VSファイティングラビット決着
〈剣術Lv4になりました〉
〈ファイティングラビット初討伐報酬によってSPが6ポイント加算されます〉
レベルアップはなし。スキルも上がったのは剣術だけ。
まあ、レベルは昨日上がったばかりだし、ファイティングラビットのレベルは俺と同じ10。それに、経験値はパーティで等分されるからいつもなら半分のところを今回は五分の一しかない。
そこまで簡単にレベルは上がってくれないか。
「お疲れ様」
「ああ」
近づいてきたマーネに頷いて答えていると、さらにその後ろからミャーコ達が声をかけてきた。
「凄かったニャ!」
「驚いたわ〜」
「やるもんだな」
「む……」
次々と浴びせられる賞賛の声に戸惑い、思わずマーネの方を向いて助けを求める。
「素直に受け取っておきなさい」
「あれくらい大した事ないと思うんだけど」
「その大した事ない相手を倒すのに皆苦労しているのよ。過ぎた謙遜は嫌味にしかならないわ。貴方が実際にどう思っているかに関係なくね」
たしかに、レベルが先行している分他のプレイヤーよりも楽なのは確かだが、自分が苦労した相手を他人に大したことないがないと言われれば面白くはないか。
「それじゃあ、ドロップアイテムの確認をしましょうか」
「何か欲しいアイテムはあるのか?」
「脱兎の指輪というアイテムが欲しいわね。残念ながら、今回は私も出ていないわ」
む、強運を持つマーネでも出ないか。まあ、今までレアドロップがポンポンと出ていたからな。
レアという以上本来ならあんなに簡単には出ないのだろうし。
一応俺も確認してみるが、残念ながらマーネの言うアイテムはない。俺の運などこんなものだろう。
「ミャーコもニャいニャ」
「あたしもねぇな」
「あら〜あったわ〜」
ミャーコ、サテラと続けて首を横に振る中、いつものおっとりとした調子でルイーゼが告げた。
「おお!」
「やるニャ!」
それにミャーコとサテラはパチパチと手を打って賞賛を送る。
「よかったら譲ってくれないかしら?もちろん、相応の対価は払うわ」
「いえいえそんな〜。ただで差し上げるわよ〜」
「駄目よ。この辺はきっちりしておかないと、後々遺恨を残す事になりかねないもの」
「だったら、マーネちゃん達が必要ニャい他のドロップアイテムと交換というのはどうニャ?ミャーコとしても護衛の報酬としてあげてもいいんだけど、それじゃあマーネちゃんは納得しニャいのニャ」
「それならいいわ」
俺はマーネの目配せを受けてファイティングラビットのドロップアイテムを取り出した。
「でも、これって釣り合いが取れるのか?」
マーネがただで貰う事に反対したように向こうも貰い過ぎるのはよしとしないと思うんだが。
「問題ないわ。エリアボスとはいえ、もう少しすれば倒せるプレイヤーも増えてファイティングラビットの素材は多く出回る事になるわ。でも、レアドロップのアイテムはどうしても出回る量が少なくて希少価値がつくの。だから、今の時点では釣り合っているけれど、もう少ししたらこっちが不足する事になるわね」
「なるほど」
俺は納得してファイティングラビットの素材を差し出した。
「ロータス」
「む?俺でいいのか?」
マーネに促されて俺は他のドロップアイテムと交換でルイーゼから指輪を受け取った。
[脱兎の指輪]品質B
東の平原のエリアボス、ファイティングラビットの力が宿った指輪。希少価値が高い。
効果:AGI+7
「取引成立だニャ。ミャーコとしてはレアドロップよりも毛皮が嬉しいニャ」
「あたしも肉が手に入ったから満足だ」
「お互い満足してるみたいでよかったわ〜」
これがDEXが上がる効果があるならともかく、AGIでは生産職の三人にはあまり必要ないか。それにしても……。
俺は左の中指に新しくはめられた指輪とその隣の人差し指にはめられた指輪を見る。
現実ではあまりアクセサリーの類いはつけていないのだが、このままではアクセサリーでゴテゴテになってしまいそうだ。
「アクセサリーの着用可能数は最大で五個だからそう気にする必要はないわ」
「なら、大丈夫か」
「ニャー?」
「どうかしたか?」
そんな俺達のやり取りを見ていたミャーコが不思議そうに首を捻った。
「今、ロータスくんはニャにも言っていニャいのに会話が成立していたニャ」
「ああ」
俺の疑問をマーネが先回りして答えるのがいつもの事過ぎて気にしていなかったが、傍から見ると突然マーネが喋り出したように見えるのか。
「どこで何に疑問を持つのかくらいわかるわ」
「まあ、付き合いが長いからな」
「ニャるほどニャー。本当に二人はニャかよしニャんだニャー」
そう言ってミャーコがニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「もういいでしょ。それより、ドロップアイテムの確認も終わったし、行きましょう」
そうして少し歩くと、東側の第二の街トゥーシスが見えてきた。
「見えたニャ!」
その途端、ミャーコがトゥーシスに向けて駆け出していった。
「なあ、ミャーコっていくつなんだ?たぶん、年上だと思うんだけど」
見た目は俺達と変わらない少女だが、時折年上に感じる事があるんだよな。言動の端々に演技臭さがあるし。
たぶん、ミャーコはかなり計算高いタイプだと思うんだよな。
「……命が惜しいなら彼女の前で年齢の話はしない事ね」
「ニャんのはニャしをしてるのニャ?」
そんな話をしていると、かなり前にいたはずのミャーコがいつの間にか目の前で俺の顔を覗き込んでいた。
「ニャにか呼ばれた気がしたんだけどニャ?」
「トゥーシスがどんな街かマーネに聞いていたんだ。クランの設立ができるとは聞いたけど、他にもセカンディアみたいに何か特色があるのかと思ってな」
「ふーん……。そんニャのかニャ?」
ミャーコはグルリと首を回して今度はマーネの方を見る。
「ええ、そうよ。まあ、トゥーシスにはそこまで特徴もないから話すの事も多くはないのだけれど」
「……ニャらいいニャ。ミャーコの気のせいだったみたいだニャ」
そう言ってミャーコは再び前に歩いていった。
「これからは年齢の話はしないようにするよ」
「そうしてちょうだい。心臓に悪いから」
そうこうしているうちに俺達はトゥーシスの街に辿り着いた。




