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リアルチートがVRMMOを始めたら  作者: 唯宵海月
クランとイベント
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クラスチェンジ

 カーテンの隙間から差し込む日の光に俺は目を覚まし、グーッと伸びをした。

 激戦の記憶は未だ新しい。あれだけ長時間集中を続けたのも久しぶりだ。

 そして、今感じている充足感も。

「起きるか」






「他の場所でも悪魔が見つかったそうだねぇ」

 昨日疲れもあるだろうからと昼からログインした俺達は始まりの街に戻り、街の喫茶店にやってきていた。

「掲示板で話題になっていたわね」

「あっという間に見つかったものだねぇ」

「北も東もプレイヤーが多いから」

「勝てたプレイヤーはいないみたいだけどねぇ。どうする?挑んでみるかい?」

「やめておきましょう。今回勝てたのは色々な意味でデカラビアだったからよ。次もそう上手くいくとは限らないわ」

「だろうな」

 本来なら今の俺達よりも遥か格上。勝てたのは様々な幸運が重なったからだ。

「二人がそう言うなら仕方ないねぇ。まあ、僕としては何か作っている時の方が好きだから構わないのだけど。素材としては美味しくないし」

 たしかにデカラビアのドロップアイテムは魔石が一個あっただけ。魔石もレアアイテムではあるんだが、あの苦労に見合うかと言われれば疑問だろう。他はドロップアイテムと言えるかわからないが、あの卵だけだ。

「じゃあ、今日はどうするんだい?」

「神殿に行くわ」

「神殿?」

 街の案内をしてもらった時に外から見た事はあるけど、入った事はないな。

 なんだっけ?ボッタクリ料理を出す場所だったっけ?

 いや、違う。それじゃなくてもっと大事な事があった気が。

「そういえば、レベルが20になればクラスチェンジができるんだったねぇ」

 あー、そういえばそんな事を言っていたな。

「三人共20を超えたしちょうどいいでしょ。それに、このゲームはクラスチェンジをしてからが始まりみたいなものなのよ」

「そうなのか?」

「初期職業はあまり数がないでしょ?でも、これが二次職になると一気に数が増えるの」

「生産職もより細分化されるねぇ」

「だから、より自分の個性に合った職業になるのよ。スキルだったりステータスもね」

「なるほど」

 完全物理型の俺には魔法防御に関わるMIDはともかく、INTの数値は意味がない。魔法スキルも一切持っていないし。

 選ぶ職業にもよるだろうが、これが二次職になる事でより物理型に特化する訳だ。

「貴方の場合だと戦士よりも剣に特化した剣士かバランス型の騎士。それかスピード型の軽剣士なんかがありそうね」

「ロータス君だと特殊職もありそうだけどねぇ」

「特殊職?」

「特殊職っていうのは特定の条件を満たさなければなれない職業の事よ。基本的に他の職業と比べてより尖った性能をしていて、使いこなせれば強いけれど、そうでないと扱いにくい職業ね。なかには例外もあるけれど」

「ふむ」

 特定の条件というのがどういうものかはわからないが、隠しスキルと似たようなものという事だろう。

「貴方なら普通に使いこなせるでしょうから、あればそれを選ぶといいわ。他に選びたいものがなければだけれど」

「まあ、それはその時になってみないとわからないな」

「それもそうね。じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「ああ」






 そうして久しぶりにやって来た神殿は多くの人で賑わっていた。

 多くの住人が行き交い、神殿の中からは引っ切りなしにプレイヤーが出てくる。

「入っていくプレイヤーは全然いないのに出ていくプレイヤーは多いんだな」

「死に戻った時は神殿で復活するからよ。日本人は信仰心も薄いから滅多に礼拝になんて来ないでしょうし」

 まあ、俺も教会には行った事がないし、神社とかも初詣くらいしか行かないしな。

「クラスチェンジの前に中を見てみる?」

「そうだな、せっかくだし見てみるか」

「なら、そうしましょうか」

 神殿に足を踏み入れると、そこは外とはまるで違う世界だった。

 外の喧騒と切り離されたような厳かな雰囲気が漂い、壁にはこの世界の神話なのか壁画が描かれ、天井は見上げる程高い。床も鏡のように磨き上げられ、この場所そのものが美術品のようだ。

 ここでは流石に騒ぐプレイヤーもおらず、どこか不思議な緊張感があった。

 少し違うが、学校の職員室に近いかもしれない。何か悪い事をした訳でもないというのに入ると妙な緊張感があるからな。

 よっぽど図太い奴ならそんなの気にならないんだろうが。

 ちなみに、俺は割と職員室に行く機会が多い。何故かユーナというか結奈が起こした問題が俺のところに回ってくるのだ。解せぬ。

「ここから正面に行けば礼拝堂があるわ。行ってみましょう」

「ああ」

 先に進んでいくマーネの後に続いて歩き出す。

 と、ついでにふらふらとどこかへ行こうとしていたユーナをガシッと捕まえる。

「流石にここでユーナを放置はできないぞ」

「心外だねぇ。僕が何かすると思っているのかい」

「ああ」

 残念ながらユーナに対する信頼度は0である。ユーナの図太さは筋金入りだ。マジで何をやらかすかわからない以上目を離す訳にはいかない。

「そろそろ首輪をつける事を本気で検討した方がいいかしら?」

「おや、マーネはそういうプレイがお好みかい?なかなか特殊な性癖を持っているねぇ。まあ、僕としては親友が特殊な性癖を持っていても受け入れられる度量の広い女だからねぇ。さあ、カモン!」

 マーネに向けて両手を広げるユーナにマーネは痛そうに頭を押さえた。

「ユーナの存在そのものに天罰が下りそうね」

「否定はできないな」

 神様、俺とマーネは関係ありません。赤の他人です。

「とにかく、行きましょう」

 そうして俺達は神殿の中を進み、途中にあった穏やかな雰囲気の中庭とそこで休んでいる住人を眺めたりしながらようやく礼拝堂に辿り着いた。

 のだが、ユーナのせいでなくなりかけ、中庭でいくらか戻ってきた神殿としての雰囲気はここで完全に消え失せてしまった。

「金!金!金!」

「レアドロ、レアドロ、レアドロ!」

「可愛い彼女、可愛い彼女、可愛くなくてもいいから彼女!」

 礼拝堂自体は落ち着いていながらも精緻で精巧な装飾がされた美しい空間なのだが、その中心で欲望全開の願いを叫んでいるプレイヤーのせいで台無しだ。

 なんとか取り繕おうとしているが、それを前にしている神父の顔が引きつっている。

 同じプレイヤーがすみません。

「……そろそろクラスチェンジしに行きましょうか」

「……そうだな」

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