クラン
「意味としては一族や一門となるわね。ただ、この場合は同じ目的を持つプレイヤーが集まってできる集団・組織といったところかしら」
「パーティとは違うのか?」
「それの大規模版。厳密には最低三人から設立できるから必ずしもそうとは言えないのだけれど、パーティを越えたプレイヤーの集まりとでも思っておいて」
そういえば、アナウンスが流れた時にマーネが何か言っていたような……。
「ニーベルンゲンだったか?」
「あら、覚えていたのね。そうよ。ニーベルンゲンはβ時代にナンバーワンと呼ばれていた攻略クランの事よ。ニーベルンゲンみたいに攻略を目的とするクランもあれば、生産職達が集まってできた生産者クランもあるわ」
生産者クランと聞いてミャーコの方を見れば、俺の視線に気づいたミャーコはニパッとした笑顔を返してきた。
「ミャーコ達が所属していたヘパイストスはβ時代最大の生産者クランよ。しかも、二人共そこの幹部だったし、もっと言うのならミャーコはヘパイストスのサブマスターで実質クランを取り仕切っていた人よ」
目の前でニコニコと笑っている人物がそんな大物だとは思わず、俺は驚いて改めてミャーコの顔を見た。
「ミャーコって偉かったんだな」
人は見かけによらないという事か。たとえ、獣耳アクセサリーを売り捌き、語尾にニャをつける変わり者だとしても。
「そうニャのニャ!ミャーコは偉いのニャ!」
えっへん、と言わんばかりにミャーコは腰に手を当てて胸を張った。
ふむ、マーネよりはあるか。
「今貴方から不快な思考を感じたわ」
「気のせいじゃないか」
相変わらず俺の思考は筒抜けのようだ。気をつけなければ。
「……まあいいわ」
しばらく俺の顔をジッと見ていたマーネだが、俺の顔色が変わらないとわかると諦めて視線を戻した。
さて、掘り返される前に話を本題に戻すとしよう。
「クランについてはだいたいわかったけど、それが何故トゥーシスを目指す理由になるんだ?」
「クランの設立はトゥーシスじゃないとできないの。それで、クラン設立自体の目的はクランホームね」
さっきから俺の知らない単語がどんどん出てくるが、いい加減いちいち話の腰を折るのはやめにしよう。毎回聞かなくてもマーネなら俺が何を疑問に思うのかわかって説明してくれるだろう。
「クランホームはクランの拠点となる建物の事よ。一応、個人でもホームを持つ事はできるわ。戦闘職ならあまり必要ないけれど、自分の趣味の物を置いて楽しめるし、生産職なら自分の店としても使えるわ。生産して直接売れるから今後増えていくと思うわよ。ただ、クランホームの場合はもっと大きな建物を割り引いた値段で買えるの」
「ふむ」
「他にもクラン設立の恩恵はあるけれど、今回は割愛するわね。で、ここからがミャーコ達の一番の目的になるのだけれど、ロータスは生産職の人達が最初どこで生産活動をするかわかる?」
「ん?生産会館じゃないのか?」
マーネに街の案内をしてもらった時にそんな事を言っていたはずだが。
「生産会館を利用するか、お金に余裕があるのなら店で持ち運びのできる簡易生産キットを買って使うわ。ただ、この二つは設備の性能が最低ランクなの」
ああ、なるほど。ようやく話の全容が掴めてきた。
「つまり、クランホームの購入も過程に過ぎず、本当の目的はより性能の高い生産設備という事か」
「正解よ。より品質の高い物を作ろうとするとどうしても相応の設備が必要になる。その設備のためにミャーコ達はトゥーシスに行ってクランを設立しようとしているの」
「そういう事ニャ。どうかミャーコ達をトゥーシスに連れていってほしいニャ」
そう言ってミャーコとルイーゼは頭を下げた。
「貴方はどうしたい?」
「む?俺に振るのか」
どうしたいと言われても……。
「一つ聞いていいか?」
「ニャにかニャ?」
「なんで俺達なんだ?他にも適任はいると思うけど」
「ロータスくんとマーネちゃん以上の適任はいニャいニャ!二人が来る前は他の人に頼むつもりだったけど、今は是非二人にお願いしたいニャ!」
何故俺達なのだろうか?やはり、北の森のエリアボスを倒したからだろうか?
「それで実力が証明できたというのもあるわね。それと、私達が二人という大きいわ」
「どういう意味だ?」
「クラン設立には最低三人必要だと言ったでしょ?だから、少なくとも三人はトゥーシスに行かなければならないわ。アナウンスでわかっていると思うけど、エリアボスを討伐したパーティはフルパーティの五人。そこに護衛対象の三人が入ると必然的に戦力が三人も減る事になる」
「それは厳しいだろうな」
「一応一人ずつパーティに組み込んで三回に分けて護衛するという方法もあるけれど、回数が増えれば当然負担も消耗増える。でも……」
「俺達は最初から二人だから戦力的に減る事はないし、一度で全員を護衛できる」
だから俺達以上の適任はいないと言ったのか。
「だからこそ、二人にお願いしたいのニャ!」
「ふむ……。俺としては受けたい。メリットどうこうよりもマーネが世話になった相手なら手を貸すのは吝かではないからな」
「そう。貴方がいいのならいいわ。その依頼、受けるわ」
「本当かニャ!ありがとニャ!」
全身で喜びをあらわにしたミャーコは俺とマーネの手をそれぞれ掴んでブンブンと縦に振った。
「それで、依頼の日時は?」
「明日の13時でどうかニャ?その時間に東側の門の前で待ち合わせニャ」
「こちらは構わないわ」
ミャーコの言葉にマーネは頷いて答えた。
という事は、先に現実で昼を食べてからという事か。
「あ、そうニャ!ロータスくん!フレンド申請するニャ!」
「あら〜、でしたら私も〜」
と、俺のメニューにフレンド申請が来たと通知が出、俺はメニューを操作して二人の申請を受諾した。
「マーネは?」
「私もβ時代にフレンド登録しているから。登録してあるフレンドは引き継がれるの」
「へぇ、じゃあ他にもフレンドはいるのか?」
「…………」
あ、これはいないな。
そっぽを向いてしまったマーネに俺はこれ以上この話題に触れるのはやめた。
「ところで、依頼された物はどうするニャ?急げば明日の待ち合わせまでに仕上げられるニャ。でも……」
「クランホームを購入して設備が整ってからの方がより高品質の物ができる」
「そうニャ」
「それからでいいわ。急ぐ必要はないもの」
「ニャハハ!エリアボスに挑むっていうのに余裕だニャ!これは頼もしいニャ!」
「その代わり」
「わかっているニャ!最高の物を作ってみせるニャ!」
自信満々といった様子でミャーコはサムズアップした。
「私も〜いい物を作りますね〜」
「ええ、お願いするわ」
「じゃあ、明日は護衛お願いするのニャ!」
「受けた以上は必ず達成するわ。それじゃあ、また明日ね」
挨拶を終え、俺達は手を振るミャーコとルイーゼに見送られてその場から立ち去った。




