冒険者ギルド
「そういえば、この串ってどうしたらいいんだ?」
俺は串焼きを食べ終わって残った串を示しながら尋ねた。
「アイテムボックス経由で捨てる事ができるわよ。いらないアイテムはそこから捨てるのよ。一応プレイヤーが落としたアイテムは一定時間でロストするからその辺に捨ててもいいんだけど、マナー的にはよろしくないわね」
「なるほど」
メニューを操作して持っていた串をアイテムボックスに入れ、そこから改めて串を押せば『出す』『捨てる』という選択肢が出てくる。
「じゃあ、行きましょうか」
「ん、ああ」
立ち上がって歩き出したマーネに慌ててメニューを閉じて追いかける。
「今度はどこに行くんだ?」
「冒険者ギルドよ。本来なら最初に行くべきなのだけれど、ログイン直後は混んでいたから後回しにしたのよ」
ログイン直後の様子を思い出し、納得げに頷いた。
たしかにあの混雑のしようだ。最初に行くべき場所なら相応に混んでいるのは間違いない。
「着いたわ」
「もうか?」
「広場からすぐなのよ」
マーネの立ち止まった建物を見上げ、俺は感嘆の声を漏らした。
「デカイな」
「かなりの人が集まる場所だもの。大きさもそれなりになるわ。貴方がキャラメイクしている間に一度見てきたけど、入りきらない人が外まで溢れていたわよ」
「それはまた……」
特別人混みが苦手ではないが、好き好んでそんな場所に突入したいとは思わない。
俺ですらそうなのだから、人混みが苦手なマーネはなおさらだろう。
「入りましょうか」
「ああ」
冒険者ギルドの入り口に近づいていけば中から喧騒が聞こえてくる。
最初に比べればマシなのだろうが、それでも中には多くの人がいるのだろう。
「ふむ」
西部劇に出てくるようなウエスタンドアを押し開けて中に踏み入れば多数の視線が集まってくる。
値踏みするような視線や好奇の視線。なかでも一番多いのは嫉妬の視線だろう。
多数の視線などどこ吹く風だと言わんばかりに突き進むマーネの背中に苦笑を漏らした。
まあ、凛といればこういう視線はいつもの事だしな。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
マーネが空いていた受付の前に立つと受付嬢が笑顔で対応してくる。
いくつか並ぶ受付にはそれぞれ受付嬢がおり、その全員が美人といって差し支えない人ばかり。
横を見てみれば受付嬢にナンパをしているプレイヤーらしき男もいるくらいだ。
彼女達もおそらく住人なのだろうが、プレイヤーのナンパを笑顔であしらう様子はやはり人間と区別がつかない。
「ギルドの登録をお願いするわ。私とロータス二人分」
後ろで周りを見回していた俺はマーネの視線を受けて横に並んだ。
「かしこまりました。では、お二方のお名前を聞いてよろしいでしょうか?」
「私はマーネ。こっちがロータスよ」
「マーネ様にロータス様ですね。お二方は来訪者でしょうか?」
「ええ、そうよ」
「承知いたしました」
受付嬢は何か書類に書き込むと俺達の前に二枚の白いカードを差し出してきた。
「それでは、こちらをお受け取りください。お二人のギルドカードになります。これで登録は完了です」
「ずいぶん簡単なんだな」
もう少し面倒な手続きがいるのかと思ったが、実際はかなりあっさりとしたものだった。俺達がしたのは名前を言っただけだ。
カードを受け取りながら首を傾げた。
「来訪者の方にはお名前を伺うだけでいいという規則がありますので」
「規則?誰が決めたんだ?」
「なにぶん古くからある規則ですので誰が決めたかまでは……。申し訳ありません」
困ったように言う受付嬢に俺は首を振った。
「いや、ちょっと気になっただけだから気にしなくていい」
「ありがとうございます。それでは、冒険者ギルドの説明をさせていただきたいと思うのですが」
「いえ、必要ないわ」
そう言ってマーネは首を横に振った。
マーネはβテストの頃に一度聞いているのだろう。その分時間短縮という訳か。
「そうですか。それでは、他に何かお聞きしたい事はありますか?」
「なら、名前を聞いていいか?」
「これは失礼しました。私は当ギルドの受付を担当していますレイナと申します。何かありましたら気軽に声をかけてください」
「ああ、わかった。これからよろしく頼む」
レイナに頭を下げ、俺達はレイナの元を辞去した。