一回戦:ヨシアキVSシグルズ①
「次の選手がやって来たねぇ」
同時に現れた二人のプレイヤー。その二人の登場に観客席から激しい歓声があがる。
「キャー!こっち向いてー!」
「銀騎士様、頑張ってー!」
「そんな奴、やっつけちゃってー!」
白銀の鎧に身を包み、悠々とリングに現れたのはニーベルンゲンのNo.2。銀騎士シグルズ。大人の色気を漂わせる甘いマスクに観客席の女性プレイヤー達から黄色い声援が送られる。それとは対照的に……。
「やっちまえ、勇者ぁ!」
「そんな野郎に負けんじゃねぇぞ!」
「顔だ!顔をやるんだ!」
次々と送られる野太い声援。観客席の声援は男女でくっきりと分かれていた。
「あの騎士の方に比べて相手は随分平凡な顔だねぇ」
「姉さん、そういう事をあまり言うものではないですよ。たとえ、それが事実だとしても」
「はは、ユーカもなかなか酷い言いようだねぇ」
「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」
『さあ、第二試合の選手がやって来ました!まずはこの人!黄色い声援を背に立つ色男!トップクラン、ニーベルンゲンのNo.2!呼び名の由来となった白銀の鎧に身を包む最良の騎士!銀騎士・シグルズゥゥゥゥゥ!!』
『職業は騎士ッスね。バランス型の職業で弱点のない優良職ッス。騎士の実力次第でパーティの生存率が大幅に変わると言われる中で間違いなく1、2を争う実力者ッス』
「特化している方が強いと言われる中で騎士は数少ない例外よ。どんな状況でも安定して攻撃を引きつけて味方を守る騎士はパーティに必須と言われているわ。火力面に不足はあるけれど、武器、攻撃魔法、回復魔法とどんな状況にも対応できる幅広さがある」
「僕達のパーティにはいないねぇ」
「必要ないもの」
ロータス一人いれば攻撃も防御も前衛は一人で事足りる。
『続いてはこの人!シグルズ選手とは対照的な野太い声援を背に立つはキングダムのNo.2!剣と魔法を巧みに操る天才!何よりその鋼のメンタルはまさに勇者!勇者・ヨシアキィィィィィ!!』
『職業は魔法剣士ッスね。剣と魔法の扱いに長けた汎用性の高い職業ッス。ある意味では騎士に近いかもしれないッスね。違いがあるとしたら騎士が防御に、魔法剣士が攻撃に長けているって事ッスね』
『奇しくもクランのNo.2対決となったこの試合!勝つのはどっちか!』
「ふむ?何故彼は勇者と呼ばれているんだい?」
「……彼の所属するクランはいわゆるハーレムクランなのよ」
「僕達みたいにかい?」
「私達がどうかは置いておくとして、β時代の時点で男女比は2:48。今はもっと増えているかもしれないわね」
「それはそれは」
「このハーレムというのは彼、ヨシアキではなくてもう一人。キングダムのクランマスターのなの。その中で唯一の男という事で『ある意味勇者』と呼ばれているわ」
クランの女性メンバーからはまるで相手にされていないらしいし。それでも残り続けているのはクランマスターであるハヤトがリアルの友達らしくて放っておけないからというのが噂だ。
「それで勇者ですか……」
「それ、強いのかい?」
「キングダムはトップクランの一つに数えられているわ。でも、メンバーの実力は他と比べて劣る。それでも、トップクランと呼ばれるのはハヤトとヨシアキ。この二人が飛び抜けているからよ」
「そんなにですか?」
「決勝トーナメントに残った八人の中で同一クランから複数残っているのはニーベルンゲンとキングダムだけよ。ニーベルンゲンに次ぐと言われている浮雲ですら残ったのはクランマスターであるヴェントだけ。それだけでも実力の程は窺い知れるんじゃないかしら」
『おまたせしました!第二試合の開始時間になりました!それでは始めましょう!一回戦第二試合、始め!』
開始と同時にヨシアキとシグルズは自己強化系のスキルやアーツ、魔法を重ねがけていく。
そして、先に動いたのはヨシアキ。剣を抜き放ち、シグルズに向けて肉薄する。
「フッ!!」
鋭く息を吐き、ヨシアキは勢いそのままに剣を振り下ろす。
それをシグルズは盾によって防ぎ、カウンターで剣を振るう。
シグルズの戦闘スタイルは剣と盾を使ったオーソドックスなもの。巧みに剣と盾を操り、相手の攻撃を防いでカウンターを叩き込んでいく。
シグルズに比べればヨシアキには粗さがある。それでも、ヨシアキにはそれを補えるだけのセンスがある。
カウンターで振るわれた剣を咄嗟に屈んで躱し、素早く左手を向ける。
そこから放たれるのは火球。
どうやら、剣を振りながら詠唱をしていたようね。
「詠唱は動いたら中断されるんじゃなかったかな?」
「彼も移動詠唱のスキルを持っているのでしょうね。魔法剣士には必須のスキルだもの」
隠しスキルではあるけれど、移動詠唱のスキルはそれなりに知られている。持っていてもおかしくはないわね。
カウンターのカウンターになった火球だったけれど、シグルズにとっては想定の内。巧みに盾を操り、火球を防ぐ。
交差する剣と剣。放たれる魔法とそれを防ぐ盾。お互い決定打を与えられないまま時間が過ぎていく。
「ここまでは互角かねぇ」
「こんなのは小手調べよ」
「そうなんですか?」
「ええ、お互いまだ手札を切っていないわ」
「なら、どっちが勝つと思うんだい?」
「それはお互いの隠している切り札次第ね」
どちらもトップクランのNo.2。当然表に出していない切り札の一枚や二枚持っているでしょうね。
「気になるのはヨシアキの方ね」
「何故だい?」
「魔法剣士の固有スキルに魔法剣というものがあるわ。これは魔法を武器に纏わせて威力をあげるというものよ」
「ふむ」
「魔法剣士という職業は戦士と魔法使いの両方からクラスチェンジできるわ。このどちらかからクラスチェンジするかでステータスは変わってくるの。魔法剣のスキルを活かすなら戦士からクラスチェンジするのが主流ね。でも……」
「彼は違うと?」
ユーナの言葉に私は頷いた。
「β時代は戦士からのクラスチェンジだったわ。なのに、本サービスになってからは魔法使いからになっている。あえてそうしたという事はそこに何か理由があるという事よ」
それがどんなものか。流石に見ない事にはわからないわね。




