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レアモンスター:VSイビルトレント

 イビルトレントLv18

 種族:精霊



「トレントは前にも戦ったでしょ。通常のトレントとの一番の違いは魔法を使ってくる事。それに気をつけて」

「わかった」

 俺は頷いて答え、イビルトレントに向かって駆ける。


(挑発!)


 まずはいつも通り挑発でヘイトを集め、そのままイビルトレントの幹を薙ぐ。

 与えたダメージは微々たるものだが、そんなのは初めからわかっていた事だし、いつもの事。今さら気にする事でもない。気にするべきは──。

 頭上に感じた気配に咄嗟に飛び退いた直後、今まで立っていた場所に水の槍が突き刺さる。さらに、間髪入れずに足元の地面が盛り上がり、鋭く尖って襲いかかってくる。

 それを横に跳んで躱せば、今度は鞭のようにしならせた枝が振り下ろされる。

 これはトレントも使ってきていた攻撃だな。だが、その威力は普通のトレントとは比べ物にならない。

 それをさらに横に跳んで躱すが、狙い澄ましたように水の槍が眼前に迫る。

「ふっ」

 あってよかったスキル魔法切断。

 短く息を吐いて剣を振り、迫り来る水の槍を斬り裂いた。

「近づかせてもらえないか」

 魔法と枝を組み合わせた怒涛の攻撃。しかも、こっちが避ける方向を予測して魔法を放つなど、知能の高さも窺える。

 ダメージ自体は俺が引きつけている間にマーネが与えてはいるが、俺が攻撃できないとすぐにヘイトがマーネに移ってしまう。

 そうなると戦況は一気に不利になる。

 そこでふと視線を感じ、マーネの方を見ると、マーネが目で『いいから前に出ろ』と言っている。

「仕方ない」

 一度開いてしまった距離を再び詰めるべく地を蹴り、イビルトレントへ肉薄する。

 当然それを大人しく見逃してくれる相手でもなく、頭上から勢いよく枝を振り下ろしてくる。

 それを前に進みながら横にずれて躱し、放たれた水の槍を斬り裂く。俺を貫こうと地面が盛り上がるが、瞬間的に加速してタイミングを狂わせ、跳び越える。

 イビルトレントまでの距離が残りわずかという所で目の前にずらりと水の矢が並び、その鏃を俺に向ける。

 あれを無傷で切り抜けるのは流石に難しいか。

 一人なら、だが。

 その直後、横合いから飛来した風の矢が次々と水の矢とぶつかり、打ち消していく。しかし、風の矢に比べて水の矢の方が数が多いため、その全てを打ち消す事はできない。

「十分」

 だが、ここまで数が減れば問題ない。俺は残った水の矢を斬り裂き、再びイビルトレントを剣の間合いに捉えた。

 植物型のモンスターは総じて耐久が高いらしい。その反面ほとんどが動く事のできないモンスターで面倒だが比較的戦いやすいとマーネが言っていた。

 まあ、種類によっては厄介な能力を持っていたりするから一概にそうとは言えないらしいが。

 このイビルトレントに関しては魔法と枝を使った連打は厄介だが、それだけだ。

 枝の一撃は速いし、威力もあるがその軌道は限定的。避けるのは難しくない。魔法に関しても、今はヘイトを稼ぎ過ぎないようにマーネが一時的にサポートに回って撃ち落としてくれるから気にしなくていい。

 足元からの攻撃だけはマーネも対処できないが、あれだけなら自力でどうとでもなる。

 俺はイビルトレントにも負けない勢いで次々と剣を振るい、ダメージを積み重ねていく。

 現状戦いは有利に進められているが、経験上このまま楽には勝たせてくれない。

 変化があったのはHPを三割程削った時。

 地面が揺れ出し、それを怪訝に思った直後、地面から何本もの木の根が現れた。

 ゆらゆらと揺れ動くその根を油断なく注視していると、突如その鋭く尖った先端を俺に向け、襲いかかってきた。

「む」

 俺を貫かんと迫る根を咄嗟に躱し、斬る。どうやら、根にそこまでの耐久力はないらしく、あっさりと切断できた。

 だが、根は次々と迫るうえ、斬った根も一度地面に潜ると何事もなかったかのように復活して戻ってくる。

 加えて、今までの攻撃がなくなった訳ではない。頭上からは枝が振り下ろされ、足元からは土の棘が襲いかかり、根に混じって魔法も飛んでくる。

 流石にこれだけの攻撃は至近距離では捌き切れず、俺は後退を余儀なくされた。

「さて、どうするかな」

 一応距離さえ取れば対処はできる。枝と土の棘以外は全て斬ればいいのだ。

 ただ、近接攻撃しかない俺だとこのままじゃまるで攻撃できないが。

「根っこは私がなんとかするわ。それでしばらくは根っこを封じられる。ただし、MPをかなり消費するから私もしばらくMP回復に努めるわ」

「わかった」

 つまり、その間は自力でなんとかしろという訳だ。

「行くわよ。ウィンドストーム」

 マーネの持つ杖から放たれた吹き荒れる暴風が広がり、(うごめ)いていた根を一気に細切れにした。

「あの根は一気に数を減らすとしばらく復活しないの。だから、今がチャンスよ」

 マーネの作った好機を逃さないよう、言われるよりも早く俺は駆け出し、イビルトレントへ迫る。

 根がなくなろうとイビルトレントの攻撃手段がなくなった訳ではない。イビルトレントからすれば根などいくつもある攻撃手段の一つでしかないのだ。

 枝を振り回し、魔法を放って俺の接近を阻んでくる。

 だが、それはもう何度も見た攻撃ばかり。

 緩急をつけた足運びで掻い潜り、躱し切れないものは斬り裂いて一気に距離を詰めた。

 マーネのサポートがない分攻撃の対処に手間を取られ、どうしてもダメージを与えるペースは落ちてしまう。

 とはいえ、根があった時に比べればマシだ。あれが復活したらまたマーネに頼るしかなくなる。

 マーネが使ったのは風魔法Lv5で覚える広域攻撃魔法だ。広範囲を攻撃できるが、相応にMPも消費してしまう。

 たぶん、これから先はマーネは根の対応以外に手が回らなくなってしまうだろう。

 つまり、この戦いは俺にかかっているという事だ。

「ふっ、面白いな」






 イビルトレントとの戦いはすでに二時間を超えている。自己回復なしでこれなのだから、自己回復を持っている相手との戦いだったらどれ程の時間がかかる事か。

 それでも、イビルトレントのHPは残り三割まで減らす事ができた。

 とはいえ、ここからが正念場だ。

「ウオォォォォォ!!!」

 イビルトレントはその体を揺らし、紫色のオーラを纏って薄気味悪い声をあげた。

「樹なのにどうやって鳴いてるんだろうな?」

「樹なのにあれだけ元気に動き回っているのだから今さらね」

「それもそうか」

 俺が下がったのに合わせ、復活した根をマーネが手慣れた様子で細切れにする。

「ここから先はもう根っこは復活しないわ。だから、私も攻撃に参加するわ」

「了解」

「それから、根っこがなくなった代わりに魔法のパターンが変わるわ。気をつけなさい」

「わかった」

 俺は頷いて駆け出し、イビルトレントに向かっていくが、今までのように無理矢理押し通る事はできない。慎重にイビルトレントの動きを見極める。

「む」

 今までは水の矢や槍を放ってくるのがほとんどだったが、早速さっきまでにはなかった魔法を使ってくる。

 イビルトレントの周りに三つの水の渦が現れたかと思った瞬間、そこから水がレーザーのように放たれた。

 咄嗟にそれを身を屈めて躱し、即座にその場から移動する。

 直後、俺の足元から次々と土の棘が生えてくる。今までは単発だったから大して問題にならかったが、それも数が増えれば脅威となる。

 魔法切断は個人的にかなり使い勝手のいいスキルだが、弱点がある。持続する魔法に対しては効果が薄いのだ。

 さっきのレーザーのような魔法は少し斬ったところでその後ろが続いている以上意味がない。範囲魔法に対しても同じような理由で効果がない。

 魔法切断は魔法を無効化するのではなく、あくまで斬るだけなのだ。

 それ故にもう一つ弱点がある。

「ふむ、似たような攻撃を前にも見たな」

 視線の先でイビルトレントは直径70センチ程の岩塊を作り出し、それを俺に向けて放ってきた。

 もう一つの弱点はそもそも斬れない物は斬れないという事だ。

 未だ俺の腕ではあの岩塊を斬り裂く事は叶わない。まったく、修行が足りないな。

「まあ、斬れないなら斬れないでやりようはある」

 一瞬マーネに視線を向けてから飛来した岩塊に自ら踏み込み、その下に潜り込むようにして剣を振るう。


(スマッシュ!)


 渾身の力を込めたアーツはその勢いを殺す事はできずとも、その力の向きを変える事に成功した。

 下からの力によって軌道を変えられた岩塊はマーネの目の前に飛んでいき、そこにマーネは杖を向ける。

「ウィンドバースト」

 放たれた暴風の塊が岩塊にぶつかり、解き放たれた暴風によって岩塊をイビルトレントに撃ち返した。

「流石」

 撃ち返された岩塊は狙い違わずイビルトレントの幹を捉え、その威力に絶え間なく放たれていた魔法が一瞬止む。

 その一瞬の隙を見逃す事なく瞬時に地を蹴り、イビルトレントに肉薄した。

 近づいてしまえば厄介なのは足元からの土の棘だけ。それも慣れてしまえばどうという事もない。

 次々と足元から飛び出してくる土の棘を足場に剣を振るっていく。水のレーザーだけは避けなければならないが、それ以外の魔法なら避けるまでもない。

 頭上では水の矢や槍が放たれた先からマーネの魔法に打ち消されていく。

 とはいえ、これでも戦況は五分五分といったところか。一歩間違えれば戦況は一気に傾きかねない。

 ……仕方ない。

「ふぅ」

 瞳を閉じ、短く息を吐く。

 集中力が研ぎ澄まされていく感覚に身を浸しながら俺は無心で剣を振るっていった。

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