第三話 サキュバスの住む家は騒がしい
朝、眠りから覚醒した精太の顔は柔らかな何かに包まれていた。
(……何だ?これ)
包まれているために、視界は真っ暗。
人生で経験したことの無い目覚め方に疑問を持ち、顔を包む何かから離れようとする。
そのためには何かを掴む必要があり、寝ぼけ眼でソレを鷲掴みにした。
「んん……精太ぁ……」
同時に艶かしい声が聞こえる。
ふわりと甘い匂いが漂ってきて、自分が掴んだ柔らかい物体を数回揉んだところで、遂にその正体に気づいた。
「ぎゃああ!!」
精太は背筋がゾッとして掴んだソレを振り払うようにして起き上がる。
「やん!」
無理やり乳房を揺らされた愛香がやや不満そうな声をあげて目覚めた。
「何してんだお前!!」
慌てる少年と対象的にサキュバスはゆっくり起き上がる。
彼女は生まれたままの姿で精太の前に身体を晒す。
何の支えも無い乳房が揺れ思春期男子の視線は釘付けになった。
「んー、あぁ、おはよう精太」
寝ぼけている愛香の緩い挨拶は精太に聞こえていない。
彼はしばらく男の夢を凝視してからハッと我に帰り、愛香に向けてタオルケットを投げつけた。
「出てけ!」
「おっと………へぇ」
困惑した様子の少年を見て色気のある笑みを浮かべたサキュバスは顔面に飛んできたタオルケットボールを受け流す。
頬を染めて前かがみで自分の上半身を見せつけるように顔を近づけ、ささやいた。
「ひどーい。昨日あんなに愛し合ったのに」
潤んだ瞳と甘い匂いで理性がおかしくなりそうで、自我を強く持たないと欲望のままに言いなりになってしまうような気がした。
「うるせぇよ勝手な事実捏造すんな」
精太はあしらうように背を向け、指で扉を指し示す。
「んー、良い朝……汗も滴る良い女ってねー」
出て行けの合図に不服なようだが、美しい身体に朝日を浴びてから、愛香はトコトコ部屋を出て行った。
「危ねぇぞアイツ…」
精太は寝起きに女性の裸体を見ることになるとは思わず、朝の生理現象を鎮めるため心を落ち着ける。
「確かに、ルールに裸で寝るなとか一緒に寝ないとかはなかった……」
同時に新たな悩みのタネが出現して頭を抱えた。
昨日現れたサキュバスを住まわせることにしたは良いが、男女が同じ家に住むことで起きるであろう問題を未然に防ぐため、二人は話し合い、住むにあたって幾つかのルールを定めることにした。
以下はその内容である。
家事は分担制
風呂トイレは使用前に報告
部屋に入る前はノック
パーソナルスペースを確保する
許可の無い外出禁止(愛香のみ)
まず家事は分担することに。
互いに良い暮らしをするため大まかに家事を3つに分け炊事、洗濯、清掃を当番制サイクル方式で回していく。
特に愛香は現状自宅待機のため2つの家事を行うこととなった。
注意事項として洗濯のみ下着は専用のネットに入れて部屋に持ち帰り、洗濯の当番時に他の衣類と一緒に洗い、部屋干しするを徹底し、互いの目に触れないように管理するように取り決めた。
次に風呂トイレは使う前に報告することで入浴及び排泄中に遭遇する、いわゆるラッキースケベ的事態を回避する目的がある。
部屋へのノックも着替え中に出くわさないため。
そして同居人にも礼儀ありの精神で相手のプライベートを過剰に侵食しないことを取り決めたのである。
最後の愛香の外出禁止については、具体的に彼女が今後どうするか決まるまでは、サキュバスなどという存在が外部に知られないようにするため許可しない限りは自宅待機することを決定したわけだ。
シンプルにした方がわかりやすいのでこの5つに限定し、これ以上は減りも増えもしない。
代わりに絶対遵守を約束することで両者共にルールを了承した。
愛香も精太に知ってもらっているだけで良いらしく他に知られて騒ぎを起こしたりはしないとすんなり約束してくれた。
さて、ルールは定まったものの問題はまだあった。
彼女が迫る性交についてだ。
拒否しても諦めなかったので特別な規定を設けることで合意。
それは次のようになる。
恋仲に進展した場合のみ応じる
性交についてやたらにしつこい愛香に対して精太が恋人とでなければしたくないと訴え、ならば恋仲になろうと愛香が提案。
すぐに好きになったりはしないため、愛香が精太を惚れさせて恋仲になれば互いに性交を受け入れることで合意し生まれたものである。
この規定により精太は仮に相手が憧れのお姉さんと同じ顔をしていても内面が違うので恋仲になるなどまずあり得ないと踏んで安心していたのだ。
翌朝に裸で添い寝されるとは考えていなかった。
「……気を強く持とう」
こんな調子でスキンシップを行われ、誘惑でもされた日には精太自身が規定を破り、欲望に負ける可能性が浮上した。
自分に言い聞かせ、愛香に遅れること数分。
彼も自室を後にする。
おそらく今、台所でサキュバスが朝食を作ってくれている。
昨晩も用意してくれたのだが、一つ問題があった。
愛香は媚薬を所持している。
昨晩はそれを露骨に飲ませようとしたのだ。
精力剤などと宣っていたが、拒否しても勧めてくるため不審に思って逆に問い詰めた。
すると意外にもあっさり媚薬と白状したのである。
もちろん拒否したものの、彼女は「流石に露骨だったか」などと呟いており、今回は巧妙に隠してくるのではないか。
そう予想した。
こっそりサキュバスの調理を監視。
結果。
「おい何してる?」
謎の小瓶を取り出して中の粉末を水に溶かす。
コップ内に謎の液体が完成し、これを調理中のフライパンに入れようとしたところで止めた。
「わひゃ!」
手首を掴まれて驚いたのか、愛香がビクッと跳ねてコップを落とす。
謎の液体が床にぶちまけられたが、先に問い詰めねばならない。
「あ、あら?どうしましたご主人様」
若干焦った様子のサキュバスの尋問タイムが始まった。
「ご主人様じゃねーよ。お前遂に料理に媚薬混入させようとしやがったな」
謎の粉末が媚薬であることは判明している。
昨晩、彼女の持つ小瓶を見ているからだ。
「な、そんなことしてないですますよオホホ」
以前は奪えなかったものの、わかりやすく動揺したサキュバスの手から、今回は小瓶を奪取出来た。
「没収」
「あ、あーん!せっかく来る前に怪しいお店で買ったのにー!」
「怪しい店で買ったもん混入しようとしたのかお前!?」
愛香の言動にはいろいろ言いたいことがある。
精太としては媚薬を使うのは規定違反ではないかということ。
その角が生えた明らかにおかしい格好で店に寄っていたこと。
怪しい店で購入したものを他者に盛ろうとしたことについて言及したかった。
監視しながら一緒に朝食を作り、安全な食事を済ませる。
朝の添い寝含め注意したいことは多いものの、学校に向かう時間が来てしまった。
「先が思いやられる…」
ボヤきながら着替えてカバンを手に靴を履く。
玄関のドアを開けようとした時、パタパタと愛香が走ってきた。
「いってらっしゃーい!」
ドアを開けた時に目撃されかねないから玄関にも出ないでほしいのが家主の本音である。
嘆息して振り向き、リビングに戻るよう促すつもりだった彼の目に素晴らしい光景が飛び込んできた。
「バッ!何だその格好は!」
肌色と白いエプロン一枚。
それが愛香の格好だ。
「裸エプロン!」
全く恥ずかしがることなく宣言して精太の前に立つ。
前しか隠れていない上、上半身の膨らみは布が薄いせいで若干透けて見える。
「仁王立ちすんな部屋戻れ!」
すぐさま愛香の肩を掴み、リビングに投げ込んで扉を閉めた。
「あん!いけず!」
不服な声が聞こえる。
「絶対家から出るなよ!」
精太は無視して扉越しに注意を飛ばし、玄関に戻ってきた。
「うん、別に出たくないし」
リビングの中からは呑気な声が返ってくる。
「じゃあな!」
少々乱暴にドアを閉め、家主は学校へと出発した。
歩きながらため息をつく。
媚薬未遂2回に誘惑的行動2回。
あのサキュバスは規定があっても隙あらば精太の貞操を狙っているのかもしれない。
そんな存在を家に置いて本当に良かったのだろうか。
心底不安が残るが、精太は高校生。学校に行かねばならない。
授業中は愛香の様子がわからないのが怖いものの本人が自宅待機を約束してくれただけでも安心材料であった。
何も言わず勝手に動き回られたりしたら噂どころではない。
とはいえ今後はこれらを心配しなくてはならないというのが精神的に辛い。
「よう白川。どうしたお前、疲れ切ってんぞ」
学校に到着し精太が教室に入るなり、席を立って近づいてきたのは彼の友人、真情 透悟。
扉を開けて入ってきた友人がげっそりしていたから心配で駆け寄るくらいにお人好しな男子生徒である。
この学校では前後の席になり、仲良くなった。
「まぁな」
短く答えて席に座る。
「あちゃー、寝不足?」
すると友人の背後から現れた者の声がかかる。
名前は高峰 友絵。
180cmというモデル並みの恵まれた身体を持ち、女子と関わらないという精太のポリシーの唯一例外に当たる存在。
精太一人の時はいないくせに透悟と会話していると大抵現れて自然と会話が成立してしまう。
女子には変わりないので関わりは少ないが事務的な会話しかしない彼が日常会話をする唯一の女子生徒だった。
「昨日いろいろあってさ…」
まさかサキュバスと同居することになってセックスを迫られて疲れたとは、口が裂けても言えはしない。
「なーにー?夜更かしでもしたわけー?」
透悟の机に座り、精太の肩をポンポン叩いてくる。
こういった男っぽい行動も精太が友絵と話しやすい点であった。
「そんなところ」
実際はぐっすり寝て肉体的には元気。
しかし精神的ダメージが大き過ぎて肉体にも影響している気がしていた。
とはいえいつまでも気分が沈んでいたら疲れが加速する。
精神を持ち直して、鞄から荷物を取り出している彼に、透悟から思い出したように会話が開始された。
「あ、そうだ。白川よ」
「うん?」
「お前一人暮らし始めたんだよな」
透悟とは夏休み中も何度か会っており、その際に引っ越しの話もしていた。
一人暮らしを始めてからはバイトもあって会えなかったため、今日になって聞いてきたようだ。
「え?あ、ああ」
唐突で反応が遅れた。
昨日の始業式では透悟が欠席しており、聞かれなかったため、自分の話題がいきなりくるとは考えていなかったのである。
因みに透悟の欠席理由は本人曰く宿題が間に合わなくて休んだとのこと。
そんな休みが許される環境が羨ましい。
「マジ?どんな家?アパートの一室とか?」
ここで他人の一人暮らしに何が面白いのか友絵が食いついた。
「いや、爺さん婆さんの住んでた空き家を貸してもらえることになってさ」
別に隠すことではない。
精太は自宅の情報を開示する。
「一軒家?」
友絵を押しのけ、透悟の発言が行われた。
「うん」
肯定すると彼は唸る。
透悟もマンションの一室に居を構える一人暮らしの生徒。
最初に会った時はこの歳で一人暮らしというのも珍しいと感じたものだが、まさか自分もそうなるとは思っていなかった。
「羨ましいなコイツめ。なぁ、今日見に行っても良いか?」
マンション住まいの透悟には一軒家は羨望の対象らしい。
「あー、あたしも行きたい」
何故か友絵も白川宅訪問を希望した。
「別に良いけど…あ、いや」
如何に自宅であろうと精太も見られて困るものは隠してある。
故に訪問は全く問題無い。
ところがそれは昨日の午前中までの話。
今は別の存在が枷となって訪問を断る原因と化していた。
「どうした?」
妙に引きつった表情を見せる精太の隣で透悟が首を傾げている。
「……まだ掃除が終わってないんだ。完了したら誘うから、それまでは」
そこまで聞いて、透悟は目を閉じ、頷いた。
「ああ、確かにエロ本とかは隠さないといけないもんな」
友人の面持ちから何を感じとったのか全く的外れな方向で納得する。
「そういう理由じゃねーから」
一応違うことを伝えておくが、否定し過ぎて詳しい説明を求められでもしたら、言い淀んで噂が立つかもしれない。
特に今は傍に友絵がいる。
彼女は女子。
女子間の拡散は早いので否定はそこそこに前を向いた。
「席に着けー、ホームルームを始める」
ほぼ同時に担任が教室に入り、後ろの机に座っていた女子が腰を浮かせる。
「ありゃりゃ、また後でねお二人さん」
手をヒラヒラと振りながら、友絵は自分の席に戻っていった。
「は!高峰てめぇ!俺の消しゴム持ってったな!」
席に着くまでを見送った透悟は、その後に気づいて立ち上がり、今しがたまで机に座っていた女子へ文句をぶん投げる。
「貸してー」
文句に対し軽快なお願いが返事となって飛び、無断で消しゴムを奪われた少年はサムズアップで笑顔を見せた。
「イイヨ!」
もはや付き合っていてもおかしくない距離感である。
精太の場合は嫌いなので考えすらしていないが、休日はデートに行っていたりする噂もある。
そんな2人にクラスから向くのは妬みか羨みか。
視線だけでは判断はつかない。
「静かにしろ!」
ただ一人担任だけが、騒ぐ二人を叱りつけていた。
朝のホームルームが終わり、学校自体は滞りなく時を潰す。
そのまま今日の下校時間になり、帰宅部エースの精太は部活に向かう透悟と別れ、さっさと校門に向かった。
正直な話、家にいる愛香の動向が気になって仕方ないのだ。
そのせいか周囲を警戒せず早足で廊下を歩いていた彼は段差に躓き、コケかけて目の前にいた人物にぶつかってしまう。
「おっと…」
顔が柔らかいものに埋まり、鼻腔に嗅いだことのある匂いが入ると同時に少年の方が跳ね返された。
後退し、前を確認するとボサボサの黒髪を持つ白衣の女性が確認出来る。
「うわ…す、すみません!」
彼女の胸部が揺れていた点から自分を跳ね返したものが何かを理解し、精太は焦って頭を下げた。
どうやら段差にせいで下がっていた分、彼の頭部は下降していて、コケた角度がちょうど相手の胸部に埋もれたようだ。
「いやいや、こちらこそすまない。不注意だったよ」
ぶつかられた女性は澄ました微笑みを見せて謝罪を口にした。
精太は気づく、この女性には見覚えがあったのだ。
保健室の養護教諭であり、一応は見知った人間。
顔を知る女性の胸に顔を埋めてしまったことには強い後ろめたさを感じてしまう。
「いや、その」
彼女はチラチラとした少年の視線に気づき、彼の心情を悟ったらしい。
「ああ、むしろこれがクッションになったんだ。怪我はないか?」
自分の乳房を持ち上げて見せる女性。
愛香よりも主張の激しい二つの丘から目を逸らした少年は胸を凝視してしまったことに対して再び謝罪を行った。
「無いです。すみません」
先ほどより更に深く頭を下げた男子生徒を見て女性は笑う。
「ははは、いいって言ってるじゃないか。今後は気をつけて」
教師の寛容な心に感謝し、精太は頭を上げる。
「はい、失礼します」
軽い会釈をして、その場を後にしようと早足で女性の横を通り過ぎた。
その時だ。
「うん?君」
養護教諭は振り向き、彼を呼び止めたのだ。
「はい?」
逃げるような早足は失礼だったか。
精太はそう考えつつ振り返る。
見ると、相手はまるで観察でもしているかのように下から上へと視線を動かしていた。
「…………」
最後に顎に手を当てて目を見つめてきたが、直ぐに背を向ける。
「いや、呼び止めてすまない。帰るなら気をつけて」
歩きながら手を振り、養護教諭は去って行った。
「はい。さよなら」
彼女の背中に別れを告げ、少年は帰路に着く。
最後に何故呼び止められたかは不明で少々気にはなる。
更に気になることはもう一つあった。
(何か、嗅いだことのある匂いだったな……)
何となくぶつかった時に鼻をくすぐった香りが記憶にあるもので、印象に残ったのだ。
まぁ現状は特に気にする必要はないだろう。
もっと気になるものが白川宅には存在している。
彼は速やかに自宅へと舞い戻った。
・・・・・
さて、ここまでが白川 精太の過去とサキュバスとの出会いの一部始終となる。
この後、精太は自宅で彼が隠していた成年向け雑誌を読む愛香を目撃した状況に繋がっていくのだ。
刺激的な光景と、自分の趣味全開のエロ本がバレてその場にいれなくなった彼が入浴し、そこへ愛香は乱入した。
「背中流してあげるよー!」
「勝手に入ってくんなぁぁ!!!」
少年は叫ぶ。
直ぐさま逃げようとした。
「まぁまぁ、スキンシップだよスキンシップ」
ところが肩を掴まれて座らされる。
力は向こうが上。
無邪気に見える笑みは有無を言わせない圧力を秘めていた。
「過剰だろ…コレは」
抵抗を止めて、愛香からの背中流しを受け入れた精太は目を閉じて無心を心がける。
「お風呂でセックスって男の子の理想じゃない?しない?」
だがサキュバスは誘惑とも取れる発言を耳元で囁き、息を吹きかけてきた。
「しねぇよ!出ろ!」
反射的に立ち上がろうとして、しかし押さえ込まれる。
そして愛香は一言。
「お風呂は別々ってルールはないでしょ」
反論出来なかった。
「確かにねーわ!作っときゃ良かった!」
後悔先に立たずで項垂れる精太の隣には裸のサキュバスが立つ。
「少年、今なら私の一糸纏わぬ姿を見放題だよ。さぁその目に焼き付けてムラムラしなさい!」
本当は見たい気持ちを抑え込み、少年は彼女のいる方と逆側を向く。
「見ない…」
「何で?ムラムラして良いんだよ。私の中に思いっきりキても」
「あのな…」
漂ってくる甘い香りで体が熱くなる。
今直ぐにでも発散したい欲を鋼の意思で抑え込み、サキュバスが諦めるまで耐える姿勢を取った。
「せっかく男女水いらずなのに気持ちイイことが無いって人生つまらなくない?」
それでも彼女はまだ諦めない。
愛香は彼の腕に纏わりつき、乳房を押し当てて来た。
遂に精太は耐えかねて浴室の外へと逃げ出す。
ボディソープのおかげで滑り、サキュバスの力から脱出することに成功したのだ。
「露骨だぞお前!規定を守れ規定を!!」
訴えながら浴室の扉を閉めて押さえつけ、愛香との間に物理的な壁を作る。
「もちろん守るわ。だから私から強要したりはしない」
壁越しには悪びれない愛香の答えが返ってくる。
「規定さえなければ無理やりってのも乙だけど」
さらに恐ろしい言葉が聞こえた。
(怖ぇえ…!)
少年は身震いする。
「でも精太が我慢できずに私を襲ったら受け入れるよ?この身体好きにしてみたいでしょ?」
このサキュバスの言葉とともにまた甘い香りがして全身が熱くなった。
先ほどもそうだがこの香りは危険かもしれない。
愛香に言われなくとも先ほどは本当に欲望を抑えきれなくなりそうだった。
だから浴室から逃げたのだ。
もし続けていたら今頃愛香に襲いかかっていただろう。
「……恋仲にならない限りしない」
この時、精太は力を抜いていた。
何とか絞り出した回答で緊張の糸が切れてしまったらからだ。
「もう、お堅いなぁ!」
緩んだそのタイミングをサキュバスは見逃さない。
扉が開かれ、少年はまた浴室に連れ込まれる。
「堅いのは股だけで充分!我慢は体に毒よ?」
「うるせぇ!」
抵抗するが抱きかかえるように押さえ込まれた。
「大丈夫大丈夫!精太秘蔵のえちちな本にも年上の女の子とのえちえちなシーンたっぷりだったし、好きなんでしょ」
自分の性癖が一部露呈して恥ずかしさの余り更に力を失う。
「好きだがこれは違うから!」
何とか持ち直そうとしたが既にがっちり押さえつけられていた。
「安心して。健全なソープ嬢が全身くまなく綺麗にしてあげるだけ」
舌なめずりをして妖艶な笑みを見せたサキュバスにゾッとし、逃げようとする。
「おい!やめろ離せ!ぐぉぉぉ!!」
それでも人外の怪力に抗えず、断末魔をあげた少年はサキュバスに入浴をサポートしてもらうこととなった。
唯一の救いは恥ずかしさのおかげであの甘い香りを認識することが無く、あくまで健全な方法で彼女による全身洗浄を受けさせられただけで済んだことだろう。
お読みいただきありがとうございました。
これにて出会いは終了です。
以後は緩やかに更新していければと思います。
進行状況は作者、天とうのTwitter(@suskama)に載せていくかもしれません。
よろしければ覗いてみてください。
作品がお気に召しましたら評価やブックマークをよろしくお願いいたします。
ではまた次回。