封印されし悪魔:VSデカラビア7
「間に合ったか」
瞳を閉じ、短く息を吐いて意識を切り替える。
すると、ゆっくりと流れていた世界が元の早さに戻っていく。
それに合わせて俺はデカラビアから一旦距離を取った。
「たぶん攻撃しても効かないよな?」
「でしょうね」
HPが三割を切ったと同時にデカラビアは光の繭のようなものに包まれてしまった。試しに一度斬りつけてみたが、剣はあっさりと弾かれてしまった。
感触的に斬れそうな感じもなかったし、ガーゴイルを召喚する前も攻撃が効かなかった。今も同じなのだろう。
「どうなると思う?」
「……確実な事は言えないけれど、デカラビアの伝承の一つに人の姿になれるというものがあるわ」
「つまり、あれはその準備という訳か」
デカラビアの接近戦での技術は拙い。その理由はデカラビアが星型だというのがあるだろう。
手足もなければ牙もない。近づかれた場合にできるのが逃げる事だけ。
もし、マーネの言う通りに人の姿になればその弱点がなくなるという事だ。
「これから先は総力戦よ。出し惜しみはなし」
「ああ、わかってる」
そして、その時はきた。光の繭にヒビが入り、中からデカラビアが姿を現した。
その姿はマーネの予想通り人間と変わらなかった。筋肉質の大柄な男で顔は精悍。歴戦の戦士のような風格を醸し出し、鋭い眼光で俺達を睥睨している。
「デカラビアが人の姿になる時は全裸らしいから心配していたのだけれど、全年齢対応のゲームだけあって大丈夫だったわね」
デカラビアが着ているのは黒い軍服のような服。精悍な顔立ちのデカラビアにはよく似合っていた。
「ココマデヤルトハ思ッテイナカッタゾ人間。認メヨウ。貴様ラハ強敵デアルト」
頭に直接響く声ではなく、口から発せられた言葉が耳に届く。
「ダガ、勝ツノハコノ我ダ!」
デカラビアがダンッと地面を踏みつけ、右手を横に伸ばすと地面から棒のようなものが出てくる。
デカラビアはそれを掴み取り、力任せに引き抜く。
それは四メートル程の騎乗槍。それを片手で振り回し、その切っ先を俺に向けた。
「悪いが、負けてやるつもりはない」
言うと同時にデカラビアに向けて駆け出す。
広い間合いを誇る騎乗槍だが、反面至近距離では扱いにくい。人の姿になろうと接近戦は変わらず弱点だ。
「フンッ!」
その大きさに比例して相応の覚悟重さがあるはずの騎乗槍をデカラビアは軽々と片手で振り回す。
長大な間合いを誇るそれを身を屈めて掻い潜り、さらに踏み込む。と、見せかけて急停止。
その直後、目の前の地面から土の棘が突き出した。
あのまま足を止めずに進んでいれば串刺しになっていた事だろう。
最初は単調に俺を狙ってくるだけだったが、今や動きを読んで攻撃してくる。それだけ戦闘経験を積んだという事なのだろうが、年季が違う。
デカラビアが俺の動きを読んでいるように俺もデカラビアの動きを読んでいる。
さっきまでのような見てからの動きでデカラビアを圧倒する事はできないが、今の俺にはここまで集めた情報がある。それを元にデカラビアの動きと思考を予測する。
土の棘を避け、再び迫ればデカラビアは騎乗槍を引き戻し、腰だめに構える。
それと同時に背後に気配。チラリと背後を確認すればいつの間にか魔法陣が現れ、そこからガーゴイルが飛び出してきた。
正面には槍。背後からはガーゴイル。これが最初の頃のデカラビアなら迷いなく横に避ける。だが、今のデカラビアはそこまで単調な攻撃はしてこないだろう。おそらく、左右は罠。下に掻い潜るのは見せたばかりだから対策してあるはず。ならば……。
俺は構わず前に進み、突きのタイミングに合わせて跳び上がった。
それと同時にさっきまでいた場所の左右と騎乗槍の下から土の棘が突き出し、背後ではガーゴイルが騎乗槍に貫かれている。
それを視界の端で捉えながら騎乗槍の上に着地し、フロントステップを発動する。
「貴様ナラソウスルト思ッテイタゾ!」
その瞬間、狙い澄ましたように目の前に石の鏃が現れる。
「ああ、俺もお前がそう思っていると思っていたぞ」
直後、風切り音を立てながら背後から風の矢が俺を追い越し、次々と石の礫を撃ち落としていった。
そのまま騎乗槍の上を駆け抜け、デカラビアへ一閃。
「グッ」
俺を追い払おうと伸ばしてきた左手を躱し、さらに斬撃を叩き込む。
次にデカラビアがやるとすれば何か。
人間は成功体験にすがりたがる生き物だ。人間と同等以上の知能を持つデカラビアもまたその部分は変わらない。
デカラビアの手札の内俺達に有効だったものというのはそう多くない。その中でこの状況でデカラビアがやるとすれば……。
俺がわずかにその場で跳び上がった直後、地面からデカラビアを中心に全方位に土の棘が突き出す。
今までは距離を取って躱していたが、すでに何度も見た技だ。
俺は跳び上がったのを生かして棘の側面に足をつけ、フロントステップによって斬りつけながら脇を抜けた。
咄嗟に振り返るデカラビアだが、敵は俺だけではない。
無防備なその後頭部に火槍が直撃。それに一瞬怯んだ隙を突き、俺は続けざまに首へと剣を走らせた。
さらに追撃をかけようとするが、危険を感じて退避。その直後、デカラビアの周囲に大量の石の鏃が現れる。
俺一人では対処しきれない数だが、いつも通りマーネに任せるだけ。
俺が離れたのを確認し、デカラビアも巻き込んだ暴風が吹き荒れる。
「ヤハリ強イナ貴様ラハ」
暴風が収まった中から平然とした顔で出てきたデカラビアはそう言うと片手で持っていた騎乗槍に左手を添えた。
すると、一本の騎乗槍だったそれは二本のショートスピアに変化した。
「貴様ヲ相手スルナラバコチラノ方ガイイ」
デカラビアの槍の技術自体は拙い。それでも、高い能力を生かした動きは十分な脅威だ。間合いは格段に狭くなったとはいえ、その分手数は増える。
どうせ一撃かすっただけで終わりの俺からすれば厄介な話だ。
とはいえ、それがどんなに速かろうと、威力があろうと俺には届かない。
構わずデカラビアに近づけば、次々と二本のショートスピアを振り回したり突いてくる。
それを躱し、弾き、受け流して捌いていく。その間にマーネが魔法を叩き込んでいくがデカラビアは気にした様子もない。
途中からずっと感じていたが、どうやらデカラビアはあくまで俺を先に倒す気らしい。
どういう気でそうしているのかある程度予想はできるが、確かな事は言えない。どちらにしろ、俺達としてはありがたい限りだ。
「ふっ」
左右のショートスピアを大きく弾き、がら空きになった懐に入ろうと踏み出した瞬間、目の前に棘の切っ先が現れる。
(バックステップ!)
発動後の硬直を嫌って普段使わないアーツによって無理矢理後方へ跳びすさり、ギリギリで土の棘を躱した。
これが現実だったら冷や汗の一つでもかいていたかもしれないな。
「ホウ、コレモ躱シタカ」
「……少々お前を見誤っていたようだ」
今のは俺にショートスピアを弾かれるのを前提にした攻撃だった。思ったよりもずっと冷静だな。
「我ノ槍ノ腕デハ貴様ノ足元ニモ及ブマイ。ダガ、我ハ元々魔法コソガ得意ナノダ。接近戦ニコダワル必要ハナイ」
二本のショートスピアを構え、背後に四枚の石の盾を浮かべる。ここに来て攻撃よりも防御を固めてきたか。
ショートスピアを掻い潜り、懐に入る事は可能だろう。だが、そこにはデカラビアの魔法が待ち構えている。
マーネの魔法も石の盾によって阻まれ、デカラビアまで届かない。
「厄介だな」
一撃かすらせるだけでも俺達には致命傷なのだ。デカラビアからすれば無理に攻める必要はない。
時間制限がある以上、ここから先はこちらから無理にでも攻めないといけない訳だ。
俺はデカラビアを挟んで反対側にいるマーネと視線を交わし、同時に駆け出した。
先に到達したのは当然ながら距離も近く、足も速い俺。
近づかせまいと振るわれるショートスピアを捌いていく。
その間にマーネも距離を詰め、至近距離から魔杖を向ける。
「ファイアランス」
死角からの攻撃も今のデカラビアは反応し、石の盾を使って防ぐ。さらに、右手のショートスピアを振り返りざまに振るった。
だが、それを読んでいたマーネは冷静に後ろに下がって躱し、一本になったショートスピアを素早く弾いて踏み込む。
しかし、デカラビアもそれをすれば隙ができるのは当然理解している。すぐさま地面から土の棘が飛び出し、迫る。
来るとわかっていれば慌てる事はない。慎重を期し、俺も一度下がって距離を取る。
「後衛モ前ニ出テクルトハナ。豪胆ナ事ダ」
「貴方が私達を強敵と認めたように私達もまた貴方を紛う事なき強者だと思っているわ。だからこそ、私も最善を尽くす」
俺とマーネは同時にデカラビアの周囲を回りながら攻撃を仕掛けていくが、二本のショートスピアと石の盾によってなかなか攻撃を当てられない。
二人がかりでも単純な攻撃では駄目だ。もっと変化をつける。
俺は回っていた方と逆側に回り始め、マーネと交差した瞬間デカラビアに突きを放つ。
正面からの攻撃などデカラビアは簡単に防ぐがそれは予定通り。
俺の体の後ろに隠れたマーネが火の刃を放ち、視線を下に引きつけたうえで俺を踏み台に跳び上がる。
「甘イ!」
それでもデカラビアは素早く反応し、ショートスピアを突き出すがそれも想定内。
俺は腰の鞘を抜き、マーネの足元に放り投げた。
「フロントステップ」
それにマーネの足が触れた瞬間、空中ではありえない動きで前方に移動し、上下逆さまの状態でデカラビアの後頭部に魔杖を突きつける。
「ファイアバースト」
ドンッ!と爆音が轟き、爆炎が撒き散らされる。
「グアッ!」
それによって強制的に前のめりにされたデカラビアに俺は続けざまに剣を振るう。
(スマッシュ!)
打撃系アーツによって前のめりになったデカラビアの体を真後ろへ弾き飛ばす。
体勢を立て直そうとするデカラビアだが、そこには爆風に吹き飛ばされながらも華麗に着地したマーネが待ち構えている。
それを視界に捉えたデカラビアは咄嗟にショートスピアを振るうが、マーネは足元に放った風球の風によって跳び上がり、それを躱す。
さらに、その体がデカラビアの真上に来た瞬間、デカラビアに向けて魔杖を向けた。
「ウィンドバースト」
解き放たれた暴風によってデカラビアの体は地面に叩きつけられ、それとは逆にマーネはさらにフワリと浮き上がる。
俺は落下地点に駆け込み、無防備な体勢で落ちてくるマーネをそのまま抱きとめた。
「俺がキャッチできなかったらどうしていたんだ?」
「あら、そんな事考えもしなかったわね」
「……まったく」
そこまで信用されていたら文句も言えないな。
俺は苦笑を浮かべながら左腕をマーネの膝裏に回し、右手で剣を構える。マーネもまた左腕を俺の首に回して体を支え、右手で魔杖を構える。
「行くぞ」
「ええ」
俺はそのまま立ち上がろうとするデカラビアに向かって駆け、距離を詰める。
それをデカラビアは近づかせまいと何本もの石槍を放ってくるがそれを俺とマーネで協力して撃ち落としていく。
さらに詰め寄ればデカラビアはショートスピアを振るってくるが緩急をつけた歩法によって躱し、足元に放たれた風球によって急加速して一気に懐に飛び込んだ。
(ヘビースラッシュ!)
強力な一撃がデカラビアを捉え、わずかに怯む。それでもすぐにアーツ発動後の硬直を狙って反撃をしてくるが、それをマーネが阻む。
「ロックランス」
デカラビアのお株を奪う石槍がデカラビアに至近距離から直撃し、一瞬動きが止まる。その隙に硬直を抜け出した俺はすぐさまその場から移動する。
ショートスピアと石の盾を用いて防ごうとするデカラビアだが、時に離れ、また抱えてと目まぐるしく変化する俺達の攻撃についていけなくなっていく。
そして、少しずつHPを削り、残りわずかというところまで追い詰めた。
「ココマデヤルトハ思ッテイナカッタ。ダガ、最後ニ勝ツノハ我ダ!」
二本のショートスピアを手放し、前に突き出した。すると、そこに野球ボール程の光の球が現れ、徐々に大きくなっていく。
あれはまずい……!
本能が激しく警鐘を鳴らし、危険だと告げてくる。
あれが放たれればここまでの苦労を全て水泡に帰すような危険なものだ。
防ぐ?無理。躱す?無理。放たれる前に倒す?無理。残りわずかとはいえ、一撃二撃で倒せる程ではない。倒すよりも放たれる方が明らかに早い。
なら、できる事は一つ。
「マーネ!」
俺は抱えていたマーネを後方に放り投げ、デカラビアに向かって駆け出した。
「ロータス!」
マーネは突然の事に目を見開き、驚きをあらわにする。
「ッ!」
それでも、一瞬視線を交わせばすぐにその意図を理解し、わずかに逡巡しながらも小さく頷いた。
頼むぞ、マーネ。
◇◆◇◆◇◆
「ロータス!」
突然放り投げられた私はなんとか着地し、思わずデカラビアに向けて駆け出していくロータスの名前を呼んだ。
その時、ロータスは一瞬こちらを振り返り、視線が交差する。
「ッ!」
その目を見た瞬間、私はロータスの意図を察し、迷いが生まれる。できれば選択したくない方法。でも、今はそれ以外にこの状況を切り抜ける方法はない。
なら、私はその信頼に応えるだけ。
私は迷いを振り切り、小さく頷いた。
それを確認したロータスは満足そうに小さく笑みを浮かべ、一直線にデカラビアに向かっていく。
「ユーナ!」
「心得たよ」
間違っても失敗しないよう、まずはユーナに呼びかける。それだけでユーナは理解し、いつもと変わらない飄々とした笑みで頷いた。
自分でも気づかなぬうちに無意識に抱いていた緊張も、その変わらない様子に消えていく。
大丈夫。私は私のやるべきをやるだけ。ロータスの隣に居続けるためにも。
私は覚悟を決め、魔杖を構えて詠唱を開始した。
◇◆◇◆◇◆
「特攻カ?無駄ナ事ヲ」
たしかに特攻したところで無駄だろう。だが、そう思っていてくれるならありがたい。俺の目的は別にあるのだから。
「滅ビルガイイ!アビスブレイ──」
俺は腰だめに剣を構え、そのまま50センチ程までになった光の球に自ら突っ込んだ。
「ナッ!?」
その瞬間、俺の視界は一瞬にして真っ白に染まり、次いで徐々に暗くなっていく。
俺がやったのは自ら突っ込む事で放たれる前に強制的に発動させ、範囲を抑え込む事。あわよくばそれにデカラビアも巻き込まれればと思ったのだが、かすかに見えたHPは微塵も減っていない。
流石にそんな都合よくはいかないか。
それでも、一番の目的は達成した。
◇◆◇◆◇◆
視界全てを覆い尽くす光が収まった時、私はすぐさま自分とユーナのHPを確認した。
「残ってる……」
私もユーナも無事。
それはつまり、ロータスの策が成功したという事だ。距離があったというのに私のすく傍まであの魔法の影響は及んでいた。それでも、私とユーナには届いていない。
ただし、その爆心地の中心にいたロータスのHPは残っているはずもなかった。
ゆっくりと倒れていくロータスの姿に私は思わず歯噛みした。
ロータスの目的は自ら突っ込む事であの魔法の影響を最小限に抑え、私達を守る事。
ではない。
光が収まった瞬間、ユーナは胸元から一本のビンを取り出してって、どこから出してるのよ!
思わず叫びそうになった文句をなんとか飲み込み、ユーナの動きを視線で追う。
「僕の見せ場だねぇ」
ピンク色の液体が入ったビン。それをユーナはロータスに向けて投擲した。
[劣化ライフポーション]品質D
邪樹精の葉の効果が変質してできた蘇生薬。効果は低いが死者を蘇らせる効果がある。
効果:HP10%で蘇生
HPがなくなったプレイヤーは教会に死に戻る。でも、すぐに死に戻る訳ではない。死んでからも少しの間体は残り続け、その間に蘇生魔法か蘇生薬を使えば復活させる事ができる。
ユーナが偶然作り出した蘇生薬。効果は低いし、量産もできない。それでも、ここまで取っておいた切り札。これを使ってロータスを蘇生させ──。
「おや?」
しかし、そのビンはロータスとは見当違いの方向に飛んでいき、距離も全然届いていない。
「そういえば僕、運動音痴だったねぇ」
「想定内よ」
ユーナが運動音痴なんて始めからわかっていた事。
私はいざという時のために待機させておいた土の矢を操り、ビンにかすらせて軌道を変える。
そして、ロータスの真上に移動したビンにさらに土の矢を当て、中身をロータスにかけた。
ポーションの効果を発揮する方法は二つある。一つはそのまま飲む方法。基本的に全員この方法を取る。
もう一つはかける方法。飲むよりも手っ取り早いが、効果が十分の一になってしまうというデメリットがある。だから、基本的に後者を選ぶというプレイヤーはいない。
でも、今に限ればかける事が最善手。
ロータスのHPがわずか1%回復したのを確認し、私は準備していた最後の魔法を発動させた。
これで私のMPも最後。だから、あとは任せたわよ。
「アタックアップ!」
◇◆◇◆◇◆
暗闇に沈んでいた意識が急速に覚醒していく感覚に俺は短く息を吐き、瞳を開けた。
その瞬間、今まで身動き一つできなかった体に力が戻り、無意識のうちに右足を踏み出して倒れそうだったのを踏み止まる。
と、同時に俺の体が一瞬光に包まれる。
ここまで何度も味わってきた感触。マーネの強化魔法だ。
完璧なタイミングでかけられた強化魔法に笑みを漏らし、最後の一手を実行するべく行動に移した。
「コンセントレーション」
次の攻撃の威力を上昇させるアーツ。そして……。
「"修羅道"」
俺の体が赤黒いオーラに包まれ、体の内側から力が湧き上がる。
ここに来る直前に覚え、まだ一度も使った事の無いアーツ。だが、その効果はシンプル。十秒間、減っているHPの割合だけステータスを上昇するというもの。
今の俺のHPは一度0になり、蘇生薬をかけた事で1%だけ蘇った。つまり、十秒間だけ俺のステータスは99%上昇するという事だ。
しかも、その効果は現状のステータスに基づく。逆境と強化魔法によるステータス上昇をさらに上昇させているのだ。そこにコンセントレーションの効果も上乗せすれば、今の俺の一撃は遥か格上のデカラビアにも痛打を与えられる。
最後の一撃を放つべく、腰だめに構えた剣を握る手に力が入る。
「マダダ!」
自身最高の魔法を受けてなお立つ俺にデカラビアは一瞬を驚愕をあらわにするも、即座に俺に向けて石槍を放った。
眼前に迫る石槍。わずか数瞬の間に俺を貫く魔法も今の俺にはスローに見える。
首を捻って紙一重で躱し、顔の横を石槍が通過する風を感じながら剣を振り抜く。
放つは現状最強の一撃。狙うは弱点。変身前と同じ、目。俺の一撃に危険を感じ、なんとか避けようとするデカラビアだが、今の俺にはそれすらも見えている。
「ヘビースラッシュ!!」
「グアァァァァ!!!!」
渾身の一撃。それが寸分狂わず両目を捉え、デカラビアは断末魔の悲鳴をあげる。
そして、そのHPがゆっくりと減っていき、ついに全てが消えた。