デューオ鉱山
「この後はどうするんだ?」
「デューオにある鉱山に行きましょうか」
「鉱山?」
そういえば、前にデューオの街の近くには鉱山があると言っていたか。
「生産職のスキルを上げるにはとにかく数をこなす事が必要なの。鉱山で素材を集めながらモンスターも倒してユーカ自身のレベルも上げましょう。ユーカもそれでいい?」
「はい。私ではよくわからないのでお任せします」
「なら、決まりね」
方針を定め、俺達はデューオに向けて動き出した。
「ガアァァァ……」
倒れ伏し、光の粒子となっていくワイルドオーガを見送り、剣を鞘に収めた。
「やっぱり二度目となると楽だな」
「お互い火力もだいぶ上がっているしね」
その光景を離れた所でユーナと並んで見ていたユーカから呆れた視線が飛んでくる。
「少し調べた限りではここのエリアボスはまだ倒した人の少ない強敵なはずじゃないんですか?」
「あの二人には当てはまらないねぇ。そもそもその辺のプレイヤーとはレベルも違うしねぇ」
「私のレベルが一気に上がったんですけど」
「レベル差もあるし、そんなものだよ。5レベルくらいは上がったかい?」
「はい」
そんな話をしている二人に俺達は近づいていった。
ここに来るまでに何体かゴブリンを倒したがユーカのレベルはまだ上がっていなかった。その状態でレベル15のワイルドオーガを倒せばそれくらいは上がるか。
「こういうのをパワーレベリングと言うのでは?」
「問題ないわ。戦闘技術が身につかないという問題はあるけれど、生産職には然程関係ないから。生産職相手にはどこのクランでもやっている事よ」
「そうなんですか?」
「ステータスも低くて戦闘系スキルも持っていない相手に戦えと言う方が無茶でしょ」
「それもそうですね」
「まあ、それをする一部のプレイヤーもいるけれど、それは少数派ね」
そんな話をしながら俺達はデューオの街に移動した。
「ここがデューオですか」
「ええ、そうよ。鍛治の街だからユーカはお世話になる事も多いと思うわ」
「わかりました」
キョロキョロと辺りを見回していたユーカはマーネの言葉に頷いた。
「それで、鉱山に行くんだっけ?」
「ええ、そうよ。ついてきて」
歩き出したマーネに続いて俺達も歩き出した。
そうして辿り着いたのはデューオの街の外れにある鉱山。
そこに奥に続く穴があり、何組かのプレイヤーが中に入っていっている。
「ここが鉱山か。何組かプレイヤーが入っていってるみたいだけど、場所の取り合いになったりはしないのか?」
「この中はインスタントフィールドになっているから」
「インスタントフィールド?」
「エリアボスと同じように他のプレイヤーが介入できないフィールドよ。パーティごとで別々のフィールドに繋がっているから中は同じであって同じではないの。だから独占なんかはできないようになっているわ」
つまり、入り口は同じでも中は別の場所に繋がっているから中で他のプレイヤーに会う事はないという事か。
「ところで鉱石ってどうやって採取するんだ?その辺に落ちているものなのか?」
「はい、これ」
俺の疑問にマーネはツルハシを取り出し、手渡してきた。
「これで掘れと」
「そういう事よ」
頷いてマーネはさらに二本のツルハシを取り出してユーナとユーカに渡した。
「じゃあ、行きましょうか」
先導するマーネに続き、俺達はツルハシを握って鉱山の中に足を踏み入れた。
「案外明るいんだな」
鉱山の中には灯りが取り付けられ、道を照らしていた。
「それで、これはどこで使えばいいんだ?」
握っていたツルハシを掲げて尋ねる。
「ユーナとユーカは採取のスキルを持っていたわよね?」
「持っているねぇ」
「はい、持っています」
「そのスキルがあれば簡単に採掘ポイントがわかるわ。あとはそこにツルハシを振るだけ」
「ないと見つけられないのか?」
「そんな事ないわよ。よく見れば他の場所と色が違うから。でも、採取スキル持ちがいるならそっちに頼った方が簡単でしょ?」
「ふむ、たしかに」
そんな話をしながら奥に向かって歩いていると、ユーナが壁の一点を見て声をあげた。
「あそこに採掘ポイントがあるみたいだねぇ」
「あ、私にもわかりました」
「ふむ?」
ユーナの指差す壁をよく見てみると、たしかに壁の色が他と少し違っている。
だが、灯りがあるとはいえ、薄暗い鉱山の中ではよっぽどよく見なければわからないだろう。これはたしかに採取スキルがないと面倒だな。
「ここにツルハシを使えばいい訳か」
「そうよ」
「あっちもあるねぇ」
「あそこにもありました」
次々に採掘ポイントを見つけていく二人に従い、俺達はツルハシを振るっていった。
[雑鉱石]品質D-
様々な鉱物が混じり合った鉱石。価値は低い。
[銅鉱石]品質D+
銅が含まれた鉱石。
[鉄鉱石]品質C-
鉄が含まれた鉱石。
「なんか俺だけ雑鉱石ばっかりだし、数も少ないんだけど」
「採取スキルはポイントが見つけやすいだけじゃなくて品質が上がりやすかったり採取できる数が多かったりするのよ」
「採取スキルを持っていないマーネが品質も数も一番なんだけど」
「結局は運の要素が多いからねぇ。マーネのリアルラックを持ってすれば当然というものさ」
「なるほど」
その時、突如感じた気配に反射的に握っていたツルハシを背後に振り抜いた。
「な、なんですか」
俺の突然の行動にユーカが驚きの声を漏らす。
「モンスターだ」
ツルハシの先端にいた岩に擬態したトカゲはなんとか抜け出そうとジタバタ暴れていたが、やがてそのHPをなくして光の粒子に変わった。
「今、完全に死角からでしたよね」
「気配察知にも反応はなかったけど、あそこまで近づかれればな」
「そういうものですか?」
「ロータスならそうね」
「ロータス君だからねぇ」
「ロータスさんですしね」
何故それで納得しているのだろうか?それにしても……。
「ここってモンスターが出るんだな」
「ええ、もちろんそうよ」
「聞いてないんだが」
「言っていないもの」
マーネに抗議の視線を向けてみるが、気にした様子もない。
「貴方なら問題ないでしょ」
「まあ、そうだけど」
「そういう訳だから貴方は護衛役をお願いするわ。採取だと戦力にならないから」
「む」
その言いようには思うところはあるが事実。反論もできず、適材適所かと黙って受け入れた。
それから俺はツルハシから剣に持ち替え、襲ってくるモンスターを倒しながら三人が採掘するのを見守った。




