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封印されし悪魔:VSデカラビア3

「アタックアップ、スピードアップ」

 マーネの魔法によって俺の体が一瞬赤と緑に光る。最初にかけたのを含めて都合五度目の強化魔法。

 一回の効果時間が十分だからここに来てすでに四十分が経ったという事だ。

 だが、最初の方は情報収集に努めていたとはいえ、そのHPは未だ一割も減っていない。

 攻撃自体は当てられているんだが、どうしてもデカラビアとの間には覆しようのないレベル差がある。

 特に俺の攻撃が弱過ぎる。攻撃を当てた回数なら当然俺の方が上なのだが、与えたダメージは3:7でマーネが上回っている。

 少しでも火力を上げたいところだが、魔法相手ではカウンターも発動せず、レベル差のせいでわざと攻撃に当たって自分のHPを減らす事もできない。

「お困りのようだねぇ」

 その時、すぐ後ろから何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 間違えであってくれと思いながら後ろを確認すると、そこにいたのは案の定、ニヤニヤとした笑みを浮かべたユーナだった。

「そこで何をしている……っと」

 当然ながら今もデカラビアの攻撃は続いている。俺は仕方なくユーナを肩に担ぎ、その場から跳びのいた。

「愛と夢を運ぶサンタさんだよ。いい子の君にプレゼントを持ってきたのさ」

「今は夏だ」

「おや、少し早かったねぇ。慌てん坊で困ってしまうよ」

「冗談に付き合ってる暇はないんだが」

 ユーナが何をしたいのかが見えない。いつも飄々としていて掴みどころのない奴だが、意味もなく危険に飛び込んでくる奴ではない。

 ……よな?いや、ユーナなら俺にちょっかいを出しに来ただけという可能性も……。

「ふふ、スリル満点だねぇ。トナカイ君」

「誰がトナカイだ」

 目の前を通過した石槍にユーナは楽しげな笑みを漏らす。

 まさか本当にちょっかいを出しに来ただけなのかと疑念を抱いていると、俺の前に一本のビンを差し出してきた。

「プレゼントだよ」

「プレゼントって。その毒々しい紫の液体がか?というか、前に似たような物を見た気がするんだが」

 具体的に言えば初めて堅牢なる荒野に訪れた時。

「一応聞くが、それはなんなんだ?」

「毒だねぇ」

「愛と夢を運ぶにしちゃ物騒なプレゼントだな」

 さて、俺はどうしたらいいのだろうか。このままユーナが放り投げるか。最悪、盾にして突っ込むというのもありか。

「おおっと、早とちりしてはいけないよ。この毒はただの毒じゃないんだから」

「……どんな毒なんだ?」

「改良を加えた特別製さ。口から飲まなければ効果を発揮しないうえ、人間にしか効かないんだよ」

「それをどうしろと?」

「グイッといっちゃいなよ」

 よし、放り投げよう。

「しっかり調整してHPが七割削れるようにしてあるから」

「そういう事か」

 ピタリとユーナを放り投げようとした手を止め、俺は一旦下がってデカラビアから大きく距離を取った。

「ありがたくもらっておくよ」

 そこでユーナから毒の入ったビンを受け取り、そのまま一気に口に流し込んだ。

 口の中に広がるドロリとした感触と苦味と酸味が混じったような味に思わず顔を顰めながらもなんとか飲み干す。

 すると、すぐに効果は現れ、みるみるうちにHPが減っていく。

「上手く調整できているといいねぇ」

「は?」

「まだ効果は試していなくてねぇ。もしかしたら……。その時はすまないねぇ」

「そういう事は飲む前に言ってくれ」

 飲んでしまった以上はもうどうしようもない。ユーナの腕を信じるだけだ。

「まったく、どうして一番のピンチが敵ではなく、味方のアイテムなんだか」

 戦々恐々としながら減っていくHPを見詰め、残りが三割を切ったところでしっかりと止まった事に安堵の息を吐いた。

「流石僕だねぇ。完璧だよ」

「たしかに、腕だけは完璧だよ」

 代わりに他に問題があり過ぎるけど。

 とにかく、これで逆境の発動に必要なHP三割以下は果たした。上昇するステータスなどデカラビアとの差を考えれば微々たるものだが、そのわずかな差こそが明暗を分ける事もある。

「あとは二人に任せるよ。僕にできるのはこれくらいだからねぇ」

「任せろ」

 ユーナを下ろし、俺は改めてデカラビアと向かい合った。






 どれだけ経っただろうか。マーネの強化魔法も十回を超えたあたりから数えていない。

 常に綱渡りの戦いを続け、デカラビアのHPを三割ほど削る事ができた。

 逆境の効果もあって最初よりもペースは上がっているが、それでもまだ半分も減っていない。

 そのうえ、デカラビアの攻撃は段々と鋭さを増し、こっちの動きを読んでいるような攻撃が増えてきた。

 弱点だった戦闘経験の欠如。それをこの戦いの中で身につけている訳だ。

 それに、経験上そろそろデカラビアの行動に変化があるはず。気を抜ける時間なんて一瞬足りともありはしない。

『下等ナ人間ニシテハ少シハヤルヨウダ。ダガ、ココマデダ。出デヨ(しもべ)ヨ!』

 デカラビアの攻撃が止んだ直後、その周囲の地面に五つの魔法陣が現れた。

 何をするのかわからないが、みすみすやらせてやる理由もない。すぐにマーネがそれを阻むべく火槍を放った。

 だが、火槍はデカラビアの前で見えない壁にぶつかり、呆気なく霧散した。

「駄目ね。妨害はできないみたい」

 攻撃も止んでいて絶好の好機なのだがどうやら見ている事しかできないらしい。

 そして、魔方陣が強く光り、それぞれの魔法陣から翼と鋭い爪を持つ悪魔の石像が現れた。



 ガーゴイルLv20

 種族:魔法生物



「ボスモンスターの中には取り巻きのモンスターを呼ぶのもいるけれど、まさかここで来るなんてね」

 しかも、デカラビアの半分とはいえ、そのレベルは20。俺達よりも上だ。

 さらに、ガーゴイルの体は石でできている。ゴーレムと同じタイプだとすれば相応に硬いはずだ。それが五体。

「ロータス」

「ま、なんとかしてみるよ」

 デカラビア一体でさえギリギリの戦いなのだ。そこに、さらなる追加モンスターとは絶望的と言ってもいい。

『行ケ、僕共!愚カナ人間共ヲ殲滅セヨ!』

 デカラビアの言葉に従い、五体のガーゴイルが一斉に動き出した。

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