レアモンスターの捜索
〈輸送隊の護衛が達成されました〉
〈隠しクエスト『始まりの街の問題を解決しろ!』が達成されました。参加したプレイヤーにSPが5ポイント加算されます〉
〈隠しクエスト達成に関わったプレイヤーに称号『街の支援者』が送られます〉
「む?」
冒険者ギルドでマーネがレムトから受け取った紙を渡すと、続けざまにいくつものインフォが流れた。
ふむ、隠しクエストか。初めて聞く単語だな。
マーネに聞きたいところだが、マーネは今ギルドの受付であるレイナと話していて聞けそうにない。
仕方ない、少し待つとするか。
「ありがとうございました。これでこの街のポーション不足も解決するはずです」
「私達はただ仕事をしただけよ。特別な事なんて何もないわ」
「いえ、それでもです。この街の住人を代表してお礼を申し上げます」
深々と頭を下げるレイナにマーネは若干居心地悪そうにしている。
「この話は終わりにしましょう。ところで、デューオ以外の他の街からもポーションは届けられたのかしら?」
「はい。少し前に他の街からの輸送隊も到着しています」
「そう、わかったわ。じゃあ、私達はそろそろ行くわ」
「はい。本当にありがとうございました」
頭を下げるレイナに背を向け、俺達はやや足早に歩くマーネに続いてギルドを出た。
「なあ、マーネ」
「隠しクエストっていうのは一度しか達成できないうえ、達成するまで存在もわからないクエストの事よ」
相変わらず打てば響くようにマーネが俺の疑問に答えてくれる。
「達成条件はなんだったんだろうな」
「おそらく、四つの街の輸送隊が無事にこの街に辿り着く事ね」
ああ、だからさっき他の輸送隊が辿り着いたか聞いていたのか。
「それで、称号の効果はなんなの?」
「えっと……」
街の支援者:街の問題を解決した者に送られる称号。住人からの好感度が上がりやすくなる。
「住人の好感度ね。現状だとどれくらい意味があるのかはわからないけれど、高くて問題のあるものでもないわね」
まあ、たしかに低いよりは高い方がいいよな。
「それで、この後はどうするんだい?」
「そうね……」
マーネは口元に手をやって考え、少しして答えを出した。
「詐欺師の森に行きましょう。欲しい素材があるの」
「前に言っていた杖の素材か?」
今の杖も作ったばかりだが、あくまで繋ぎの装備だと言っていた。改めて詐欺師の森に素材を取りに行くという事はたぶんそれだろう。
「正解よ。これに関しては完全に私の都合だから貴方達が嫌だというならやめておくけれど」
「気にしなくていいぞ。マーネがやりたいという事なら俺は否定しない」
「僕も構わないよ。昨日は僕の都合に付き合ってもらったからねぇ。それに、詐欺師の森の素材には興味があるしねぇ」
「決まりだな」
「で、欲しい素材っていうのはなんなんだ?」
まだエリアボスを倒していないユーナがいるため、二度目となるジャイアントボアを倒し、俺達はセカンディアにやって来た。
「詐欺師の森のレアモンスターよ」
「レアモンスターか」
思い出されるのは俺達に強烈な印象を与えたアースドラゴン。現状あれと正面から戦って勝てる可能性は低いだろう。
「あれはレアモンスターの中でも特別よ。私達とは特に相性も悪いし」
「相性?」
「私達の弱点は回避困難な広範囲攻撃と自己回復よ」
ふむ、回避困難な広範囲攻撃というのはアースドラゴンのブレスのようなものだろう。点や線の攻撃ならたいてい躱せるだろうけど、面での攻撃はたしかに避けるのが難しい。
俺だけならアースドラゴンの体に登る事で避けれるだろうが、後方にいるマーネとユーナではそれも難しい。
最悪マーネなら避けられる気もするが、ユーナでは無理だろう。
「全ての攻撃を躱し、攻撃を当て続ければ理論上はどんな格上でも勝てるわ。でも、実際はそうはならない」
「こっちの与えるダメージを上回る速度で回復される場合か」
そうなってしまえば戦いは永遠に決着がつかない。アースドラゴンにしたように逃げるしかなくなるが、エリアボスが相手だとそれもできない。
「私が第二エリアのエリアボスに行かないのはそれが理由よ。第二エリアのエリアボスは四体とも自己回復スキルを持っているの。時間さえかければ倒せる今までとは違うわ」
「今の俺達じゃまだ倒し切れないって訳か」
「東側ならかろうじて倒せるかしらね。時間はすごくかかるでしょうけど」
「今から探しに行くレアモンスターは?」
「安心して。広範囲攻撃も自己回復もないから」
「レアモンスターはまず見つけられるが問題だけどねぇ」
今まであったレアモンスターはレッドベアとアースドラゴン。どっちも探して見つけた訳じゃなく、偶然遭遇しただけだ。
レアモンスターというだけあって本来は見つけるのが難しいのだろう。
まあ、レアモンスターと遭遇しやすくなる希少種ハンターという称号と強運を持つマーネがいるんだ。なんとかなるだろ。
「早速探しに行くのか?」
「いえ、見つけるのもそうだけれど、戦闘自体も時間がかかるでしょうから明日にしましょう。結構いい時間だしね」
言われて時間を見てみるとたしかにいい時間だ。これから見つかるかどうかもわからないモンスターを探して倒そうとすると何時になるかわからない。
「じゃあ、また明日だな」
一夜明けて翌日。俺達は朝からレアモンスターを探して詐欺師の森に突入していた。
前回来た時は俺達しかいなかったこの場所も今では少ないが他のプレイヤーもいる。
そのプレイヤーを避けるようにどんどんと奥地に進んで早数時間。途中初日に買ったきりだったフィールドでもログアウトできるテントを使っての昼休憩を挟みながら捜索を進めていたが、未だその姿は発見できずにいた。
「見つからないねぇ。マーネの強運で今すぐ呼び寄せたりできないのかい?」
「あくまで少し運がいいというだけよ。そこまで万能じゃないわ。まあ、少なくとも今日中には見つかるとは思うけれど」
奇しくも前に話した探している物程見つからず、ふとした時に見つかるっていうのが現実になった形だな。
「そういえば、この森ってどれくらい広いんだ?結構歩いてるよな」
出てくるモンスターを倒しながら進んでいるからペースはそこまで早くないが、かなりの時間探し回っている。第一エリアならとっくにエリアボスに辿り着いているはずだ。
「第二エリアは総じて広いわ。第一エリアと比べれば五倍以上ね。まだ半分くらいよ」
「広いな」
「だから、先に進むのに馬を買うプレイヤーが多いわね」
「馬か……。どこで買うんだ?」
「トゥーシスで買えるわよ。まだ持っているプレイヤーは少ないでしょうけど」
「なんでだ?」
「今、攻略組がメインにしている狩場はここよ」
「ああ、なるほど」
たしかに買ったところで森の中では馬は使いづらいな。
〈レベルが14になりました〉
〈気配察知Lv3になりました〉
〈SPが2ポイント加算されます〉
「レベルアップか」
頭上から音もなく襲いかかってきたサイレントスパイダーというモンスターを倒した瞬間、インフォが流れる。
「この辺りのモンスターなら私達とレベルもそう変わらないもの。あれだけ倒せばレベルアップもするわ」
まあ、レアモンスターは強敵ばかりだからレベルが上がってくれるのはありがたい。
「それにしても、いいタイミングだったわね」
「む?」
「いたわよ」
森が途切れた場所にそれはいた。
禍々しい黒い幹に怨嗟を秘めたような顔を持ち、ゆらゆらと枝を揺らす巨大な大木。
俺達が探し求めていたモンスター、イビルトレントだ。




