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記憶を頼りに夢の世界へ  作者: 三乃内 武丸
記憶を魔法に
1/1

プロローグ 夢で会いたい

 ――――夢でもいいから会いたい。


 身体が燃えるような感覚の中、そんなことを思った。

 燃えるような、ではなく、本当に燃えている。頭部からはチリチリと音がし、焦げる臭いが鼻をつく。熱いを通り越して痛みしか感じない。息をするたびに肺に熱が送り込まれ、中からも炙られていく。


 ――――ちゃんと、言うこときいているかな。ちゃんと、大人しくしてるかな。ちゃんと、ご飯食べてるかな。


 走馬灯のように思い出される小さな笑顔。我儘を言って叶った窓際のベッドで、内側の病魔と闘いながら、そんな様子を見せない快活とした表情。

 ハンバーガーが食べたい、ライトアップされたクリスマスツリーが見たい、テレビで見たようなアクロバットがやりたい。

 茶色がかった髪を大きく振りながら、小さな、けれども彼女にとっては大きな我儘に何度もため息をついた。そんな日々がどうも懐かしく感じる。

 

 けれど、彼女はただ一言も一番の我儘だけは言わなかった。


 ――――ちゃんと、生きててくれてるかな。


 たった一つの夢。一番叶えてあげたい我儘は、一度も言ってはくれなかった。


 水分の飛び始めた眼球に映るのは、熱気によって揺らめく三日月であった。あと、何度彼女は満月を見ることができるのだろうか。喉につまるといけないから、月見団子さえ食べさせてあげられなかった。

 食べたいものを食べたいと、見たいものは見たいと、やりたいものはやりたいと言う。誰かがどうにかできそうなものなら。

 ならば、彼女が一番したいことは、誰が叶えてくれるというのか。誰もが匙を投げた。巨額の費用が用意出来ればどうにかなる、なんて話でもない。誰にもどうにもできないようなものがどうにかなるならば、それはもう夢だ。叶わないものが叶う、できないことができる、そんな夢だ。


 ――――夢で、会いたい。


 そんな甘い夢の中で、会えたら。

 その時は、どんなことでも叶えてやろう。食べたいものは食べたいだけ、見たいものは見たいだけ、やりたいことは、やれるまで努力してもらおう。

 叶わない夢を夢想している自分を鼻で笑う。鼻から汚れた空気と熱気が入り込む。もう、むせるだけの反応をする体力も残っていない。


 遠くで、誰かが叫んでいる。それに応える高い音は、嘲笑の声。

 嘲笑は、何度もされてきた。憐憫の表情も何度も向けられてきた。お前には無理だ。そんな言葉を、表情を、空気を何度も味わってきた。

 身体の力が抜けていく。指先から、足先から、感覚がするりと抜けていく。

 何かが近づいてきて、死にかけの身体を揺さぶる。燃え盛る火を払おうとしているのか、布製の何かをやたらと叩きつけてくる。


 ――――もう、いいだろ。


 最後の息を吐き出して、ただの少年は瞼を下した。

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