封印されし悪魔:VSデカラビア5
何度もガーゴイルを召喚するデカラビアだが、厄介だったのは最初だけ。攻略法を見つけてしまえば、ガーゴイルを気にしてデカラビアは思うように攻撃できず、むしろ攻撃の手が緩んで戦いやすくなった。
単純に数を増やせば戦力が上がる訳じゃない。一体だけ飛び抜けた力を持つ集団というのはよっぽど連携に優れていなければ強者に合わせられず、強者も他を気にして力を出し切れない。
今まで連携などした事がないデカラビアには荷が重かったのだろう。
結果、最初こそ時間を取られたが、今まで以上のペースでダメージを与え、HPを五割まで減らした。
『使エヌ僕ドモダ!ヤハリ我ニハ弱者ノ助ケナドイラヌ!覚悟シロ、下等ナ人間ヨ!』
いくらガーゴイルを召喚しても無駄。それどころか、自分にとって不利になると理解したのか魔法陣が徐々に光を失い、そのまま消えた。だが、だからといって安心はできない。
「これはまた、厄介だな」
ここまでデカラビアの攻撃はほとんどが石槍だったが、当然それだけの訳がない。HPが減った事でさらなる攻撃パターンが増えた。
ズラリと視界を埋め尽くす数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程大量の石の鏃。避ける隙間などなく、剣で対処できる数を超えている。
「なら、できる奴に任せるだけだ」
俺はすぐさま後ろに下がり、魔杖を構えるマーネの横に並んだ。
「ウィンドストーム」
イビルトレント戦でも見せた範囲魔法による迎撃だ。
放たれる暴風は津波の如く押し寄せてきた石の鏃をことごとく撃ち落とす。しかし、大量の鏃は暴風をも突き破り、さらに迫ってくる。
「ウィンドウォール」
だが、それもまた魔杖を油断なく構えていたマーネが続けて発動させた暴風の壁によって阻まれた。
「よくないわ」
マーネは青い液体の入ったビンを取り出し、一気に飲み干した。
「残りは?」
「三本よ。節約していたのだけれど、MP消費の大きい魔法を連続して使わされたのは痛いわね」
「どうする?」
「どうにか三割までHPを減らして。そうすればまた攻撃パターンが変わるはずだから。これも一種の賭けだけれどね」
HPを三割まで減らすと、今まで戦ったレアモンスターやボスモンスターは強化状態になり、攻撃パターンが変わった。だが、それが必ずしもデカラビアに当てはまるとは言えないし、今よりも楽になるという保証もない。それでも、マーネのMPがなくなれば詰みだ。
ならば、わずかな可能性に賭けるというのも悪くない。
「何分持つ?」
「その後の戦闘の事を考えたら二十分が限界かな」
「いける?」
「問題ない」
瞳を閉じ、短く息を吐く。
そして、再び瞳を開けた時には世界はスローになっていた。
極限まで集中力が研ぎ澄まされ、頭の中からは無駄な思考が消え去る。あるのはただ敵を倒すという意思のみ。
それを実行するべく、俺の体は考えるよりも早く動き出す。
一直線に迫る俺にデカラビアが何か言っているが、すでにその声は頭に入ってこない。
気にするべくは目の前を覆い尽くす石の鏃。それはもはや弾幕などというものではなく壁。抜ける隙間などないが、今の俺なら唯一の道が見えている。
ゆっくりと流れて見える世界の中で俺は剣を振るい、鏃を払っていく。だが、当然ながらその全てを払える訳ではないし、その必要もない。
弾いた鏃が他の鏃にぶつかり、それによってまた別の鏃とぶつかる。それが連鎖的に繰り返され、鏃の壁に俺一人分が通れる穴ができた。
鏃の壁を抜けた先では驚愕の表情を浮かべ、思わず動きを止めるデカラビアの姿が視界に映る。
戦いの最中にそれは愚行だぞ。
急速な加速によってデカラビアが反応するよりも早く肉薄し、一閃。遅れて気づいたデカラビアが逃げようとするが、させはしない。
デカラビアの進行方向に素早く回り込み、背中を斬りつけた。
なんとか逃げようとするデカラビアだが、ことごとくその方向に回り込み、絶え間なく斬撃を叩き込んでいく。
その時、デカラビアの視線が動き、その動きから鏃が来るのを察する。だが、避ける必要はない。デカラビアとは違い、俺には頼れる相棒がいるのだから。
頭上から降り注ぐ鏃に一発の石の弾丸がぶつかり、連鎖的に鏃を散らした。
やった事は俺と同じ。だが、一部に穴を開けただけの俺とは違い、その規模は桁が違う。降り注ぐ鏃、その全てを散らした。
流石はマーネだ。
◇◆◇◆◇◆
石の鏃の中に突っ込んでいくロータス。いくらロータスでもそう簡単にできる事じゃない。今のロータスだからこそできる事。
今のロータスは無駄な思考を排除し、極限まで集中力が高まっている。いわゆるゾーン。
その道の中でも限られた者だけが入れる領域にロータスは自分の意思で入る事ができる。
あの状態に入った今のロータスには世界がゆっくりと流れて見える。他の誰にも見えないロータスだけが見れる特別な景色。
私じゃその景色を一緒に見る事はできない。それでも、私は同じ景色を見たい。一緒に歩きたい。だから……。
瞳を閉じ、短く息を吐く。
ロータスが意識を切り替えるための動作。私のは単にロータスを真似しただけ。それでも、この動作は私にあっていたみたい。
瞳を開けた時、私の思考が加速する。
ロータスと同じ場所には立てない。だから、私は私のやり方で上に行く。
その時、デカラビアに斬撃を叩き込んでいたロータスの頭上に大量の鏃が現れた。
ロータスの事だから気づいているのでしょうけど、それに対して何かをする様子はない。
「まったく」
そこまで信用されたら応えない訳にはいかないじゃない。
私は鏃の位置からその軌道を予測し、どこにどの角度で撃てばいいかを計算する。
「ストーンショット」
それを一瞬で行い、杖の先から石の弾丸を放つ。
放たれた石の弾丸は狙い違わず計算通りの場所にぶつかり、鏃の軌道を変えた。それによって鏃と石の弾丸は別の鏃にぶつかり、それがまた別の鏃にぶつかる。その連鎖によって私は全ての鏃をロータスに当たらないように散らした。
デカラビアが土魔法を使う相手でよかったわ。そうじゃなければ私もロータスも力を発揮しきれなかった。
「しばらくはサポートに徹しましょうか」
今のロータスなら下手に私が攻撃しない方がいい。マナポーションの残りも少ないし、MPを節約しましょう