封印されし悪魔:VSデカラビア4
「俺が引きつける!」
五体のガーゴイルは俺に三体、マーネに二体に分かれて向かってくる。
マーネなら二体のガーゴイルに襲われても対処できるだろうが、黙って通してやる気もない。
(挑発!)
デカラビア相手には効果がなかったから使っていなかったアーツだが、ガーゴイル相手にはどうか。
結果はマーネに向かっていた二体のガーゴイルが向きを変え、俺に向かってきた事からわかる。
どうやら、デカラビアとは違い、ガーゴイルは普通のモンスターと変わらないようだ。
「ふむ」
狙いを俺に定めた五体のガーゴイルは一定の距離を置いて俺を取り囲む。知性を感じない石像であるガーゴイルがただ不用意に攻めてくるだけではないのはもしかしたらデカラビアの影響を受けているのかもしれない。
だが、いつまでもそうしている訳もなく、一体のガーゴイルが動き出したのに続いて他のガーゴイルも動き出す。
時に同時に、時に時間差をつけて。包囲の中から俺を出さないように巧みな連携でガーゴイルが攻め寄せる。
一体が真正面から突撃してきたかと思えば、同時に背後からも別のガーゴイルが爪を振るってくる。
これは序盤に初めて攻撃を当てた時の俺達の連携に近い。一体が正面で意識を引きつけ、別のガーゴイルが死角から攻める。
「だが、甘い」
正面から振るわれた爪を受け流して軌道を変え、入れ替わるように斜め前に踏み出す。
それによって背後から来たガーゴイルと衝突し、激しい音を立てて動きを止めた。
「生憎と敵を意識から外すような鍛え方はしていない」
二体が離れるよりも早くまとめて斬りつけ、さらに、マーネの放った火槍が直撃する。しかし……。
「硬いな」
残念ながらそのHPはほとんど減っていない。ガーゴイル同士がぶつかったダメージが一番大きいくらいだ。
見た限りガーゴイルには特殊な能力はない。だが、とにかく硬く、動きも決して遅くない。攻撃力に関してははっきりとはしないが、低くはないだろう。少なくとも今の俺のHPなら一撃耐えられない可能性が高い。
シンプル故に強く厄介。
それが五体。しかも、連携を取って襲ってくる。
なにより、この状況でデカラビアが黙って見ているだけの訳がない。
ガーゴイルが次々と攻め寄せるのを躱し、受け流し、捌いていく。その度にカウンターで攻撃を与えているのだが、HPの減りは微々たるもの。
HPの総量が遥かに高いであろうデカラビアに比べればいくらか早いが、気休めにもならない。
それに、デカラビアの周りにはガーゴイルを召喚した魔方陣が今も健在なのだ。下手をすると、ガーゴイルを倒したとしてもさらに召喚される可能性がある。
「っと」
背後から迫る石槍を屈んでやり過ごし、頭上から飛びかかってくるガーゴイルを跳びのいて躱す。
時間ばかりがかかる今の状況は最悪と言ってもいい。
なにせ、俺達には連続ログイン可能時間という明確な時間制限があるのだ。
その時間は十二時間。それを超えると強制的にログアウトされてしまう。フィールドでログアウトするとその体はそこに残り続ける。当然それをデカラビアが見逃すはずもない。
ログインしてからこの封印の地に辿り着くまでにかかった時間は一時間程。だから、時間制限は最大十一時間。それも、場合によってはもっと短くなる。
普通に戦っていても十時間近くかかる計算なのだ。ここであまり手間取る訳にはいかない。
半ば本能に任せて回避と反撃を行い、打開策を見つけるべく思考を巡らせる。
「普通にやっても無理だな」
その結果出た答えは現状では不可能というもの。
だが、それは普通にやればという話だ。やりようはある。
俺は思考を戦いに戻し、意識的に位置を調整する。
今まではデカラビアとの間にガーゴイル来るように位置取りをして石槍を撃てないようにしていた。それをあえてやめ、デカラビアとの間に射線を通るようにする。
その瞬間、待ち構えていたデカラビアがここぞとばかりに石槍を放ってきた。
デカラビアの弱体化である戦闘経験の欠如。この戦いの間に急速に学習しているとはいえ、まだその弱点がなくなった訳ではない。
目の前に甘い餌がぶら下げられれば思わず飛びついてしまうのは無理ない事だ。それが罠とも知らずに。
飛来した石槍を剣先で軌道を変え、背後から迫っていたガーゴイルに向ける。
『ナンダト!?』
突然目の前に迫ってきた石槍にガーゴイルが反応できるはずもなく、そのまま顔に突き刺さる。
それだけで俺達の苦労はなんだったのかと思う程あっさりとガーゴイルのHPは消え去り、光の粒子に変わった。
『マサカ、罠ダッタト言ウノカ?』
それを察せるだけの知能があるのは知っている。だが……。
俺は包囲が崩れた隙を突いて駆け出し、デカラビアへと肉薄する。
『クッ』
咄嗟に石槍を放とうとするデカラビアだが、自らの魔法によってガーゴイルを倒してしまった事が頭によぎる。もし、これが罠だったらと思ってしまうから咄嗟に動けないのだ。
知能の高さは知っている。だが、だからこそそこに迷いが生まれ、動きを鈍らせる。
それでも、このままみすみす俺の接近を許しはしない。それが不利だというのはよく理解しているから。
迷いを振り払い、デカラビアは石槍を放つ。
「そうすると思っていた」
ギリギリまで引きつけ、横に避ける。それによって俺の横を通り過ぎた石槍は、真後ろを追いかけていたガーゴイルの体に突き刺さった。それも、二体。
真っ直ぐに走るのではなく、ギザギザに動く事でガーゴイルの位置を調整し、縦に並べたのだ。
『狙ッテヤッテイルトイウノカ』
自らの魔法が利用されて次々とガーゴイルが倒れていく光景にデカラビアは愕然とした声を漏らす。
「知能が高いからこそその思考が手に取るようようにわかる」
攻撃を躊躇うデカラビアは攻撃の手が緩み、その間に俺はさらに距離を詰める。
『僕共、離レロ!』
次にするとすればそれだろう。デカラビアはガーゴイルの力よりも自分の力を信じている。ガーゴイルが邪魔で思うように魔法が使えないのなら、それを遠ざけるのは予想できた事だ。
予想できるという事は、対処法も考えているという事だ。
ガーゴイルが離れた事で心置きなく魔法が使えるようになったデカラビアは大量の石槍を放ってくる。
阻むもののいない石槍はそのまま俺に迫り、貫く。
はずだった。だが、離れたはずのガーゴイルが突如左右から吹き飛ばされるようにして俺の前に現れ、自らの体を盾にして石槍を防いだ。
『貴様カ!』
デカラビアの一つ目がギョロリと動き、その目を後方で魔杖を構えるマーネに向けた。
「忘れられては困るわね」
『ググ……マダダ!マダ終ワラヌゾ!』
そう叫んだ直後、デカラビアの周囲の魔法陣が再び強く光り、そこから新たにガーゴイルが現れた。
「それは構わないが、俺の事も忘れられては困る」
冷静さをなくし、思わずマーネの方に意識を向けてしまったデカラビアの眼前まで迫り、一閃。その大きな目を斬りつけた。
直後、デカラビアを中心に周囲の地面が盛り上がり、鋭い石の棘となって突き出した。現れたばかりのガーゴイルも巻き込んで。
『ナ……』
「わざわざ倒してくれるとはありがたいな」
石の棘を躱して一旦距離を取った俺は呆然とするデカラビアに向かって駆け出した。




