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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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道案内

 俺の朝は散歩から始まる。

 一年前の事故以来、俺はまともに運動する事もできず、できるのはウォーキングが限界だ。

 それでも、最低限の体力を維持するために毎朝散歩に行き、それから道場で精神統一するというのが夏休みに入ってからの日課になっている。

 いつもならその後に『NWO』にログインするのだが、今日はメンテナンスの日で一日ログインできない。

 久しぶりにじっくりと家の掃除でもするか。その前にまずは凛の部屋からだな。そろそろまた散らかっているだろうし。

「ん?」

 今日の予定を考えながら見慣れた道を歩いていると、不安げな表情でキョロキョロと辺りを見回す一人の少女に気づいた。

「見慣れない顔だな」

 ここはまだ家の近所。昔から長年住んでいるがあんな少女は見た事がない。それもこんな朝早くに。見たところ年はそう変わらなさそうだな。

 夏休みだから親戚の家に遊びに来ているとかだろうか?

「ふむ、何やら困っているようだが」

 ここで見て見ぬ振りをするという選択肢もあるが、それは趣味じゃない。どうせ時間はあるのだから無視する事もないか。

「あの」

「ッ!は、はい……」

 俺に気づいていなかったのか、声をかけた途端少女は肩を跳ねさせ、恐る恐るといった様子でチラチラと控えめに見上げてきた。

 身長はあまり高くなく、俺の胸くらいまでしかない。顔には大きな眼鏡がかけられ、あまり整えられていない髪も相俟って野暮ったい印象を受けるが、よく見れば瞳も大きく顔は意外と整っている。

 気が弱いのか肩を縮こまらせている姿は猫背気味なのと合わさって実際の身長よりも小さく見えるが、それと反比例するように同年代と比べて豊かな胸が自己主張をしている。

 ふむ……?

「何か困っているようだが、何かあったのか?」

「えっと、その、あの……」

 あたふたと視線を辺りに彷徨わせ、モゴモゴと口ごもる。

「慌てなくていい。落ち着いてゆっくりと」

「は、はい……」

 一度少女は俺に背を向け、スーハーと深呼吸を繰り返す。

「ふぅ……よし」

 それで幾分か落ち着いたのか少女は改めてこちらを振り向き、俺の顔を見た瞬間、驚いたように目を見開いた。

「え、あれ?」

「どうかしたか?」

「え、あ、な、なんでもない……です」

 ふむ?何かに気づいた様子だったが、本人がそう言うのならこれ以上聞く事もない。

「それで、何かあったのか?」

「えっと、夏休み明けからこっちの高校に転校するんです。それで、昨日こっちに引っ越してきて、今日は時間もあるからこの辺りを見て回ろうと思っていたんですけど……その、道に迷ってしまって」

「なるほど」

 それにしても、高校生か。もう少し下かと思っていたが、最低でも同級生という事か。

「なら、俺が案内しようか?迷惑じゃなければ」

「め、迷惑だなんて!むしろ、私の方こそ迷惑なんじゃ……」

「俺も今日は時間があるから問題ない」

「えっと、なら、お願いします……」

 そう言って少女はペコリと頭を下げた。

「そういえば、名前も名乗っていなかったな。俺は朝日蓮だ」

「朝日、蓮……」

「俺の名前がどうかしたか?」

「あ、いや、なんでもない……です。わ、私は赤崎愛(あかさきあい)です」

「わかった。よろしくな、赤崎」

「は、はい。よろしくお願いします」






「転校する高校って九条高校なんだな。俺もそこの生徒なんだ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。何年なんだ?」

「一年生です」

「という事は同級生か」

 ふむ、偶然というのはあるものだな。まあ、地元だし、こっちに引っ越してくるというならそこまで珍しくはないか。

「もっと年上かと思ってました」

「そんな老けて見えるか?」

「あ、いや、その……雰囲気が落ち着いているので」

「自分では普通だと思うんだけどな」

「安心できるというか、なんて言うか、その……母性?みたいな感じが」

「俺、男なんだけどな」

 前に凛にも冗談でお母さんと呼ばれた事があるし。俺、そんなに母親感があるのか?

「私、人と話すのが苦手なんですけど、朝日君は話しやすいです」

「まあ、話しかけづらいという言われるよりはいいか。あ、もしかしてこんな時間に見て回っていたのって」

「はい、この時間ならあまり人がいないと思って」

「それで迷子になったと。俺が通りかからなかったらどうしてたんだ?」

「どうしようもなかったですね。そもそも、人がいても話しかける勇気はなかったですけど」

「それを自信満々に言われてもな」

 歩きながら話しているうちに赤崎も少しは打ち解けてきたのか言葉につっかえる事も減り、小さく笑顔も見せるようになった。

「そんなんで学校が始まったら大丈夫なのか?」

「安心してください。ボッチには慣れていますから」

「それ、安心できないんだけど」

 俺の周りに友達いない奴多くないか?凛は結奈だけだし、結奈も俺と凛以外に親しい奴はいない。

「学校が始まったら俺がフォローするよ」

「いえ、遠慮しておきます」

「即答かよ」

「朝日君にそれをされると余計なトラブルを招きそうなので」

 いったい俺の何がトラブルを招くというのか。

「だって、朝日君モテますよね?」

「いや、俺はモテないぞ」

 自慢じゃないが、俺は生まれてこの方モテた事がないし、彼女がいた事もない。

「あ、こういうタイプかー……」

 俺の言葉に赤崎は何故か遠い目をしてため息を吐いた。

「とにかく、学校では私の三メートル以内に近づかないでください」

「お前、意外と遠慮ないな」

 最初はもっと気弱なやつだと思っていたんだけどな。

「いいですか?ボッチが平穏に過ごすにはとにかく目立たない事です。注目は敵。全力を持って避けるべきなのです。なので、くれぐれもよろしくお願いします」

「……わかったよ」

 本人がこういうのならこれ以上はお節介の押し付けだ。何かあれば手を貸すが、それ以外は赤崎の意に従うとしよう。

「あ、あそこが私の住むマンションです」

「学校までの案内はいいのか?」

「はい。この時間だと部活をしている生徒と会いそうですし」

「そうか。なら、俺は行くよ」

「はい、ありがとうございました」

「じゃあ、また学校でな」

 さて、少し遅くなったけど、道場に行くか。

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