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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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情報屋

「ロータスさん、剣よりも刀の方がいいですか?」

 ユーカの剣作りが始まってから早三日。いつも通り鉱石を運んできた俺にユーカが突然そう尋ねてきた。

「あー、それはまあ、そうかな。剣は慣れてないから上手く扱えてないしな」

「上手く……?」

 俺の言葉にユーカは首を傾げた。

「あれで上手く扱えていないんですか?私からすれば十分に扱えていると思うんですけど」

「そうか?俺としてはまだまだだと思っているんだが」

「……まあ、常人には天才の感性は理解できないものですし」

 ユーカは頭を振ってどこか諦観をにじませながら納得した。

「それより、話を戻しますが、できるなら刀の方がいいという事ですね」

「ああ。でも、作れるのか?」

「現時点では難しいです。作るにはそのためのレシピが必要ですし、一応調べてみたのですが、私が調べた限りではそれらしき情報はありませんでした」

「なら、無理に刀に拘る事はないんじゃないか?せっなく品質も上がってきたのに」

 俺は近くに置いてあった剣を手に取った。



 [鉄の剣]品質B

 鉄から作り出された剣。一般的な剣で品質はやや良い。

 ATK+35

 スキル:なし



 ユーカの努力の成果もあって今ではB-以上の剣を安定して作れるようになっていた。マーネもこのままいけば闘技大会までにはAにも届くんじゃないかと言っていた。

「まだ上を目指せる余地があるのにそれをしないのは妥協です。私はそれをしたくありません」

 相変わらずユーカは自分に厳しいな。それがユーカのいいところでもあるんだが。

「わかった。とりあえず、こういう事はマーネに相談してみよう」

「そうですね」

 ゲーム初心者二人で話していても仕方ないと鍛治部屋を出た俺達は共同スペースにいたマーネに尋ねた。

「刀については私も調べていたわ。でも、これといって有力な情報はなかったわ」

「ないのか?」

「私は見つけられなかった。でも、それを知っているかもしれない人物には心当たりがあるわ。ただし……」

 そこでマーネはユーカへ視線を向けた。

「仮に刀のレシピが手に入ったとして貴女は闘技大会までに十分な物を作れるの?」

「やります」

 マーネの問いにユーカは間髪容れずにそう宣言した。

「そう。それくらいの気概がないとね」

 それにマーネは小さく微笑を浮かべた。

「それで、その知っているかもしれないっていう人っていうのは?」

「それは──」


 コンコン


 と、その時、ホームのドアをノックする音が聞こえてきた。

「誰だ?」

 俺がドアに近づくのをマーネが手で制し、窓から外を覗いた。

「どうして彼女がここに……?」

 外にいた人物を確認したマーネはわずかに眉をひそめ、ドアを開いた。

「随分といいタイミングね」

「おや?もしかして自分をお求めだったッスか?」

 そこにいたのは俺達とそう歳の変わらなさそうな一人の少女。青い髪を頭の後ろで一本に束ねた少女はどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。

「何の用で来たのかは知らないけれど、まあいいわ。入りなさい」

「いいんスか?じゃあ、お邪魔するッス」

 マーネが横にずれ、入るように促せば少女は喜び勇んでホームに入ってきた。

「おお、ここがかの有名な薄明のホームッスか」

「有名になった覚えはないわね」

「そうッスか?でも、すぐに有名になると思うッスけどね」

 ソファーに座ったマーネに続いて対面のソファーに座った少女に俺はお茶を出した。

「これはこれは、お気遣いありがとうッス、ロータスさん」

「む?何故俺の名前を?」

「自分、情報屋ッスから」

「情報屋?」

 マーネの隣に腰を下ろし、隣のマーネに視線を向ければすぐに説明してくれる。

「彼女はNWO内で一番の情報通よ。情報の売り買いを生業としていて情報屋という二つ名を持っているの」

 もしかして、マーネの言っていた心当たりというのは……。

「ええ、彼女の事よ」

「マーネさんとはお久しぶり、他のロータスさん、ユーナさん、ユーカさんとははじめましてッスね。それに、ルナさんとも。自分、『NWO新聞社』というクランに所属するラピスっていう者ッス。どうぞ、お見知り置きを」

 ふむ……?

「私の事も知っているんですね」

「ホー?」

 当然のように自分の名前が出てきた事にユーカは驚いたようにつぶやき、俺の肩の上に止まるルナは不思議そうに首を傾げた。

 肩に乗せて連れ歩いているルナはともかく、NWOを始めてからまだ数日。それも、ほとんどホームで鍛治をしていたユーカの事まで知っているとは。

 流石は一番の情報通と呼ばれるだけの事はある。

「随分私達の事に詳しいのね」

「それはもう、マーネさんもロータスさんも有名人スからね」

「俺もか?」

 マーネが有名人なのは知っていたが、俺はそんなことはないと思うんだけどな。

「もちろんスよ。掲示板でも度々話題に上がるッスからね」

「そうなのか?」

「はいッス。魔女王と一緒にいるあの男は誰だ!とか、肩にフクロウを乗せたプレイヤーがいた!ハーレム野郎死すべし!とかッスね」

「……それ、俺が有名なのか?というか、最後の俺じゃないだろ」

「面白い冗談ッスね」

 冗談を言った覚えはないんだけどな。

「それより、自分に何か聞きたい事があったんじゃなかったんスか?」

「ええ、その通りよ。自分から来るとは思っていなかったけれど」

「出張サービスッス」

「情報屋ってそういうものだっけ?」

「細かい事は気にしなくていいわ。彼女の行動理念は自らの知的好奇心を満たす事。そのためならなんでもするから」

 目の前で悪戯っぽい笑みを浮かべるラピス。否定しないもいう事は事実なのだろう。

「聞きたいのは刀のレシピよ。何か情報はない?」

「あるッスよ」

 マーネの問いにラピスはなんでもない事のように頷いた。

「正確にはレシピが手に入る可能性のある情報があるッス」

 そう言ってラピスはその情報について語った。

「なるほどね。参考になったわ。値段はいくらかしら?」

「お金よりも自分は情報の方が嬉しいッスね」

「売れるような情報なんてあるのか?」

「もちろんッスよ。マーネさん達は情報の宝庫ッスからね。特殊職の情報、称号の情報、それに悪魔の情報とかッスね」

 ピクリとマーネの眉がわずかに動き、その視線がわずかに鋭くなる。

「貴女、どこまで知っているの?」

「予想はできるッス。あの時点で西側のエリアボスを突破していたのは一組だけッスから。輸送隊が来た時、自分西側で張っていんスよ」

「……私が迂闊だったわ」

「どういう事だ?」

「輸送隊の護衛依頼の発生条件はタイミングから見て、おそらく四つの第二の街にそれぞれ辿り着く事。あの時点で西側の第二の街に行けたのは一組だけ。なら、その辿り着いたプレイヤーが輸送隊の護衛としてやって来るんじゃないかという予想は簡単にできるわ」

 なるほど。そこに俺達がまんまとやって来た訳か。

「……いいわ。私達の名前を公表しないというなら望む情報を教えてあげる」

 そうしてマーネはラピスの望むままに情報を話していった。

「色々情報をありがとうッス。レシピ代以上の情報代はちゃんとお支払いするッスよ」

 ラピスはかなりの額のお金を取り出し、テーブルの上に積み重ねた。

「こんなになるのか?」

「情報は武器であり、資産ッスから」

「ラピスならこの情報を元にこの額以上のお金を生み出すわよ」

「すごいんだな、情報屋って」

 俺には到底できそうにないな。

「他に聞きたい事はあるッスか?」

「私は特にないわ。誰かある?」

 ふむ……あ、そうだ。

「ユーナとラピスは知り合いなのか?」

「え?」

「ふふ、何故そう思ったのかな?」

「なんとなくだな。ラピスが自己紹介でユーナの名前を呼んだ時にも違和感があったし、その後も意識的に意識しないように見えたんだ」

「へぇ、実際どうなのかしら?」

 マーネはわずかに目を細め、ユーナとラピスに交互に視線を向けた。

「初対面だねぇ」

「初対面ッスよ」

「ユーナ、貴女勝手に私達の情報を売ったわね」

「おや?なんの迷いもなく疑われているねぇ」

「残念だけど、貴女達二人への信用はロータスの足元に及ばないわ」

「姉さん、人の情報を勝手に売るのはどうかと思います」

「ユーカまで。実の姉が信用できないというのかい?」

「はい」

 迷いなく即答するユーカ。実の妹にまでこれとは。これも日頃の行いという事か。

「で、どうなの?素直に白状しなさい」

「研究にはお金がかかるものなのさ」

 ジト目を向けるマーネにユーナはあっさりと白状した。

「貴女はまったく……」

「姉さんがすみません」

「貴女が気にする必要はないわ。目を離した私の責任よ」

 ラピスがユーカやルナの名前を知っていたのはユーナに聞いていたのかもしれないな。

 それにしても、好奇心のままに動くこの二人のコンビはいい予感がしないな。混ぜるな危険というか。

「自分、個人情報は売らない主義なんでそこだけは安心してほしいッス。自分一人で楽しむだけッスよ」

「あまり安心はできないけれど、教えてしまった以上は仕方ないわ。ただし、これ以上私達に黙ってユーナから情報を買うようだと貴女との取引はこれきりね」

「心得たッス」

 有無を言わさぬマーネの迫力にラピスはすぐに頷いた。

「じゃあ、自分はここらで失礼するッス。闘技大会応援してるッスよ」

 ラピスはヒラヒラと手を振り、ホームを去っていった。

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