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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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森の中の鍛治師

 俺達は四人と一羽で北の森にやって来ていた。

 その理由はラピスから聞いた刀のレシピが貰えるかもしれない場所があるからだ。

「なかなかありませんね。情報は正確なんですか?」

「彼女が人として信用できるかはともかく、情報は信用できるわ」

「長くない付き合いだけど、それには僕も同意するよ」

 いつも通りの笑みで語るユーナにマーネとユーカは揃ってジト目を向ける。

「おや?どうかしたかい?」

「姉さんはもう少し反省してください」

「そうね。相手と話す情報は流石に選んでいるでしょうけど、誰にでもなんでもかんでも話すようだと本気で友人をやめるか検討する事になるわね」

「それは困ったねぇ。僕はこれからも友人でいるつもりなんだけどねぇ。はっ、もしかしてただの友人ではなく、それ以上になりたいという事かな?ふふ、そういう事ならやぶさかではないねぇ」

 まるで反省の色が見えないユーナにマーネは諦観を込めてため息を吐いた。

 こんなユーナだが、それでも友人関係が続いているのは線引きが上手いからだろう。なんだかんだと最後の一線は超えてこない。

 そのギリギリを見極めてマーネをからかっているのだ。

 本当に考えなしならすでにマーネは見放しているだろう。

「ところで、これから僕の研究資金はどうしたらいいんだろうか?」

「知りません」

「自分の情報でも売ったら」

 ユーナの言葉に二人は投げやりに答える。

「それもありかもしれないねぇ」

 ユーナなら本当にやりそうだな。

「ところで、妹の情報ならセーフだろうか?」

「姉さん!」

「ふふ、冗談だよ、冗談。僕の妹は今日も可愛いねぇ」

「くっつかないでください!」

 抱きついてくるユーナをユーカは鬱陶しそうに振り払った。

「む?」

 と、その時、森の奥に小屋のようなものが見えてきた。

「もしかして、あれじゃないか?」

「たぶんそうね。これじゃあ、普通に攻略しているだけだとまず見つからないわ」

 小屋があったのは北の森でも外れの方。しかも、木々に囲まれていて、あるとわかったうえでよく見なければまず見つからないようになっている。

 あの小屋に住む住人から刀のレシピが貰えるかもしれないというのがラピスの情報だった。

「すみません!」

 俺はドアをノックし、声をかけてみるが返事はなく、ドアが開く事もない。

「留守、でしょうか?」

「かもしれないな」

「慌てても仕方ないわ。少し待ってみましょう」

 そう話し合っていると、気づくといつの間にかユーナが窓から小屋の中を覗き込んでいた。

「人の家を勝手に覗き込むのはどうかと思うわよ」

「まあまあ、そう硬い事言わないでおくれよ。それより、見てごらん」

 俺達三人は顔を見合わせ、ユーナに促されるまま小屋の中を覗き込んだ。すると……。

「壁一面に武器が飾られているわね」

「見たところどれもかなりの業物だと思う。ユーカはどう思う?」

「そうですね。少なくとも、今の私には到底作れないものばかりです」

 その時、気配察知のスキルに反応があり、俺は背後を振り返った。

「ワシの家で何をしている」

 現れたとは老年の男。年齢はかなりいっていそうだが、その体は引き締まり、覇気を放っている。

「失礼しました。俺達はここで刀の作り方を教えてくれると聞いてやって来たの者です」

「……まったく、どこで聞きつけてきたのか」

 男は(わずら)わしそうに眉をひそめた。

「ワシの名はローガン。確かにワシは刀を作れる」

「それじゃあ──」

「条件がある」

 俺の言葉を遮り、男は指を三本立てた。

「品質A以上の鉄。レベル20以上のモンスターのドロップアイテム。ロックワームの牙。この三つを持ってこい」

 それだけ言うとローガンは俺達を置き去りに小屋の中に入っていった。



 〈クエスト『森の鍛治師の試練』を受諾しました〉



「品質A以上の鉄とかあったっけ?」

「ないけれど、それは問題ないわ。錬金術を使えば数を減らして品質を上げる事ができるから」

「僕の出番という訳だね」

「レベル20以上のモンスターのドロップアイテムはデカラビアの魔石があるからこれも問題ないわ」

「問題はロックワームだねぇ」

 ロックワーム、聞いた事のないモンスターだな。

「巨大な肉食のイモムシよ。出現場所は堅牢なる荒野。地面の中に住んでいて滅多に出てこないわ」

「それどうやって倒すんだ?」

「一応手はあるわ。とにかく、堅牢なる荒野に移動しましょう」






「で、その手っていうのはなんなんだ?」

「これよ」

 マーネはドロップアイテムの肉塊を取り出した。

「ロックワームが地上に出てくるのは食事の時だけよ」

「つまり、その肉で誘き寄せるって訳か」

「ええ、そうよ」

 マーネはその肉塊を地面に置き、魔杖を向けた。

「何する気だ?」

「単純に肉を置いただけじゃ駄目なの。肉を焼いてその臭いを地中にいるロックワームに届けるのよ」

「なるほど」

 だが、それには一つ懸念がある。

「ファイアボール」

 肉を焼くため、マーネは火球を放った。

「マーネ、料理できないんだよな……」

 結果、できあがったのは真っ黒に炭化した肉だった物。

「ふふ、これでロックワームは寄ってくるのかい?」

「う、うるさいわね!」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべるユーナにマーネはそっぽを向いた。

「だったら貴女がやってみなさいよ」

 新たに肉塊を取り出し、それをユーナに渡した。

「こんなもの簡単だよ。僕には生活魔法があるからねぇ」

 生活魔法は戦闘には役に立たない補助用の魔法。その中にライターくらいの火を生み出す魔法もある。ユーナはそれを使う気なのだろう。

「とはいえ、生活魔法だけだと焼くのに時間がかかるからねぇ」

 そう言ってユーナは何か液体の入ったビンを取り出し、肉塊に振りかけた。

 ……あの液体が何かはわからないが、いい予感はしないな。

「リトルファイア」

 指先に灯った火を肉塊に近づけていき、次の瞬間肉塊は一気に燃え上がった。

「どうだい?僕の作った発火薬は。小さな火種でもここまで燃え上がらせる事ができるんだよ」

「姉さん、目的がなんだったか覚えていますか?」

「おや、なんだったかな?」

 二つ目の炭を前に俺とユーカは揃ってため息を吐いた。

 ユーナに関しては料理どうこう以前の問題だ。

「お二人はこれ以上何もしないでください。あとは私がやりますから」

「「はい」」

 ユーカに変わった事でそれからはスムーズに進み、辺りには肉の焼ける香ばしい臭いが漂い出した。

「美味しそうな臭いだねぇ。食べてもいいかい?」

「姉さんは黙っていてください」

「ロータス君!最近妹が冷たいよ!」

 ギュッと抱きついてくるユーナの眼前にマーネの魔杖が突き出される。

「ついでに貴女も焼いて餌にしてあげるわ」

 二人は相変わらずだな。

「ただ、遊びはここまでみたいだ」

 俺はユーナから腕を引き抜き、肉を焼いているユーカの元に駆け寄り、そのまま抱きかかえてその場から跳びのいた。

「え、な、なんですか!?」

「悪いな、少し我慢してくれ」

 直後、地面が揺れ、地中から何かが飛び出してきた。

 それは聞いていた通り、巨大なイモムシ。その口には鋭い牙が並び、凶暴さを表している。



 ロックワームLv18

 種族:魔蟲



「あれがロックワームか。レベルも高めだな」

 マーネとユーナのいる所まで後退した俺はそこでユーカを下ろし、剣を抜いた。

「あのブヨブヨした皮。どんな感触がするのか少し興味がありますね」

「地域によってはイモムシは食べられているけど、あの大きさだと僕達の方が食べられてしまいそうだねぇ」

「ロックワームの肉は結構美味しいわよ。珍味として高値で取引されているわ」

「それは是非食べてみたいねぇ」

 あまり女性受けのする見た目ではないはずだが、うちの女性陣はたくましいな。

「それより、時間をかけると逃げられる可能性があるから速攻で倒すわよ」

「わかった」

 俺は狂化を発動させ、ロックワームに肉薄した。

 駆け寄る勢いそのままに一閃。ブヨブヨとした感触が手に伝わってくる。

 硬くはない。だが、厚い皮に阻まれ、ダメージはそれ程大きくはない。

 それでも、今の俺は攻撃力重視の狂戦士。痛みに暴れ回るロックワームを掻い潜り、次々と攻撃を叩き込んでいく。

 そこにマーネも魔法を放ち、戦術も何もない力押しでダメージを積み重ねていった。

「呆気なかったな」

 倒れ伏し、光の粒子に変わっていくロックワームを前に俺は剣を収めた。

「こんなものでしょ。それより、目的の物も手に入った事だし戻りましょうか」

「そうだな」

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