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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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竜殺し

 デューオ鉱山で採掘を終えた俺達はデューオの街に戻ってきた。

「これだけあればユーカのスキルレベルもそれなりに上がるわね」

「私のために時間を使ってもらってしまってすみません」

「気にする必要はないわ。ユーカの成長は私達にとっても必要な事だもの」

 穏やかな会話を交わしながら街を進み、ホームに戻ろうかと話していると視線の先にプレイヤーの集団が現れた。

「む?」

 漆黒の鎧に身を包んだプレイヤーを先頭に一矢乱れず整然と進むさまは鍛え抜かれた軍隊を思わせる。

 他のプレイヤーとは一線を画す雰囲気を持つ異様な集団。

「ニーベルンゲン……」

「ニーベルンゲン?」

 たしか、β時代のナンバーワンクランだったか?

 遠巻きにその様子を眺めていると、先頭を進むプレイヤーが一瞬こちらを見て立ち止まった。

 そして、他のプレイヤーに何か声をかけると、すぐ後ろにいた銀色の鎧のプレイヤーと二人だけで集団から離れた。

「こっちを見ていませんか?」

「見ているしこっちに来ているねぇ」

 集団から離れた二人のプレイヤーはユーナの言う通り俺達の方に向かって来ている。

 いや、兜越しでは正確にはわからないが、あれは俺達というよりも……。

 チラリと隣に立つマーネに視線を向ければマーネは面倒くさそうにわずかに顔をしかめていた。

「βテスト以来だな、魔女王」

「……そうね」

 マーネの前で立ち止まったプレイヤーは兜を外し、マーネに話しかけた。

 落ち着いた雰囲気の生真面目そうな男。年の頃は三十代半ばといったところだろうか。身長も高く、威圧感を与える漆黒の鎧と相まって近寄りがたい雰囲気がある。

 おそらく、この男がニーベルンゲンのリーダー。名前はたしか……。

「ジークフリートだったかねぇ」

 そう、たしかそんな名前だった。

「有名人ですか?」

「そうなるねぇ」

 ジークフリートはあからさまに面倒くさそうなマーネにも構わず話を続ける。

「すでにこの街に来ていたとはな。流石は俺が認めたプレイヤーだ」

「貴方に認められたところで嬉しくもないわね。話は終わりかしら?なら、もう行くわね。私達も暇じゃないのよ」

「俺達のクランに入る気にはなったか?」

 背を向け、立ち去ろうとするマーネだが、ジークフリートはお構いなしに話を続ける。

「何度も断ったはずよ。私は貴方達のクランに入る気はない」

「何故だ?お前程の力があればすぐにでも一軍に入れる。お前の力はニーベルンゲンでこそ生かすべきだ」

「くだらないわね。これ以上くだらない話に付き合うつもりないわ」

 これ以上話す気はないとマーネはジークフリートに背を向け、俺達を促して立ち去ろうとする。

「そういえば、クランを立ち上げたそうだな」

「…………」

「まさか、ここにいる奴らがメンバーではあるまいな」

「だったらなに?」

「今すぐ手を切れ。お前には相応しくない」

「ッ!」

 その言葉を聞いた瞬間、マーネは反射的に魔杖をジークフリート目掛けて振り抜いた。

「落ち着け」

「そこまでだ、リーダー」

 それを咄嗟に羽交い締めにして抑え、ジークフリートの後ろにいたもう一人が間に入って距離を取らせる。

「離しなさい!」

「落ち着けって。殴りかかったところで街中は非戦闘エリアだから意味ないだろ」

 ジークフリートを睨みながらもなんとか説得が功を奏したのかマーネは渋々ながら魔杖を下ろした。

「相変わらず空気が読めないな、リーダー」

「シグルズ……」

「流石に今のは言い過ぎだ」

 シグルズと呼ばれた男は兜を外し、俺達に頭を下げた。

「悪いな、うちのリーダーが」

 クランマスターであるジークフリートにも気安く話すジークフリートと同年代の男。

 集団で歩いている時の様子から規律を重んじるであろうジークフリートが許しているという事はニーベルンゲン内でも上位の存在なのかもしれない。

「竜殺しジークフリート。私が貴方達のクランに入る事は絶対にありえないわ」

「む?」

「貴方さっき私の力はニーベルンゲンで生かすべきだと言ったわよね」

 俺が離すと殴りかかりはしないものの、苛立ちをあらわに睨みつけた。

「それがどうした?」

「自惚れないで。貴方達程度じゃ私の力は生かさない」

「なんだと?」

「聞こえなかった?貴方達程度じゃ私には釣り合わないって言ったのよ」

 今まで淡々と話していたジークフリートの顔にわずかに苛立ちが宿る。

「戯言を。俺達がそいつらに劣るというのか」

「そう言ったのよ。それくらいは理解できる頭があって助かったわ」

 小馬鹿にしたようなマーネの物言いにジークフリートはさらに苛立ちが募る。

「そういえば、もうすぐ闘技大会があったわね。どうせ出るんでしょ」

「それがどうした」

「決勝まで上がってきなさい。そこで叩き潰してあげるわ」

「お前がか?」

「いいえ」

 グイッと腕を引かれ、俺はジークフリートの前に連れ出された。

「最強は私のロータスよ!それを証明してあげる」

「大口を叩くものだ」

「大口?私は事実を言っただけよ。もし負けるような事があったらその時は貴方のクランにでもなんでも入ってあげるわ」

「その言葉、忘れるなよ」

「もちろんよ。どうせ勝つのはロータスだから忘れたところで関係ないけれど。そっちこそ、あまり無様な姿は見せないでちょうだい。興醒めだから」

 それだけ言うとマーネはさっさとこの場を立ち去っていき、慌てて俺達もその後を追った。






「ごめんなさい、勝手な事を言って」

「気にする必要はないさ。俺達のために怒ってくれたんだろ?」

「…………」

 照れ隠しか、マーネはプイッとそっぽを向いた。

「それにしても、()()ロータスねぇ」

 ニヤニヤとしたユーナにマーネの顔が一瞬で赤く染まる。

「ち、ちが……!あれは言葉の綾で、私達のクランのロータスがって意味よ!」

「ふふ、わかってるわかってる。ねぇ、ロータス君?」

 俺でもあの状況ならわかる。咄嗟に出てしまったんだろう。

「そうだな。頭に血が昇っていたから言葉足らずになってしまったんだろう」

「……わかっていないねぇ」

「わかっていませんね」

「わかってないわね」

「「「はぁ」」」

「む?」

 はて?何か間違っただろうか?

「それより、ロータス──」

「勝つよ」

「え?」

 マーネの言葉を遮り、俺は力強く言い切った。

「全部勝つよ。俺はこれからもマーネといたいからな。他の奴に渡す気はない」

「え、あ、その……うん」

 何故かあたふたと視線を彷徨わせたマーネは顔を赤くし、小さく頷いた。

「聞きました、ユーカさん?あれ、天然なんですよ」

「聞きました。あれで他意はないというのだから恐ろしい限りです」

「恐ろしいねぇ」

「恐ろしいですね」

「どうかしたか?」

 手で口元を隠し、コソコソと話す姉妹に俺は首を傾げた。

「なんでもないよ」

「なんでもありません」

「ふむ、そうか?」

「と、とりあえずホームに戻りましょう。今後について話したいし」

 逃げるように足早に歩き出したマーネに首を傾げながら俺はその後に続いた。

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