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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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勉強会

「ようやく帰ってきたわね」

 道場での精神統一を終えて家に帰ると、俺のベッドで横になってマンガを読んでいる凛が待ち構えていた。

「珍しいな。いつもなら昼まで寝てるのに」

 凛が勝手に俺の部屋にいる事などいつもの事。今さらどうこう言う気もない。

「私もそのつもりだったのだけれど」

「何かあったか?」

「結奈の家に行くわよ」

「……ああ、いつものか」

「ええ、いつものよ」

 夏休みも残りわずか。この時期には毎年結奈の家で恒例行事がある。

「ところで……」

 パタンと開いてマンガを閉じ、目を細めながら詰め寄ってくる。

「どうかしたか?」

「女の匂いがするわ」

「……そんなに嗅覚よかったか?」

「女の勘よ。いいから白状しなさい」

 隠す理由もないかと俺は朝にあった事を正直に話した。

「はぁ、どうして貴方は……」

「そう言われてもな」

「まあ、いいわ。それより、結奈の家に行くから準備して」

「ああ、わかった」






「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」

 出迎えた結奈はいつも通り白衣に身を包み、眼鏡をかけている。ゲーム内との違いは髪色だけで現実で会うのは終業式以来だが、久しぶりな気がしない。

「いやぁ、毎年悪いねぇ」

「そう思うならいい加減宿題くらい自分でやってちょうだい」

 そう、今日結奈の家にやって来たのは結奈の宿題を手伝うためだ。興味のある分野に関しては凛をも上回る結奈だが、興味のない分野に関してはからっきしだ。

 だから、こうして毎年この時期になると結奈の宿題を手伝うのだ。

「今は僕しかいないからねぇ。なんなら少しくらいエッチな事をしても構わないよ」

「蓮、帰るわよ」

「冗談じゃないか、そんな事言わないでおくれよ」

 踵を返す凛に慌てて結奈が抱き着く。

「暑苦しいから離れて」

 それを凛は鬱陶しそうに引き離し、仕方ないと結奈に向き直る。

「はぁ、さっさと始めましょう」

 家の中に招き入れられた俺達はリビングに案内された。

「ところで、二人は宿題終わったのかい?」

「終わった」

「終わったわ」

 俺は毎日コツコツと進めて数日前に終わらせた。凛はいつやっていたのかわからないが、頭のできが違うからな。あれくらいならその気になればすぐに終わるのだろう。

「おお、流石だねぇ。なら、安心して頼めるというものだよ」

「頼る気満々ね。少しは自分でやる気はないの?」

「明日から頑張るよ」

「それ、やらない人の常套句でしょ」

 文句を言いながらも凛は丁寧に教えていく。

 全教科満遍なく完璧にできる凛がいる限り俺の出番はないか。

「何か飲み物を用意するよ」

「冷蔵庫に飲み物が入っているからそれを使っておくれよ」

「ああ、わかった」

 それから俺は凛が教えるのを眺めながら飲み物やお菓子を用意したりと雑用をこなしていった。

「そろそろお昼の時間だねぇ」

「何か作るか?」

「残念ながら今は何もなくてねぇ」

「なら、何か買ってくるか」

「大丈夫大丈夫。もうすぐ結花が買ってきてくれるはずだからねぇ」

 そういえば、今は家に結奈だけだと言っていたな。何か用事があったのだろうか。

「生徒会の仕事があるそうだよ」

 と、その時、玄関からドアの開く音が聞こえてきた。

「ただいま帰りました。靴がありましたが、お客さんですか?……あ」

 ガチャッとリビングのドアを開けて買い物袋を持った少女が入ってきた。

 身長百五十センチ程の黒髪に眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の少女。

 雰囲気は結奈と正反対だが、その顔はよく似ていて血の繋がりを感じさせる。

 少女の名は千草結花(ちぐさゆか)。結奈の妹だ。

「久しぶりだな。結花」

「卒業式以来ね。結花ちゃん」

「はい、お久しぶりです蓮さんに凛さん。また姉さんがお世話になっているんですね」

 そう言って結花は呆れたようなジト目を結奈に向けた。

「いつも助かっているよ」

「すみません、いつも姉さんが」

 悪びれた様子もない結奈と対照的に結花は申し訳なさそうに頭を下げる。

「気にしないで。もう、慣れたから」

「それより、お腹がすいたよ。蓮君がお昼作ってくれるというから材料を渡してくれるかい」

「そんな悪いです」

「気にしないでくれ。俺もする事がなくて暇なんだ。でも、そうだな。なら、手伝ってくれるか?」

「……わかりました」

 少し悩んだ後、結花は小さく頷いた。

「それ取ってくれるか」

「はい。あ、蓮さんそれ取ってください」

 キッチンに並んで立ち、昼食の準備をしていく。

「これか?」

「はい。あ……」

 結花に渡す時に手が触れ、結花は顔を赤くしてパッと手を引っ込めた。

「す、すみません」

「あ、いや、こっちこそ」

 あんなに慌てて手を引っ込めるなんて嫌われているのか?そこそこ仲良かったと思ったんだけどな。

「ああしていると新婚夫婦のようだねぇ」

「……そうね」

「ふふ、不機嫌そうだねぇ」

「……べつに」






 その後、昼休憩を挟み、夕方近くになってようやく結奈の宿題が終わった。

「いやー、終わったねぇ」

「お疲れ様」

 結奈は持っていたペンを投げ出し、グーッと伸びをした。

「じゃあ、私達は帰るわね」

「もうかい?」

「長居しても悪いもの」

「まあ、明日にはまた向こうで会えるしねぇ」

 俺達は勉強道具を片づけ、帰る支度を整えた。

「じゃあ、また明日な」

「さよなら」

「また明日」




 ◇◆◇◆◇◆




「蓮さん達は帰ったんですか?」

 二人を見送って戻ると、二階から結花が降りてきた。

「よかったのかい?蓮君を見送らなくて」

「……なんで蓮さん限定なんですか」

「好きなんだろう?蓮君の事が」

「ち、違います!」

 僕の言葉に結花は顔を赤く染め、慌てて否定した。

 ふふ、我が妹ながら可愛いねぇ。凛は従妹の楓ちゃんの事を可愛がっているけど、うちの妹も負けていないねぇ。

「卒業してからあまり接点もないんだろう?」

「……姉さんには関係ありません」

 ぷいっとそっぽを向く結花。

「話は変わるのだけど、僕が今やっているゲームの事は知っているかい?」

「……知っていますけど。うちの学校でも話題になっていますし」

「そのゲームを蓮君もやっていてねぇ」

「それが?」

 私は白衣の中から一本のゲームを取り出した。

「これをあげるよ」

「これって……!」

「『NEW WORLD ONLINE』。僕達がやっているゲームさ」

「どうしたんですか、これ?人気で手に入らないはずじゃ?」

 僕はコネで手に入れたけど、普通に手に入れようとするなら抽選に応募するしかない。その倍率は第一回の時から減るどころか増えている。

「まさか、盗んだんじゃ……」

「この僕がそんな事をすると思っているのかい?」

「ありえなくはないと思っています」

 信用ないねぇ。どうして僕の評価はこんなにも低いのか不思議でたまらないよ。

「凛に頼んだら見事に当ててくれたよ」

 これで凛は一人で三本も当てている訳だ。相変わらずの強運だねぇ。

「それをどうするかは結花に任せるよ。好きにするといいさ」

「…………」

「それでも、後悔のない選択をする事だねぇ」

 宿題も終わったし、久しぶりに研究でもしようかねぇ。

「……姉さんは」

「ん?」

 背中にかけられた小さな声に立ち止まり、振り返る。

「姉さんは誰の味方なんですか?」

「みんなさ。僕は結花も凛も蓮君も大好きだからねぇ」

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