エリアボス:VSスワンプリザードマン
神殿を後にした俺達はその足で東の平原を進み、エリアボスのファイティングラビットに挑んだ。
二度目となるファイティングラビットとの戦いだが、これといって特筆する事はない。
前回ですら苦戦した覚えがないのに、今の俺達のレベルはファイティングラビットの倍以上。今回も俺一人で戦ったが十分とかからずに倒す事ができた。
それからすぐに俺達は引き返し、南の湿地に移動した。
「前回よりも格段に歩きやすいな」
「水面歩行のアーツは水の上だけじゃなくてこういうぬかるんだ場所でも使えるからね」
「いやー本当に楽だねぇ。快適快適」
「…………」
俺に担がれているユーナにマーネはジト目を向けた。
ユーナは歩法術を取得していない以上どうしても俺達とは移動速度に差が出てしまう。だから仕方なく俺が運んでいるんだが、俺がもう少し短気だったら放り投げているところだな。
「まあいいわ。それより、今度は狂戦士の固有のスキルを使ってみて」
「狂化か?」
「ええ」
狂化:一定時間攻撃力が上昇するが、戦闘中一切の回復ができなくなる。スキルレベルが上がる毎により攻撃力が上がるが、正気を失うようになる。
前者のデメリットに関しては問題にならない。今だに戦闘中に回復をした事はないのだから。問題は後者だ。
スキルレベルが上がると正気を失うようになるという部分。正直今の段階では判断しようがない。どの程度正気を失うのかは実際に体験してみないとわからない以上しばらくは保留だ。
問題があるようなら使わなければいいのだから。
とりあえず、今日は普通に使ってみるとしよう。
「わかった、試してみるよ」
そんな話をしながら、時折襲ってくるモンスターを返り討ちにし、俺達はエリアボスに辿り着いた。
スワンプリザードマンLv12 エリアボス
種族:亜人
その姿は巨大な二足歩行のトカゲ。体長三メートル程で左手に槍、右手に盾を持っている。全身が鱗で覆われ、口からは鋭い歯が覗く。
俺達の接近に気づいたスワンプリザードマンの爬虫類の特徴的な縦長の瞳がギョロリと動き、こちらを捉えた。
なかなか凶悪な姿ではあるが、デカラビアと比べてしまうとどうしても見劣りしてしまう。はっきり言って然程脅威を感じない。
「まあいいさ」
今回の一番の目的は俺の力を試す事。ファイティングラビットとの戦いで素の能力はだいたい把握できた。
次は狂戦士の固有のスキルである狂化を試す。
「なるほど」
狂化を発動させた瞬間、俺は黒いオーラに包まれ、心の内から目の前の敵を叩き潰したいという破壊衝動が湧き上がってくる。
今はまだ然程強くないが、スキルが成長する事でこの感情も強くなるという事か。もし、この感情に身を任せてしまえば最悪、敵だけでなく味方をも巻き込んでしまうかもしれない。だがまあ……。
「問題ないな」
俺は水面歩行を発動した状態でぬかるんだ地面の上を駆け、スワンプリザードマンに肉薄した。
迫る俺にスワンプリザードマンは槍を突き出してくるが、俺はそれを剣で受け流し、そのまま胴を薙ぐ。
「グギャ!」
強烈な一撃にスワンプリザードマンは悲鳴のような声を漏らす。
倍とは言わずとも俺のレベルはスワンプリザードマンよりも10以上高い。そのうえ俺は攻撃特化。
本来であれば見た目通り硬い鱗に覆われ、相応の防御力を誇るスワンプリザードマンだが、今の俺には紙切れも同然。
容易く防御を突き抜けてダメージを与えていく。
槍と盾、さらに尻尾や噛みつきも使ってなんとか俺を引き離そうとするスワンプリザードマンだが、なんの脅威にもならない。
槍の扱いは終盤のデカラビアの方が上だし、盾の扱いも拙い。
視覚外の頭上からの噛みつきと時折死角から来る尻尾は本来なら厄介なのかもしれないが、俺にとってはどちらも隙が大きく、むしろ反撃の好機だ。
「ふむ」
違う相手だから確実な事は言えないが狂化による攻撃力の上昇はおおよそ五割。なかなかの上昇率だ。
ファイティングラビットよりは硬かったスワンプリザードマンも狂化によって上乗せされた今の俺の前には動き回らない分ファイティングラビットよりもやりやすい。
ファイティングラビットを上回る速度でダメージを積み重ねていき、あっという間にHPは三割を切る。
すると、スワンプリザードマンは濃い緑色のオーラを纏い、今までにない速度で駆け出した。
「スピードが上がったか」
この足場の悪い状況であれだけ動き回られるとたしかに厄介だろう。それがここが不人気フィールドである理由の一つなのかもしれない。
まあ、俺には関係ないが。
今の俺には足場の悪さも気にならず、攻撃してくる時にはどうせ近づいてくる。それにカウンターを合わせればいいだけ。
そのうえ、強化状態に入ったせいかスピードは格段に上がったが、その分防御力が落ちている。
結果、今までよりもさらに早い速度でHPが減っていった。
「ついでにデカラビア戦の後に覚えた。アーツも試してみるか」
俺は剣を構え、スワンプリザードマンを待ち受ける。
「グギャァ!」
振るわれた槍を屈んで躱し、突き出された盾を半身になってやり過ごす。さらに、勢いを乗せて回転し、振るわれる尻尾を跳び上がって回避し、上段に剣を構える。
(天地斬り)
上段に構えた剣が一瞬青く光ったと思った直後、狂化の黒いオーラに飲み込まれるように剣が黒く染まる。
「む?」
それにわずかに首を傾げながらも、今さら止まる事もなく、俺はそのまま剣を振り下ろした。
斬ッ!
黒い斬撃がスワンプリザードマンの頭から股下まで走り、一割近く残っていたHPを一瞬で削り取った。




