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ギルドからの依頼

「相変わらず時間にルーズなんだから」

 昨日はあのままユーナと再び会う事なくログアウトしたのだが、あの後マーネが連絡すると今日はちゃんと一緒に行動すると言っていたらしい。

 そのため、デューオの街の広場でユーナが来るのを待っているのだが、待ち合わせの時間になっても現れない。

 待ち合わせの時間からすでに三十分程経ち、ログインした時はまだ暗かった空も白み始めている。

 これが始まりの街ならゲーム内時間で明け方であるこの時間でも大勢のプレイヤーが行き交っているのだが、現在この街にいるプレイヤーは俺達だけ。

 昨日ログアウト前は住人の子供達が駆け回っていたこの広場もこの時間だと住人の姿はほとんど見かけない。

 聞こえてくるのは隣に座るマーネの息づかいだけ。こうしているとまるで世界に俺達二人だけになってしまったような錯覚すら覚える。

「待たせてしまったようだねぇ」

 そんな静寂も次の瞬間にはいつも通り飄々とした様子のユーナによって破られてしまったが。

「遅刻よ」

「すまないねぇ。朝食をご飯にするかパンにするか悩んでいたら遅れてしまったよ」

「いったい何時間悩んでいたのよ。そもそも、貴女は朝ご飯食べないじゃない」

「おや、そうだったかな?」

 飄々とした態度で変わらぬ笑みを浮かべるユーナに諦めたようにため息を吐いてベンチから立ち上がった。

「もういいわ。それより、行きましょう」

「ギルドに行くんだったか?」

「ええ、そうよ」






 そうしてやって来たギルドだが、始まりの街にあるギルドと大差はない。違いがあるとしたら始まりの街では溢れ返っていたプレイヤーの姿をここでは一切見ないという事だろうか。

「何かいい依頼はあるかしらね」

 椅子に座ってメニューを開き、依頼を確認するマーネの横で俺も一応メニューを開いてみる。

「始まりの街とは依頼が違うな」

「ここと始まりの街では住む住人も周囲に出るモンスターも違うのだから求められるものが変わるのは当然ね」

 始まりの街では『荷物を届けて』や『雑草抜きをして』といったものから特定のモンスターの素材を取ってきてなど多岐に渡った。

 デューオでもさまざまな依頼があるが、始まりの街では見なかった『鉱山から鉄鉱石を取ってきて』という見慣れない依頼もある。

 そういえば、チラッと見ただけだが、セカンディアでは『森から質のいい木材を取ってきて』という依頼があったな。

 地域によって寄せられる依頼も特色が出るという事か。

「少しよろしいでしょうか」

 そんな事を考えながら依頼を眺めていると、ギルドの制服に身を包んだ一人の女性が話しかけてきた。

「何か?」

「不躾な質問なのですが、お三方は来訪者の方ですか?」

 来訪者、住人のプレイヤーに対する呼称だったか。

「そうだけれど、何か用かしら」

「来訪者であるお三方に受けていただきたい依頼があるのです」

「どんな依頼なんだい?それを聞かない事にはイエスもノーも言えないねぇ」

「はい。お願いしたい依頼というのは始まりの街(ウーヌス)への物資支援の護衛です」

 物資支援?それってもしかして……。






 ギルド職員から説明された依頼の内容は案の定ポーションに関するものだった。

 マーネとユーナ、それにヘパイストスの尽力によって始まりの街でのポーション騒ぎは沈静化したのだが、ポーション不足という根本的な問題の解決には至っていなかった。

 そのため、始まりの街の商業ギルドと領主の間で話し合いが行われ、周辺の四つの街から支援してもらう事になったらしい。

 そして、そのポーションの輸送隊の護衛というのが俺達にもたらされた依頼という訳だ。

「一つ聞きたいのだけれど、何故それを私達に?」

「これはとても重要な依頼です。ウーヌスの街に住む人々のためにもいち早く届けたいのですが、荒野を移動する人数が多くなればその分モンスターも集まって来てしまうでしょう」

 たしか、ウーヌスっていうのは始まりの街の正式な名前だったっけな。皆始まりの街って呼ぶからすぐにはピンとこなかったけど。

「来訪者の方は実力者ばかりだと聞きます。恥ずかしながら現在この街にはこの依頼を達成できそうな冒険者がいないのです。なので、お三方にお願いしたいのです」

「……少し話し合っていいかしら?」

「ええ、もちろんです」

 ギルド職員に断りを入れて距離を取り、三人で顔を寄せ合って話し合う。

「どういう状況だろうねぇ」

「一種のイベントかしらね。β時代にはなかったわね。そもそも、β時代にはポーションの不足がなかったのだから当然だけれど」

「あれからまだ大して経っていないのに随分動きが早いんだな」

「イベント発生に何かしらの条件があったのかもしれないわね。例えば、周辺四つの街の解放とか」

「ありそうな話だねぇ」

 本来ならもう少し後だったのかもしれないが、俺達が駆け足でデューオに辿り着いてしまったから発生したという事か。

「で、受けるのかい?」

「ロータスはどうしたい?」

「俺か?」

 どうしたいか、か……。

「俺は受けたいかな。もうできる事はないと一度は手を引いたけど、一度手を出した以上最後までやり遂げたい」

「そう。なら、受けましょうか」

「随分あっさりだねぇ」

「私はどちらでもいいもの。ユーナは嫌なの?」

「僕もどちらでも構わないねぇ」

「なら、問題ないでしょ」

「それも、そうだねぇ」

 俺達は依頼を受ける事に決め、その(むね)をギルド職員に伝えた。



 〈輸送隊の護衛の依頼を受諾しました〉

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