封印されし悪魔:VSデカラビア1
序列69位デカラビアLv40 封印されし悪魔
種族:悪魔
「レベル40……アースドラゴンのちょうど倍。俺よりも25も上か」
そこにいたのは星の形をした異形の存在。体長はあまり大きくなく、せいぜい2メートルといったところか。
体の中心に一つだけ大きな目があり、己の領域に踏み込んだ侵入者を睥睨している。
その見た目ははっきり言って強そうには見えない。これまでに遭遇したモンスターと比べて比較的小さく、その見た目からは一目でわかる脅威というものがない。
見た目だけならばアースドラゴンの方が遥かに強そうだ。
だが、本能は目の前の異形の悪魔を危険だと激しく警鐘を鳴らし、今すぐ逃げろと告げてくる。
逃げられるのならすぐにでも逃げた方がいい相手だ。あれはそれほどの相手。まあ、逃げられればの話だが。
「72体の悪魔という時点で予想していたけれど、やっぱり、元ネタはソロモン72柱の悪魔ね」
「あー、聞いた事くらいはあるかな?」
詳しくは知らないが。
「あれは序列69位デカラビア。三十の軍団を率いる大侯爵よ。それを踏まえて一つ朗報があるわ」
「なんだ?」
「デカラビアはおそらく、魔法主体のモンスター。この手のタイプは自己回復をまず持っていないわ」
たしかに、それは朗報だ。攻撃を当て続ければいつかは倒せるということはなのだから。
ただ、そう語るマーネの顔には苦々しげな表情が宿っていた。
「代わりに魔法主体のモンスターなら間違いなく広範囲攻撃持っているでしょうね」
俺達の弱点は攻撃力に比べて脆弱な防御力。まあ、これだけレベル差があったら多少硬いところで意味はないだろうけど。
「まあ、なんとかなるだろ」
「随分楽観的ね」
「全ての攻撃を防いで攻撃を当て続ければ論理的にはどんな格上の相手にだって勝てるんだろ?」
「ふふ、そうね」
逃げる事はできない。ならば、目の前の敵を倒すだけだ。
『話ハ済ンダカ、愚カナ人間ヨ』
と、その時、突如として頭の中に声が響いた。
「まさか、お前が話しているのか?」
『イカニモ。下等ナ人間ノ言葉ナド、我ニカカレバ造作モナイ。生憎と話ス口ハ持チ合ワセテイナイガ、思念ヲ飛バスクライ容易イ』
今まで言葉を話すモンスターとは遭遇した事がなかった。チラリとマーネを見るも首を横に振る。
「わざわざ待っていてくれるとは随分優しいんだな」
『永ラクコノ地ニ封印サレ、退屈シテイタノダ。ソコニオモチャが自ラ転ガリコンデキタノダ。簡単ニ潰シテシマッテハツマラヌダロウ』
「なら、楽しませてあげるわ。その結果貴方が滅ぶ事になるかもしれないけれどね」
『人間風情ガ。誰ニ向カッテ口ヲキイテキル』
「見下していた人間に封印された間抜けな悪魔、でしょ?」
「図ニ乗ルナ!」
怒気を迸らせ、マーネに向けて土の槍を作り出した。
(挑発!)
俺は咄嗟に挑発を発動し、その攻撃を俺の方に向けようとするが、デカラビアは構わずマーネに向けて土の槍を放った。
高速で迫る土の槍だが、マーネはそれを読んでいたのか慌てる事なく一歩横にずれて躱した。
『躱シタカ』
「そう、やっぱり……」
デカラビアの攻撃にマーネは納得したように呟いた。
「何がやっぱりなんだ?」
「気をつけなさい。あの悪魔、通常のモンスターとは違う思考ルーチンを持っているみたい。単純にヘイトだけで狙っている訳じゃないわ」
どういう意味かと尋ねようとするが、それよりも早くデカラビアが次々と土の槍を放ってきた。
それを防ぐべくマーネとの間に割って入ろうとするが、視線で制され、デカラビアに向かえと示される。
「ユーナ、貴女は離れていなさい」
「言われるまでもないねぇ」
次々と飛来する土の槍の合間を縫ってユーナはさっさと駆け出し、マーネから距離を取る。
狙いはあくまでマーネ。離れていくユーナを狙う様子はない。
俺はそれを横目で確認し、デカラビアへ肉薄する。
『目障リダ!』
俺の接近に気づいたデカラビアはマーネに向けていた石槍を俺に切り替え、放ってくる。
次々と迫り来る石槍を剣先で軌道をそらし、スピードを緩める事なく駆ける。だが、一筋縄でいくような相手ではない。
『小賢シイワ!』
ずらりとデカラビアの周りに大量の石槍が現れ、一斉に襲いかかってきた。
「む」
数も多く、そのうえ速い。威力に関してはかすりでもすれば一撃で倒されてしまうだろう。
俺は手と足を動かし続け、駆け回りながら剣を振るって迫り来る大量の石槍を捌いていく。
事前にイビルトレントと戦っていたのは幸運だった。魔法の物量で攻めるという似たタイプと戦った経験があったからこそこうして捌けているのだ。
初見だったらもっと苦労しただろう。
『チョコマカト!』
攻撃が当たらない事にデカラビアは苛立ちを募らせ、その攻撃は苛烈さを増していく。だが、それとは逆に狙いは粗くなり、かろうじて激しさを増す槍の雨を切り抜ける。
デカラビアからは普通のモンスターとは違う感情があるように見える。だからこそ、単純にヘイトだけで狙いを決めるのではなく、別の思考ルーチンがあるのだろう。
だが、だからこそそこに隙がある。
デカラビア、というか悪魔が総じてそうなのか、その性格は傲慢。こちらを見下し、侮っている。故に、自分の思い通りにいかないと苛立ち、冷静さをなくす。
それは普通のモンスターにはない弱点だ。
現にデカラビアは今、躍起になって俺に攻撃を当てようとしているせいでマーネの事が意識から外れている。
その隙を突いて放たれた火槍が降りしきる石槍の間を縫ってデカラビアを捉えた。
『グッ!』
与えたダメージは極わずか。それでも、意識の外から攻撃された事にデカラビアは呻き声を漏らした。
今が好機。
自らにダメージを与えた存在にデカラビアの視線が思わず動く。
絶え間ない攻撃の中にわずかにできた隙。それを逃す事なく地を蹴り、一気に距離を詰める。
一拍遅れて俺の接近に気づいたデカラビアは咄嗟に石槍を放つが、俺はそれを掻い潜ってさらに踏み込み、剣を振るう。
「む」
だが、その剣はデカラビアを捉える事なく空を切った。
デカラビアが空中を滑るように後退した事で。
なまじイビルトレントとおなじ魔法型だったから失念していた。大地に根を張るイビルトレントと違い、デカラビアは自在に動けるのだ。
俺はすぐさまデカラビアを追おうとするが、目の前に現れた石槍に中断し、横にずれて回避した。
イビルトレントが固定砲台ならデカラビアは移動砲台。これは思ったよりも厄介だな。