エリアボス:VSジャイアントボア2
ジャイアントボアのHPを三割まで減らす事はできたが、状況がいいとは言えない。
一番の理由は環境の変化だ。
森の中からの突進によって跳ね飛ばされた木が散乱し、ヘビースタンプによって地面は砕けている。
徐々に自由に動ける範囲が狭まってきているのだ。
「ブオォォォォ!!」
「なんだ?」
しかも、さらに悪い事にここに来てジャイアントボアが赤いオーラを纏い出した。パワーアップでもしたのか?
「いい知らせよ。エリアボスはHPが一定以下になるとステータスが上昇するの」
「それのどこがいい知らせなんだ?」
「ジャイアントボアは攻撃力とスピードが上がる代わりに防御力が下がるのよ。いい知らせでしょ?」
「そうか?」
まあ、どちらにしろ一撃受ければそれで終わりなんだ。そう考えれば変化は多少速くなるだけ。その分防御力が下がるというなら悪くないか。
「正念場だな」
集中力をさらに高め、向かってくるジャイアントボアに備える。
確かにその動きは今までよりも速い。だが、躱せない程かと言われればそんな事はない。やはり、厄介なのは周囲に散乱している木だ。
下手に躱そうとすれば落ちている木に足を取られ、バランスを崩してしまうかもしれない。
俺は素早く周囲を見回して把握し、突進を落ちている木を乗り越えながら躱す。
「また変わったか」
今まではそのまま森に入っていっていたが、今回は森に入る手前で旋回し、再び突進してくる。
とはいえ、多少速くなろうが足場が悪くなろうがそれはここまで何度も繰り返してきたパターン。すれ違い様のカウンターを狙えばいいだけ。
だが、ジャイアントボアはそのまま突進せず、途中でブレーキをかけだした。
ヘビースタンプか。
厄介な技ではあるが予備動作で来るのはすぐにわかる。本来ならこの間に距離を取るべきなのだろうが、俺はあえて自ら前に出た。
そして、立ち止まって両前脚を振り上げる直前、ジャイアントボアに向かって跳び、その顔に足をかけた。
直後、ジャイアントボアが両前脚を振り上げる反動で俺の体は上空へと跳ね上げられた。
さっきはマーネのサポートで回避したが、一人でも問題ないな。
眼下でジャイアントボアが両前脚を振り下ろすのを確認し、体勢を整えて影響のない空中から無防備な頭へとスラッシュを叩き込む。
予想外だったのはジャイアントボアが続け様に両前脚振り上げた事。
俺は未だ身動きの取れない空中。このまま着地するとヘビースタンプの影響をもろに受けてしまう。
そうなればあの強力な突進を受けて終わりだろう。
「俺一人ならの話だが」
体の横に剣を盾にして構えた直後、風球が直撃して俺は再び空へと舞い上がった。
俺が再び地面に降り立つ頃にはジャイアントボアはまた走り出し、勢いをつけて向かってくる。
ブレーキをかける様子はない。今度は普通の突進か?
だが、そこで俺の直感が警鐘を鳴らす。何かが違う。
俺は咄嗟に避けようとしていた方とは逆側に大きく跳んだ。
カウンターは狙えない程離れてしまったが、結果的にそれは正解だった。
ただの突進かと思っていたが、途中でジャイアントボアは大きく顔を振り、その大きな牙を振り回したのだ。
あのまま普通に避けようとしていたら直撃していたな。
「今度は飛び道具か」
ここに来てジャイアントボアは多彩な攻撃を仕掛けてくる。
突進しながら鼻先で落ちていた木を跳ね上げ、俺の方へ飛ばしてきたのだ。
それを前に出て掻い潜り、その後ろから突進してくるジャイアントボアと対峙する。
左右への回避は危険。なら下だ。
巨体だからこそある体の下のスペースにスライディングで潜り込み、スラストで真上にある顎へと剣を突き刺した。
アーツの体が勝手に動く感覚は慣れないが、体勢を無視して技を出せるというのは利点かもしれない。
通常時にそんな事をしてしまえばバランスを崩して大きな隙ができてしまうが、スライディング中なら体勢も何も関係ない。
顎に刺さった剣はジャイアントボアが動くのに合わせて一直線に腹を割いていく。
それなりにダメージは与えられたか?
ジャイアントボアが俺の上を通り抜けるとすぐ様立ち上がり、HPを確認する。
残りは二割ってところか。確かに今までよりもHPの減りが早い。防御力が下がったというのは間違いないみたいだな。
とはいえ、まだ予断を許さない状況だ。マーネのMPも残りわずか。そろそろ何か決定打がなければどこで逆転されるかわからない。
最初から一撃受ければ負けの状況は変わらないのだから。
そして、それはマーネも同意見のようだ。
今までほとんど動かずに援護をしてくれていたマーネが動き出した。
そんなマーネと一瞬目線を交わし、その作戦を実行するべく動き出した。
(挑発!)
万が一にもマーネの方に向かないように何度も使っていた挑発を改めて使い、確実に俺の方へ来るようにヘイトを稼ぐ。
そして、マーネの示した場所へと俺は移動した。
散乱した木や砕けた地面は足下に神経を使う必要があってたしかに面倒だった。
流石はこの森の主。上手く地形や環境を利用していたと言えるだろう。
「でも、常にお前の味方をしてくれるとは限らないぞ」
俺は細かく位置を調整し、一直線に向かってくるジャイアントボアを待つ。
躱す必要はない。何故ならあいつは俺まで届かないから。
俺を跳ね飛ばすべく勢いよく突進してくるジャイアントボアだったが、俺に届く寸前。自らの砕いた地面に足がはまり、後脚が跳ね上がった。
「ブォォ!?」
驚いたように鳴き声をあげるジャイアントボアだが、これで終わりではない。
「ウィンドボール」
いつの間にか近くまで来ていたマーネが横たわっている木の先端に風球を放った。
それによって木はその場でグルリと回り、ジャイアントボアの残っている前脚を払った。
そして、ジャイアントボアの巨体は一瞬宙を舞い、地響きを立てながら地面にひっくり返った。
慌てて立ち上がろうとするジャイアントボアだが、千載一遇のチャンスをそう簡単に逃しはしない。
素早くジャイアントボアに近づいたマーネがアイテムボックスから大量の木を取り出し、ジャイアントボアの上に積み重ねた。
木を簡単に薙ぎ倒す膂力のあるジャイアントボアだが、それは突進の勢いがあってこそ。倒れた状態からこうも積み重ねられてしまってはそう簡単には抜け出せない。
だが、そこまで余裕がある訳ではない。ここで勝負を決めるつもりでマーネもここまで前線に出てきているのだ。
もし、抜け出されてしまえばその瞬間にマーネは倒されてしまうかもしれない。
だから、これは俺達が先にHPを削り切るか、ジャイアントボアが先に抜け出すかの勝負だ。
俺は積み重ねられた木の下でもがくジャイアントボアに何度も剣を振り、マーネはその口の中に残っているMP全てを叩き込んでいく。
そして──。




