街中での会話
「そういえば、貴方スキルは何を選んだの?」
「スキルか?えっと確か……」
あの時は結構急いでいたから直感で適当に決めたんだよな。何を選んだんだったか。
「自分のステータスはメニューから確認できるわよ」
「メニュー……ってどうやって見るんだ?」
「出ろって思えば出るわよ。チュートリアルで教えてもらえるはずだけど、受けなかったの?」
「あまり待たせても悪いと思ったからな。わからない事があればマーネに聞けばいいと思ったし。迷惑だったか?」
「そう。受けていないなら最初から教えるつもりだったから構わないわ」
「助かるよ」
言われた通りメニューを出ろと念じてみると、俺の目の前にメニューが現れた。
「お、本当に出たな。えっと、ステータスは……」
「面倒ね。先にフレンド登録をしましょうか。申請を送るから受けてちょうだい」
《マーネさんからフレンド申請が送られました》
「メニューのフレンドの所で許可か拒否できるわ」
メニューを探し、フレンドの項目を見つけてそれを押す。
すると、【フレンド一覧】【承認待ち】【申請中】という三つの項目が現れ、その【承認待ち】の欄にマーネの名前があった。
それを更に押すと【許可/拒否】と現れ、迷いなく許可を押した。
そうすると【承認待ち】の欄からマーネの名前が消え、【フレンド一覧】の欄に現れた。
「できたみたいね」
「ああ」
「じゃあ、次は設定にいって」
言われるままフレンドのページを閉じ、設定を開く。
「そこの閲覧設定で私の名前を選んでちょうだい。そうすれば私にも貴方のメニューが見えるようになるから」
「ん、できたぞ」
「じゃあ、ちょっと見せて」
そう言ってマーネは俺に身を寄せ、メニューを覗き込んでくる。
「む……」
「どうかした?」
「いや……」
マーネが近づいてきた時にいい匂いがした。これは現実の凛の匂いと一緒だ。
こんなところまで再現されているのかと驚きながらも、それを口するのは問題があると俺でもわかる。俺は黙って口をつぐんだ。
「職業はやっぱり戦士にしたのね」
「俺にできるのはそれだけだからな」
「そんな事ないと思うけど、まあいいわ。それより、選んだスキルは『剣術』『眼』『歩法術』『逆境』『集中』なのね」
「何か問題あったか?」
「貴方らしいとは思うわね。正直、『剣術』と『歩法術』以外の三つは優良スキルとは言われていないけど、現時点じゃどのスキルも詳しい検証は終わっていないわ。いいか悪いかなんて育ててみないとわからないわよ。ちなみに、私はこんな感じね」
そう言ってマーネは自分のステータスを出して見せてきた。
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名前:マーネ
職業:魔法使いLv1
STR:4
VIT:4
INT:12
MID:11
AGI: 5
DEX:10
SP:0
スキル:火魔法Lv1 風魔法Lv1 光魔法Lv1 歩法術Lv1 MP回復Lv1
称号:
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「マーネも歩法術を取っているんだな」
「歩法術は必須といってもいいスキルなのよ。このスキルは地形の影響を軽減できるの」
「地形の影響?」
「このゲームはリアルだからこそ少なからず地形の影響を受けるわ。それを軽減してくれるというのは大きな意味を持つわ」
たしかにこうして歩いていても足の裏に硬い石畳の感触が伝わってくる程リアルなのだ。
場所によっては足場の悪い所もあるだろう。その影響を軽減できるとなれば前衛後衛関係なく覚えておいて損はないはずだ。
「ところで、スキルの説明はちゃんと読んだ?」
「正直あまり」
「なら、簡単に説明するわ。剣術はそのままだし、歩法術はいま話したから省くわよ」
「ああ、頼む」
「まず眼ね。これは現時点では少し視力がよくなるだけのハズレスキルって言われているわ。とはいえ、レベルを上げればどうなるかわからないから今後に期待ね」
「ふむ」
「集中についてはどちらかというと後衛の弓を使うプレイヤー向けのスキルかしらね。命中率とクリティカルを上げる効果があるから全く意味がない訳じゃないけど、あまり前衛で選ぶ人はいないわね」
俺の選んだスキルは一般的には失敗だったのかもしれない。だけど、そこに後悔はない。それが俺なのだから。
「それでいいと思うわよ。さっきも言ったけど貴方らしいもの」
「お見通しか?」
「何年の付き合いだと思っているのよ。それに、人と違う道を進む方が面白いでしょ?」
「そうだな」
心の内を見透かされるのは気恥ずかしくもあるが悪い気はしない。それだけ俺の事を理解してくれているのだから。
「そういえば、あと一つのスキルについては?」
「逆境ね。それについてはまた後で話しましょうか」
そう言って立ち止まったマーネに続いて俺も立ち止まり、マーネの視線の先にある巨大な門を見上げた。
「ここ始まりの街ウーヌスには東西南北それぞれに門があるわ。そして、その外は各フィールドに続いている。ちなみにここは西の門ね」
「外は荒野か?」
開け放たれた門の外には緑のない荒野が広がっていた。
「北の森。南の沼地。東の草原。そして、ここ西の荒野。正直、景色を楽しむなら東が一番いいんだけれど、あそこは四つのフィールドの中で一番難易度が低いから混んでいるのよね」
「俺はどこでも構わないぞ。まだ始めたばかりなんだからな。景色を楽しむのはまた今度でいいさ」
「そうね。なら、このゲームの醍醐味、戦闘を楽しみに行きましょうか」
「そうだな。行くか」
そして、俺達は揃って門の外に足を踏み出した。