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第二の街:トゥーシス

「始まりの街に近いか?」

 トゥーシスに足を踏み入れての感想はそれだった。街の規模は始まりの街よりも小さいが、建物の感じは始まりの街に似ている。

「地形や環境にも特別なものがないから東側はだいたいこんな感じよ。正確に言うなら似ているのは始まりの街じゃなくてトゥーシスの次にある王都だけれどね。始まりの街から東側は王都の建築様式を基準にしているのよ」

「へぇ、そうなのか」

 どおりで始まりの街に似ていると思った訳だ。

「β時代に行けたのは王都までだからその先は実際に見た事はないのだけれど」

 たしかマーネに限らずβ時代に辿り着けたのは東側と北側が第三の街まで。西側と南側は第二の街までだったと言っていたな。

「それで、クランの設立はどこでやるんだ?」

「冒険者ギルドでできるわ」

「ふむ。ところで、何故クランの設立はこの街なんだ?始まりの街や王都じゃ駄目だったのか?」

 俺からすると第二の街というのは中途半端なように感じるんだが。

「はっきりとした理由はわかっていないけれど、クランは様々な特典が得られる代わりに最低限の実力が必要だからというのが有力な説ね」

「なるほど……。む?」

 と、そんな話をしていると、前から五人組の集団がやってきた。

 あれはプレイヤーか?という事はアナウンスで流れていたニーベルンゲンというクランだろうか?

「違うわ。あれはニーベルンゲンではなく、ニーベルンゲンと並んでβ時代攻略組トップと呼ばれていたクラン、浮雲よ」

「もっと言うニャらマーネちゃんとロータスくんに会う前に護衛を頼もうと思っていた相手ニャ」

 そこで向こうも俺達に気づいた相手がこちらに近づいてきた。

「よお、そこにいるのは魔女王じゃねぇか」

「……その名で呼ばないでくれる」

「じゃあ、マーネ」

「名前で呼ばないでくれる」

「どうしろと!?」

 着流しを着た大柄の男。短めの金髪にどこか人を惹きつける笑顔を浮かべている。ふむ……。

 この男、強いな。

「はぁ、まあいいや。それより、そろそろうちに入る気にならないか?」

「何度言われても入る気はないわ」

「そうかい。ま、そうだろうと思ったけどな」

 そう言って男は引き下がった。勧誘という割にはあっさりと引き下がったな。

 まあ、この言い方だとすでに何度も断っているのだろう。

「それで、ミャーコ達とここにいるって事は護衛してきたのか?」

「ええ、そうよ」

「なるほどな。俺達のところに依頼が来るかと思ったんだがな。まあ、ヘパイストスが設立されるのは俺達としてもありがたいから助かるけどな」

 ふむ?それはどういう意味だろうか。

「浮雲は自前で生産職を抱えていないの。だから、アイテムや武具の類いをヘパイストスに頼っているのよ」

 と、マーネが小声で教えてくれた。

「この着流しもいい感じだしな。また頼むぜ、ミャーコ」

「ニャハハ、任せるニャ。それにしても、ヴェント達もここに来ていたんだニャ」

「竜殺しの奴には遅れちまったけどな」

 そんな風にミャーコとヴェント?が話している間に続けてマーネが色々と教えてくれる。

「彼はクラン浮雲のクランマスター、ヴェント。旋風の二つ名を持つトッププレイヤーよ。竜殺しっていうのはニーベルンゲンのクランマスター、ジークフリートの事。β時代に唯一ニーベルンゲンがドラゴンを討伐したの。そこからそのクランマスターであるジークフリートが竜殺しと呼ばれるようになったわ」

「マーネでも倒せなかったのか?」

「流石にソロの私では厳しかったわね」

「なるほど」

 実力はあっても一人だけではできる事も限られるからな。

「ところで、ヴェント達はどこに行くのニャ?」

「クランはとりあえずは設立したから一旦戻って他のメンバーを迎えにな。数日中にはメンバー全員をここに連れて拠点をここに移すつもりだからな。そういう訳で俺達はそろそろ行くぜ。魔女王とそっちの男も気が向いたらいつでも来てくれ。歓迎するぜ」

「む?俺か?」

「悪いのだけれど、そんな事はありえないわ」

「はは、つれねぇな。まあいいや。それじゃあな」

 ヒラヒラとヴェントは手を振って歩き出し、その後を他のメンバーが俺達に頭を下げてついていった。

「ニャハハ、それにしてもマーネちゃんは相変わらず素っ気ニャいニャ」

「そうか?かなり態度が柔らかかったと思うんだが」

「ニャ?どこがかニャ?」

「会話が成立していただろ」

「そのレベルニャのかニャ!?」

「男相手だと会話が成立するだけでも稀だぞ。あの男はマーネの実力を評価していても下心がなかったからだろうな。下心がある相手だとあんなものじゃないぞ」

「どうでもいいでしょ、そんな事。それより、さっさとギルドに行きましょう」

「あ、待つニャ」

 さっさと歩き出したマーネに続いて俺達もその後を追った。




 ◇◆◇◆◇◆





「いやー、やっぱり魔女王さんは美人ッスね。俺、ファンなんスよ」

 魔女王一行と別れてすぐにシーフのコータが興奮気味に喋り出した。

 コータは斥候としての実力は確かなんだが、時折とんでもないミスをやらかす困った奴だ。

「本当に!ああ、マーネさん綺麗だったなー。なんて言うか、気品があるの!それなのに強い!私もあんな風になりたいなー」

 コータ以上に興奮しているのが魔法使いのカレン。胸の前で手を組んで頰を紅潮させ、記憶の中の魔女王を思い出しているのかどこか遠くを見ている。

 β時代はピンクの髪色だったんだが、本サービスでは魔女王と同じ白髪になっている。

 何気にこういうプレイヤーは少なくない。魔法使いで本サービスで白髪になったプレイヤーはたいてい魔女王の真似だ。

「あーあ、うちに入ってくれないッスかね。やっぱり、クラマスが胡散臭いのが悪いと思うんスよね」

「間違いありませんね」

「ティアラさん!?」

 コータの軽口にティアラが即答で頷いた。

 ティアラは五本の指には入る神官でうちのサブマスターでもある。クールで怜悧(れいり)な美人で魔女王と少し近い。

 俺に対する容赦のなさとかもな!

 まあ、クラン運営で任せてるところも多いし、俺が好き勝手やれるのも隣で支えてくれるティアラの存在あってこそなんだが。

 お陰で俺はティアラに全く頭が上がらない。

「クラマスがいなくなればマーネさんが入ってくれる?だったらいっそ……」

「いっそなに!?」

「でも、あれッスよね。魔女王さんが入ったらカレンの席がなくなるッスよね」

「はっ、たしかに。でも、同じクランになりたいし……。そうだ、ならクラマスになってもらうというのは……?」

「俺がクビなのか!?」

 最近俺に対する当たりが強くないか?俺、一応クランマスターなのに……。

「ええっと、僕はそんな事ないと思いますよ……?」

「うう、お前だけが俺の癒しだよ……」

 そう言ってくれるのはこのパーティの壁役、ルクス。

 敵の攻撃を一手に引き受ける壁役だが、見た目は美少女……に見えるが一応男だ。たぶん。

 男らしくなりたいと壁役を買って出てくれているが、線も細く、いつもオドオドしている。

 趣味は料理で特にお菓子作りが得意だ。料理スキルも取っていて暇を見つけては作っている。その女子力の高さからうちの女性陣からは恐れられ、男共からは新しい扉を開きそうだと別の意味で恐れられている。

 もはや、ルクスの性別はルクスという結論になった程だ。

「それにしても、やっぱり魔女王さんは流石ッスね。俺達が苦労して倒したエリアボスを四人も護衛して倒したんスから」

「四人?」

 コータの奴は何を言っているんだ?

「……ああ、なるほど」

 俺は少し考え、コータの言っている意味を理解した。

「そりゃ、間違いだぜ。お前はもう少し相手の実力を測れるようにならねぇとな」

「何がッスか?」

「護衛していたのは三人だ」

「三人?ヘパイストスの三人と初期装備の男で四人じゃないッスか?」

「それが間違いだってんだよ。あの男、やべぇぞ。ありゃ、化け物だ。俺でも一対一じゃ勝てる気がしねぇな」

「マジッスか?」

 俺の言葉にコータだけじゃなく、カレンとルクスも驚きをあらわにする。

 あんな扱いだが、どうやらそれなりに俺の力は信頼してくれているみたいだな。

 まあ、流石にティアラだけは薄々察していたのか驚いていなかったが。

 気づいていたからだよな?俺なんか大した事ないって思われている訳じゃないよな?

「珍しく男を連れていると思ったら魔女王の奴、どこであんな化け物を見つけてきたんだか。β時代じゃ見なかったよな?」

「少なくとも私の記憶にはありませんね」

 あれだけの実力がある奴が無名な訳ないし、ティアラでも知らないなら本サービスからのプレイヤーだろう。

 と、そこでティアラ以外の三人が不満そうにしている事に気づいた。

 まったく、こいつらは……。

「ま、一対一じゃ勝てないかもしれないが、俺達なら負けねぇさ。なんせ、俺達は最高のパーティだからな」

「マーネさんを勧誘していましたけどね」

「ちょっ、それは今はいいだろ!」

 まったく、そこは格好よく決めさせてくれよな。

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