書を嬉々として持ち帰っていたのです。ですから……どちらかというと、そういった女性の方が好みかと……」
「小さい子達の前で、そういうことを言うのはダメエェェェェ!?」
俺の絶叫を聞いたドリアード達が不思議そうな顔で首をかしげる中、ポピィとフォラスは腹を抱えて笑い続けるのであった。