救援
駆け出した俺はそのままスケルトンの群れの中に飛び込み、少女に襲いかかろうとしていたスケルトンにスラストを叩き込む。
「え?」
突然目の前からスケルトンが消え、その後ろから見知らぬ男が現れた事に少女は困惑した様子だが、今は構っている暇はない。
(挑発!)
まずやる事は少女に向いている注意を俺に向けさせる事。
手早く挑発を使ってヘイトを稼ぎ、近場のスケルトンを次々倒していく。
都合が良い事に未だ俺のHPは減ったまま。つまり、逆境が発動した状態という事だ。通常攻撃でもカウンター分のダメージを上乗せすれば一撃で倒せる。
ここからはアーツを使って戦っていた時とは別の立ち回りが必要になる。相手に攻撃を出させた上でカウンターを決めていく。
やはり、単純に倒すだけならアーツを使わない方が早く、俺は瞬く間にスケルトンを駆逐していった。
「片づいたか」
数分後には囲んでいたスケルトンの姿はなく、月下の荒野には静寂が漂っていた。
「ちょっといいかな?」
「ん?ああ」
と、そこで少女が俺に話しかけてきた。
そういえば、先に言わないといけない事があったな。
「すまなかったな」
「え?」
「相方には無闇に他人の戦いに介入するなとは言われていたんだけど、見過ごせなくてな。迷惑だったか?」
「んー、そんな事ないよ!ローズちゃん助かっちゃった♪」
声を弾ませ、そう言って少女は笑顔を浮かべた。
ふむ、ローズというのは少女の名前だろうか?俺は改めて目の前の少女をよく見てみた。
どこかアイドルの衣装のようなフリフリの多くついた赤い服に身を包み、ピンクの髪には薔薇の髪飾りがついている。
マーネが美人なら少女は可憐といった雰囲気で明るい笑顔もあってそれこそアイドルのようだ。
身長はあまり高くなく、俺の胸くらいまでしかない。それに反して豊かな胸が自己主張をしていて男性プレイヤーからは人気がありそうだ。
「ところで、お兄さんの名前を聞いてもいいかな?」
「ああ、俺はロータスだ。たぶん、同じくらいの歳だろうからお兄さんではなく、ロータスと呼んでくれ」
「ローズの名前はローズだよ。気軽にローズちゃんって呼んでね♪」
「ああ、わかった。それで、ローズはなんでこんな所に一人でいるんだ?」
魔法使いはソロ向けの職業ではないとマーネも言っていたし、ローズはマーネのみたいに人付き合いが苦手なようには見えない。ローズが頼めば男性プレイヤーがこぞってパーティを組みたがるだろうに。
「レベル上げだよ♪お兄さんこそこんな所で一人で何をしていたのかな?」
「レベル上げかな?」
鍛錬が目的だが、ゲーム的に言うのならレベル上げで間違っていないだろう。
「なんで疑問系なのかは知らないけど、一緒だね♪もしかして運命なのかも♪」
ニコッとローズは花が咲くような笑顔を浮かべた。
「ふむ。それだと、たいていのプレイヤーはレベル上げをしているから運命の相手がたくさんいる事になると思うが」
「……お兄さんって天然って言われる事ない?」
「よくわかったな。何故かわからないが、よく言われるんだ」
自分では天然じゃないと思うんだがな。
「それより、お兄さんって強いんだね♪あんなにいたスケルトンをあっという間に倒すんだから驚いちゃったよ♪」
「ローズこそかなりの実力だろ」
魔法を使っていた時の立ち回りもそうだし、俺が介入してからは瞬時に鞭によるサポートに切り替えた判断力。一朝一夕で身につくものではない。
「ローズのサポートのおかげで楽ができた」
「お兄さんなら一人でもなんとかなったと思うけどね」
「一人でもなんとかなったが楽ができたのは事実だ」
「そっか、それならよかったよ♪それで、お兄さん」
と、そこでローズは胸の前で手を組み、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
「一つお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「私のクランに入ってほしいの。駄目?」
瞳を潤ませ、、ローズは小さく首を傾げた。
「悪いが、そのお願いはきけないかな」
「あはは、あっさり断るんだね。ちょっと自信なくなっちゃうな」
そう言うとローズはあっさり涙を引っ込め、悪戯っぽく笑った。
「どうして駄目なのかな?」
「相方がいるって言っただろ。そいつが人付き合いが下手なんだよ。クランに入ったらあいつ確実に孤立するだろうしな」
「ふーん、その人の事大事なんだ」
「ああ、そうだな」
「残ー念、振られちゃった」
「む?そういう話だったか?」
「なーんて、冗談だよ♪じゃあ、そろそろ行くね」
「ん、ああ」
「バイバイ、お兄さん。また会おうね」
ローズは笑顔で手を振り、スカートの裾を翻して立ち去っていた。
「……いろんなプレイヤーがいるんだな」
俺も帰るか。




