一回戦:ミナスVSジークフリート②
先手を打ったのは当然ながら弓使いであるミナス。距離を取るため後ろに跳びのきながら矢を放つ。
硬い鎧に守られたジークフリートに有効打を与えられる部分は多くない。
その中で特に弱い部分があるとすれば、それは視界確保のために空いた目の部分の穴。極わずかな隙間に放たれた矢は吸い込まれるように向かっていく。
しかし、それはジークフリートの操る大盾によって阻まれる。
さらに続けてミナスは矢を放っていく。
目の部分に加え、各部関節に矢が向かっていくが、そのことごとくが大盾によって阻まれる。
「ミナスの方が一方的に攻撃する展開だねぇ」
「騎乗槍の間合いは広いわ。でも、弓の射程には程遠い。AGIも低い重戦士じゃどうしたって届かない。この二人の戦いになればこの展開は必然よ」
リングの上を大きく回りながら矢を放っていくミナスだけれど、結果は変わらない。
AGIに大きな隔たりがあるとはいえ、騎乗槍の間合いに入らないよう大回りしなければならないミナスと違ってジークフリートはその場で回るだけでいい。それによってジークフリートは常にミナスを正面に捉え、飛来する矢を防いでいく。
「膠着状態ですね」
「これ勝負が着くのかい?」
この大会の勝敗はHPの全損か場外、どちらかが敗北を認めた時点で決まる。
時間制限がない以上このままでは永遠に続いてもおかしくない。でも……。
「着くわ。どうやらミナスってプレイヤーは対人戦の経験が少ないみたい」
「わかるんですか?」
「狙いが素直過ぎるわ。弓の腕はNo.1と呼ばれるだけはある。あの正確性はゲームシステムだけじゃなくリアルでもかなりの腕ね。弓道をやっているんじゃないかしら」
プレイヤースキルが飛び抜けている。弓だけならロータスに匹敵するかもしれない才能ね。
「でも、実戦と的当ては違う。ただ正確なだけじゃ勝てないわ。ジークフリートの位置をよく見て」
「……少しずつ移動している?」
「ええ。ミナスに気づかれないように少しずつ距離を詰めている。そろそろ来るわ」
ここまで防戦一方だったジークフリートがここに来てついに動き出す。
フロントステップから騎乗槍を前方に構え、アーツランスチャージ、そしてさらにフロントステップ。
三連続の移動系のアーツよって低いAGIを補い瞬く間にミナスとの距離を詰める。
そして、間合いに入ったミナスに薙ぎ払うように騎乗槍を振るう。
ここが勝負の分け目。ここで選択を間違えば戦況は一気に傾く。
結果、ミナスが選択したのを後方へ下がる事だった。
もし、これがもっと広い場所での戦いだったならそれは間違いじゃない。むしろ、弓の射程を生かすなら正しい選択である。
でも、これは限られたリングの上。ただでさえ距離を取るためにリングを大回りしていたのだから、そこからさらに下がれば待っているのは死路だけ。
「これが狙いだったんですか……」
「でしょうね」
ミナスは気づけばリングの角に追い詰められている。
場外が負けである以上正面に陣取るジークフリートを抜かなければならないが、そこはすでに騎乗槍の間合いの内。
左右を抜くにはリスクが高い。だからこそ、ミナスがどう行動するか。
「ここまでね」
一か八かの勝負に出たミナスは地を蹴り、自らジークフリートに向かっていく。
そして、ジークフリートを飛び越えるように跳び上がり、その足を騎乗槍を手放した右手に掴まれた。
「今の動き、読んでいたのかい?」
「でしょうね。事前に騎乗槍の横薙ぎを見せたのも布石。あれで間合いの広さを印象づけてミナスの行動を誘導したのよ」
足を掴んだジークフリートはそのまま振り回し、リングの外に放り投げた。
『試合終了!勝者ジークフリート!最後は呆気ない幕切れでした!』
「相性が悪かったとしか言えないわね。ジークフリート以外だとロータスくらいしか勝てないじゃないかしら」
「そんなにですか?」
「今回は高い物理防御力を持つ相手だったから狙う場所が制限されていたけれど、騎士くらいの防御力なら鎧の上からでもダメージを与えられるわ」
「それはたしかにロータス君くらいしか対処できなさそうだねぇ」
それにしても、あのミナスってプレイヤーどこかで……。
◇◆◇◆◇◆
「アルテミスの奴惜しかったな。いい勝負してたんだが」
控え室に備え付けられたモニターで観戦していたヴェントがそう感想を漏らした。
「そうだな」
あれでもし、もっと対人戦の経験を積んでいたなら結果は違っていたかもしれない。まあ、現代日本ではそんな機会一生ないだろうけど。
「厄介な竜殺しの奴を倒してくれたら助かったんだけどな」
とはいえ、相手のジークフリートというプレイヤーも流石はNo.1クランを率いるだけの事はある。
ミナスの戦い方から対人戦の経験が不足している事に気づき、それを前提とした戦術を組んでいた。
そのうえ、自分の長所と短所もよく理解している。NWOでの戦い方なら俺よりも上手だろう。
「だが、相性はジークフリートよりもミナスの方が悪いんじゃないか?」
マーネから予選の動画を見せてもらったが、ヴェントの戦い方は己の手足を使った格闘戦だ。遠距離から一方的に攻撃できるミナスとは相性が悪いはずだ。
「あー、まあ、たしかにそうだな。鎧に関しちゃやり用はあるけど、そもそも近づけないんじゃ話になんねぇしな」
「それはオレもだな。オレは魔法剣士だから遠距離の攻撃手段もあるけど、詠唱する隙なんてなさそうだし」
「この三人に共通しているのは耐久面の低さだよな。三人共防具らしい防具はつけてないし」
ヴェントは着流し、ヨシアキはローブ。で、俺は普通の服。
全員素材こそは一線級の物を使っているだろうが、耐久面を重視した装備ではない。ジークフリートの着ていた鎧とは比べるべくもないだろう。
「まあ、もしもの話をしていても仕方ねぇな。それより、次はヨシアキの番だろ?相手はニーベルンゲンのNo.2だ。負けんじゃねぇぞ」
「任せてくださいよ!オレには負けられない理由があるんすから!」
「負けられない理由?」
「モテる奴は全力でぶっ潰す!オレはそう誓ったんだ!」
「……そうか」
チラリとヴェントの顔をが見るが、処置無しとばかりに首を横に振る。
まあ、やる気(殺る気?)になっているのに水を差す理由もないか。
「おっしゃ!やってやるぜ!」
気合い十分の様子でズンズンと控え室を出ていくヨシアキを俺は無言で見送った。
「大丈夫なのか?」
「ま、大丈夫だろ。あいつはあれでも強ぇぜ」




