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初戦闘

「戦闘になったら貴方はまず『挑発』を使って」

「挑発?」

「戦士が最初から使えるアーツよ。アーツっていうのはレベルとかスキルレベルを上げる事で覚える技のようなものよ。ステータスから職業とスキルを詳しく見れば覚えているアーツがわかるわよ」

 言われた通りに確認してみると職業で『挑発』。剣術のスキルで『スラッシュ』があった。

 他のスキルも確認してみたが他にはなかった。

「剣術のスキルにスラッシュってのがあるんだが」

「剣術の初期アーツね。剣術のレベルを上げれば新しく別のアーツを覚えるし、スラッシュを使い続ければ派生アーツを覚えるわ。とりあえず、実際に使ってみなさい」

「わかった。試してみるよ」

 俺は腰の剣を抜き、構えた。

 この感触も久しぶりだな。またこうして剣を手にする事になるなんてな。

 思わず漏れ出た笑みを押し込み、手の中の剣術に集中する。

「…………」

「発動したいアーツの名前を思い浮かべれば発動できるわ」

 ……なるほど。


(スラッシュ!)


 半ば自動的に俺の腕が動き、鋭い横薙ぎの一閃が空に走る。

「ふ、む……」

「違和感があるでしょ?」

「まあ、そうだな」

「素人ならあまり気にならないのでしょうけど、貴方は違うからね。通常攻撃よりも威力はあるけど無理に使う必要はないわ」

「そうするよ」

 正直違和感が半端ない。自分の体が勝手に動く感覚は慣れそうにない。

 それに、あれくらいなら自前でできるしな。

「それで、話を戻すわね」

「ああ、挑発だっけ?」

「そう。挑発っていうのは敵のヘイトを集めるアーツよ」

「ヘイト?」

「簡単に言えば敵が優先的に狙う基準となる数値ってところかしら?基本的にモンスターはヘイトが高い相手を狙うの。ダメージを与える。挑発系のアーツを使う。味方への支援。この辺りがヘイトを高める行動ね」

「ああ、なるほど。理解した」

 つまり、ヘイトを集める事で敵を自分に集中させ、仲間が自由に動けるようにするという訳か。

 特に魔法使いは魔法の発動に詠唱がいるらしいしな。マーネに敵を近づけさせないようにするのが俺の仕事という訳だ。

「ヘイトを集めて敵の足止めをする人の事をタンクと呼ぶわ。普通、タンクは攻撃よりも防御を重視するのだけれど、貴方は別よ。集まってきた敵を全部斬り伏せなさい。できるでしょ?」

 どこか挑発するような言葉に頭を掻いて苦笑を漏らした。

「まあ、やってみるよ。できるかどうかは実際にやらないとわからないしな」

 俺は抜いたままだったけ剣を構え直し、岩の陰から現れたモンスターへ視線向けた。



 ゴブリンLv5

 種族:妖精



 それは子供程の大きさの醜い顔をした二足歩行のモンスター。それが全部で五体。

 その手にはそれぞれ別の武器を持っている。

 手前の三体は槍、短剣、剣と盾。後方の二体は杖と弓。

「ゴブリンね。この手のゲームなら定番の雑魚モンスターよ。ただ、単体の強さは大した事ないのだけれど、このゲームのゴブリンは連携を取ってくるわ。そのせいでこのフィールドは難易度が高めなの」

 ああ、だからこのフィールドには他のプレイヤーがいないのか。

 街中にあれだけいたのにここでは誰とも会わなかったから変だと思ったら。

「それにしても、ゴブリンって妖精なんだな」

「あら、知らなかった?ゴブリンは元々妖精の一種よ。あまりイメージには合わないかもしれないけど」

「妖精っていうと小さくて羽があるのを真っ先に思い浮かべちゃうからな」

「まあ、わからなくはないけれどね。それより、挑発を使ったら真っ先にあの杖持ちを倒して。回復させてきて面倒だから。それ以外は好きにしていいわ」

「了解」

 頷くと同時に駆け出し、十メートル程先でこちらを警戒していたゴブリンとの距離を詰める。


(挑発!)


 挑発を発動した瞬間、ゴブリン達の敵意が一気に高まり、その敵意が俺に一身に集まる。

「ぬるい」

 突き出された槍を一歩横にずれて躱し、槍持ちと盾持ちのゴブリンの間を速度を緩める事なくすり抜ける。

 さて、杖持ちを先に倒せと言われたが、他の奴に攻撃するなとは言われていない。

 すり抜け様に剣を振り、二体のゴブリンの足を斬りつける。これで少しは足止めになるだろう。

 そのまま駆け抜け、後方の杖持ちに迫る。

「ギィ!」

 そんな俺の背後から短剣持ちのゴブリンが追ってくる。

 俺よりも速いか。このままでは追いつかれるな。

「そのまま行きなさい!」

 迎撃のために足を止めようとした俺の耳にマーネの声が届く。ならば、迷う必要はない。

 止めかけた足を再び動かし、杖持ちとの距離を詰める。その背後から短剣持ちが飛びかかってくるが──。

「ファイアボール」

 それよりも早く、マーネから放たれた火球が短剣持ちの背中に直撃し、吹き飛ばした。

 それを視界の端で捉えるも、今気にすべきは目の前の敵だけ。

 弓持ちのゴブリンが慌てて放った矢を切り払い、杖持ちの首へと剣を走らせた。

「ギッ!」

 現実であれば間違いなく首を切り落とせていただろうがここはゲームの世界。実際に首が飛ぶ事はなかったが、それでも頭上に表示されたHPバーは半分以上削られている。

 ならば、もう一撃。

 返す刃でもう一度首を斬り裂けば今度こそHPバーは消え去り、ゴブリンの体は光の粒子となって消滅した。

 だが、戦闘はまだ終わっていない。

 たしか、ここから先は自分の判断でやっていいという話だったな。ならば……。

 すぐ近くで二射目を放とうとしている弓持ちに狙いを定め、弓を持つ手を斬りつける。

「ギャッ!」

 大きなダメージは与えられていないがその衝撃で弓が手からこぼれ落ちる。

 その弓に気が向いた隙を突いて袈裟斬り。

 それだけではHPを削り切れていないが、それに構わずマーネの魔法で吹き飛んだ短剣持ちに迫る。

 立ち上がろうとしているところ悪いが戦いに慈悲はない。マーネの魔法で削られていた短剣持ちは首への一閃によってそのHPを跡形もなく消滅させた。

 それと同時に視界の端で弓持ちが風の球の直撃を受けて吹き飛んでいく。

 それでもわずかにHPは残っていたが、そのまま勢いよく岩に頭をぶつけ、わずかなHPも消え去った。

 残り二体。

 遅れて追いかけてきた槍持ちと盾持ちのゴブリンに向き直る。

 と、そこでその奥にいたマーネからある提案をされた。

「せっかくだから槍を受けてみたら」

「何がせっかくなのかはわからないが、それも経験か」

 さっき見たあの二体の動きなら攻撃を受ける事はないだろうが、余裕がある今だからこそ一度ダメージを受けてみるというのも悪くない。

 マーネの提案を受け入れ、剣を下ろしたまま無防備に近づいた。

「ギィッ!」

 突き出された槍の切っ先が肩に直撃し、俺の体は後ろに仰け反る。

 痛みはそれほどない。だが、衝撃自体がなくなる訳ではないか。こういうのは聞くよりも実際に経験した方がわかりやすくていい。

「ギィ!」

「悪いが二度目を受けてやる気はない」

 再び突き出された槍を躱しながら踏み込み、首を一閃。

「む」

 HPの減りは三割といったところか。先に倒した三体に比べればHPの減りが少ない。

「問題はないな」

 続けざまに一撃二撃。

 ふむ、首への攻撃に比べればダメージは少ないが、それでももう一撃で倒せるだろう。

 だが、それよりも早く横合いから剣が突き出され、後退を余儀なくされた。

 それを好機とみた槍持ちが槍を構え、突きを放とうとしてくる。

 しかし、それよりも早く槍持ちの背後から飛来した火球の直撃を受け、残っていたHPを削り切った。

「あと一体か」

「あとは貴方一人でやってみなさい」

「なら、そうさせてもらうよ」

 剣を構え、躊躇いなく盾持ちに歩み寄る。

「ギィ!」

「踏み込みが甘いな」

 振るわれる剣を巻き上げて弾き飛ばす。

 手の中から飛んでいく剣に一瞬目を奪われた盾持ちにさらに近寄る。

 慌てて反対の手に持つ盾を突き出してくるが、遅い。

 それを躱しながら背後に回り込み、首へ一閃。

 与えるダメージはそれほど大きくはない。槍持ちよりも少ないがこいつは動きが遅い。

 連続で剣を叩き込んでHPを削っていく。

 とはいえ、このまま大人しくやられてくれるつもりないらしく盾を振り回しながら振り返ってくる。

 だが、それもまた遅い。

 回転に合わせて動き、盾持ちの背中にピタリと張り付く。


(スラッシュ!)


 そして、再び盾持ちの首をアーツを用いて切り裂いた。

 やはり、自分の体が勝手に動く感覚には違和感がある。発動直前と直後にわずかな硬直があるのがなおさらだ。

 それでも、トドメに用いるのなら問題はない。

 俺の視線先で残っていたHPが減少し、そして消え去った。

 それを見届け、短く息を吐くと剣を鞘に収めた。

 少しは勘を取り戻せたかな?


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