魔杖の性能
ヘパイストスのホームを後にした俺達は魔杖の性能を確かめるため、西の荒野を越えて堅牢なる荒野にやって来ていた。
「なんでわざわざここまで来たんだ?試すだけならもっと近場でもよかったんじゃ?」
「他の場所だとこの杖の性能を発揮する前に倒してしまうのよ」
言いながらマーネは魔杖を構え、見つけたロックタートルに向けた。
「ファイアボール」
放たれた火球は見た目は今までと変わらない。だが、結果は格段に違った。
「グウゥゥ」
火球が直撃したロックタートルは苦痛の声を漏らし、そのHPが一気に三割以上減少した。
堅牢なる荒野のモンスターは総じて耐久が高い。それは物理面だけでなく魔法面でもだ。俺が普通に倒そうとすると前は十五分以上かかった。
そのモンスター相手にただのファイアボールで三割以上与えるなど格が違う。
そのままマーネはさらに魔法を放ち、あっという間にロックタートルを倒し切った。
「火力は流石の一言ね。MP消費軽減の効果も把握できた。ただ……」
「何か問題でもあるのか?」
「火力が高過ぎる。これじゃあヘイトがすぐに私に集まってしまうわ」
「む、たしかに」
今まででさえマーネが一気に攻撃を仕掛けるとヘイトがマーネに移ってしまいかねなかったのだ。マーネが上手く調整していたから問題なかったが、ここまで火力に差があるとそれも難しい。
いや、マーネなら容易く熟せるだろうが、それではマーネの火力を活かせない。
「スキルポイントは余っているわよね?」
「まあ、全然使ってないからな」
「なら、『嫌われ者』っていうスキルを取ってくれないかしら」
「あまり取りたくない名前だな」
「でも、有用よ。自分が稼ぐヘイトが上がるのと、パーティメンバーがヘイトを高めた時、その一部を引き受けるという効果があるの」
なるほど、たしかに有用だ。パーティメンバーという事は人数が多い程効果があるのだろう。今まで取らなかったのはその辺りが理由か。
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名前:ロータス
職業:戦士Lv15
STR:40(+11)
VIT:40(+12)
INT:19(+4)
MID:20(+5)
AGI:39(+11)
DEX:28(+7)
SP:31
スキル:剣術Lv 5 眼Lv4 歩法術Lv4 逆境Lv4 集中Lv 5 気配察知Lv3 カウンターLv3 嫌われ者Lv1 無技の剣 魔法切断
称号:【ジャイアントキリング】【希少種ハンター】 【街の支援者】
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「これで大丈夫なのか?」
「まだ足りないでしょうね。だから、私も『姫』というスキルを取るわ」
「なんだそれ?」
「ヘイトの一部をパーティ内の男性プレイヤーに向けるというスキルよ。ちなみに、女性専用スキルよ。このスキルを持っているのを黙ったまま野良パーティに入ると問題になる事があるわ」
「だろうな」
知らぬ間にヘイトが高まっていたりしたら、そのせいでパーティが瓦解しかねない。
「これで問題ないはずよ。これ以上は今まで通り私が調整するから」
「ああ、わかった」
「じゃあ、もう少し続けましょうか。ついでに使っていないアーツなんかも試してみましょう」
言われてみれば、覚えたきり使っていないアーツがあった気がする。いい機会だし、それも試してみるとしよう。
「ところで、聞きたくはないのだけれど、ユーナは?」
「どこ行ったんだろうな?」
グルリと辺りを見回してみるが、どこにもユーナの姿は見えない。
デューオの街に着いた時にはいたはずなんだがな。まあ、前来た時も退屈そうにしていたし。
「はぁ、まあいいわ」
短くため息を吐くマーネの顔には諦めの表情が浮かんでいた。
「行きましょう」
ユーナの事を頭の隅に追いやり、俺達は魔杖と新しく取得したスキルやアーツを一日かけて試していった。




