一回戦:ヨシアキVSシグルズ②
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「ふぅー……」
流石に硬いな。ここで勝ったとしても次はあのジークフリートだからなるべく手札は隠しておきたかったんだが。仕方ないな。
オレは一旦跳びのいて距離を取った。
追撃してくるかと一応警戒していたが、銀騎士の奴に動く様子はない。あくまで待ちの姿勢という事か。
まあ、それが騎士の戦闘スタイルだしな。それをオレはよく知っている。
なら、オレは捌き切れなくなるくらい攻めるだけだ。
オレが魔法剣のスキルを発動させると剣に炎が纏う。
「行くぜ!」
炎の剣を構え、再び銀騎士に肉薄する。
魔法剣の効果でオレの攻撃力は格段に上がっている。だが、単純な攻撃力は重戦士であるジークフリートに劣るだろう。正面から打ち込んだところで防がれるのがオチだ。
なら、オレは魔法剣士らしく手札の豊富さで攻める。
「ハァ!!」
オレはあえて正面から迫り、剣を振り下ろす。
だが、それは銀騎士の硬い守りに阻まれ、届かない。これではさっきまでと同じ。違うのはここからだ。
剣に纏う炎によって銀騎士の視界が遮られ、死角が生まれる。その隙を突き、盾を避けて死角から火球を放つ。
だが、相手はハヤトの奴と並んで1、2を争う騎士。それすらも読んでいたのか身を捻って躱し、カウンターで剣を振るってくる。
それを視界に捉え、オレは小さく口の端を吊り上げた。
騎士の役割は敵の攻撃を一身に引き受けるタンク。特にニーベルンゲンみたいな効率重視のガチガチの攻略クランなら騎士が攻撃するのは最低限のはずだ。
だからこそ、防御に比べて攻撃にほんのわずかな隙がある。
「ここだ!」
気づかれないよう銀騎士の背後に回しておいた火の矢を操り、攻撃に意識の向いた間隙を突いて背中に直撃させる。
「ぐっ」
背後からの突然の衝撃に銀騎士の口からわずかに苦悶の声が漏れる。だが、流石は銀騎士。不意打ちにも動じず、そのまま剣を振るってくる。
オレが使ったのは然程威力の高くないファイアアロー。そのうえ、騎士の高いMIDと鎧に阻まれダメージは多くないだろう。
ここで反撃を食らえば痛み分けどころかこっちが一方的に損だ。これを食らう訳にはいかない。
オレは次に備えて体勢を整え、バックステップのアーツでギリギリ躱す。
瞬時に距離を取る事ができ、いざという時に使えるアーツだが、欠点もある。前へのフロントステップと比べて硬直時間が長いのだ。
だから、対人戦ではよっぽどじゃなければ使わない。
距離を取れるとは言ってもそれほど大きく取れる訳ではないのだ。使ってしまえば敵の目の前で無防備をさらす事になってしまう。
当然銀騎士もそれは知っている。知っているからこそ反射的に追撃に移ってしまうのだ。それがゲーマーの習性というものだ。
だからこそ、そこに罠を張る。
バックステップ発動直前に背後に向けて放っていた風球が地面に着弾し、激しい風を撒き散らす。
そこにピンポイントで着地したオレはその風に吹き飛ばされ、逆再生するかのように銀騎士に向かっていく。
硬直状態で体を動かす事はできない。だが、事前に前に向けて構えていた剣は吹き飛ばされる勢いそのままに銀騎士の体を捉え、弾き飛ばした。
「ぐわっ!」
ようやく一撃まともに当てれたな。
今の一撃で与えれたダメージはおよそ三割。硬い騎士相手ならまずまずのダメージ量だろう。ただ……。
「やるな、勇者。だが、そう簡単にやられはしないぞ。ハイヒール」
「勇者って呼ぶなっての」
オレは舌打ちしながら減らしたHPが回復するのを見ていた。
これがあるから騎士の継戦能力が半端ないんだ。
バランス型のステータスを持つ故に回復量に関わるMIDもそれなりにある。魔法関連のステータスが壊滅的な重戦士とはここが違う。
物理防御力なら一番の重戦士よりも騎士がタンクに最も適していると言われる理由だ。
硬い防御を突破し、回復が間に合わない程のダメージを与える。こりゃ、至難の業だな。
それからの展開は最初と同じ。オレが攻め、銀騎士が守る。違いがあるとしたら最初と違ってお互いにダメージがある事だ。
魔法剣士の多彩な手札を活かして攻撃に変化をつけ、翻弄してダメージを与えていく。
だが、全てが上手くいく訳ではない。時には攻撃を読まれ、カウンターを食らう事もあった。
与えたダメージだけならオレの方が上だろう。しかし、現状オレのHPは半分を下回り、対して銀騎士はほとんど減っていない。
……切り札を隠したまま勝てる相手じゃねぇな。
オレは勝負に出るべく覚悟を決める。
そんなオレの変化を感じ取ったのか銀騎士の気炎が高まっていく。
正面から受けて立つってか。オレの切り札を正面から叩き潰せばそりゃさぞかしカッコいいだろうな。
誰がさせるか!この世のイケメンは全てオレがぶっ潰す!
「ハアァァァァ!!」
気合いの叫びをあげながら地を蹴り、さらに風球を足下に放って解き放たれた風に乗ってさらに加速する。
「それは何度も見た」
勢いのついた振り下ろしに銀騎士は初めて自ら前に出る。今までは盾で受けるだけだったが、銀騎士は振り下ろした剣に盾を突き出した。
完璧にタイミングを合わせたシールドバッシュによってオレの剣は弾かれ、思わず仰け反ってしまう。さらに……。
「『ウオォォォォォ!!』」
銀騎士の口から雄叫びがあがる。
ウォークライ。挑発の上位互換のアーツで挑発以上にヘイトを集め、一瞬敵をスタンさせる効果もある。
一瞬とはいえ、刹那を争う戦いの中ではそれが命取り。すでにここは銀騎士の間合いの中。オレのAGIでは躱す事はできない。
とはいえ、騎士の攻撃力は然程高くない。今のオレのHPなら一撃くらいなら耐えられる。普通なら……。
「叛逆の意思!」
銀騎士が叫んだ瞬間、その手に握る剣が赤いオーラに包まれる。
アーツの中には特定の職業で決まったスキルの組み合わせがなければ覚えられないものがある。『叛逆の意思』もその一つ。
これは戦闘中に受けたダメージを剣に上乗せして放つというものだ。
ダメージを回復させたとしてもそれは溜まっていき、この戦闘中にオレが与えたダメージを考えれば今のオレのHPくらい一撃で削り切れるだけの威力があるはずだ。でも……。
「知ってたよ。そう来るのは」
叛逆の意思は一度使ってしまえば累積ダメージはゼロに戻ってしまう。それが当たったとしても外れたとしてもだ。だから、それを確実に当てるための場を整えると予想した。
そして、全てオレの予想通りだ。
オレはほくそ笑み、自らの切り札を切る。
「ブレイブソウル!」
スタンが解けると同時にオレは切り札たるスキルを発動させる。
その瞬間、オレの体は白いオーラに包まれ、今までを遥かに凌ぐスピードで振るわれた剣を躱した。
「なに!?」
今まで冷静さを保っていた銀騎士の顔に驚愕の色が浮かぶ。
これがオレが主流の戦士ではなく、魔法使いから魔法剣士になった理由。
ブレイブソウルは一定時間MIDの数値を任意のステータスに割り振る事ができるスキルだ。
AGIにステータスを割り振る事で急激に加速したオレは銀騎士の懐に飛び込む。
そして、剣を振る瞬間にAGIからSTRに移す。
「これで、終わりだぁぁぁ!!」
魔法剣と合わせて二重に上乗せされた一撃。そこにさらに一撃の威力を重視したヘビースラッシュを使う。
この一撃に限れば重戦士の全力をも凌ぐ。
「ハアァァァァ!!」
振り抜いた剣は銀騎士の胴を捉え、弾き飛ばした。
「ガハッ!」
飛んでいく銀騎士。そのHPに視線を向ければ全て消え去っていた。
『試合終了!勝者ヨシアキ!激闘を制したのはキングダムの勇者です!』
「勝ったか……」
ブレイブソウルは強力な反面効果が終わると全ステータスが下がる。ここで決められなかったらヤバかったな。
「負けたよ。やるな」
ステータス低下の倦怠感を感じていると、銀騎士がやって来た。
くそ、負けてもイケメンとかふざけんな!
「なんで勝ったお前がそんな憎々しげなんだよ」
「なんか用っすか?」
「まあいいか。最後のスキルはなんなんだ?」
「教える訳ないだろ」
「そりゃそうだ」
「そもそも、教えたところであんたには覚えられねぇよ」
ブレイブソウルの取得条件は過酷な環境に耐え抜く強靭な精神力。こんなイケメン野郎には覚えられないに決まってる。
オレはクランにいるだけで覚えられたけどな!
「ま、次も頑張んな。うちのリーダーは強いぜ」
「ふんっ」
爽やかな笑顔を浮かべる銀騎士に背を向け、オレはさっさと控え室に向かって歩き出した。




