エリアボスに向けて
『NWO』を始めて三日目。都合が悪くて昼からのログインになった俺達は昨日に引き続き、スケルトン狩りをしていた。
昨日はあの後、荒野と街を往復しながらスケルトン狩りに勤しみ、レベルも1上がって6になった。
あれからしばらく経ったからそろそろもう1レベル上がってもいい頃だと思うんだけど。
〈レベル7になりました〉
〈集中Lv3になりました〉
〈気配察知Lv2になりました〉
〈SPが2ポイント加算されます〉
と、そんな事を考えながら残っていた最後のスケルトンを倒すとタイミングよくインフォが流れた。
「スケルトン狩りはそろそろ終わりね」
「もういいのか?」
「見てみなさい」
マーネに促されて東の空を見上げると、空は徐々に白み始め、朝の気配が近づいてきていた。
ログインしたのは13時。ゲーム内だと1時で真夜中だったが、マーネのMP回復のために何度か街に戻ったり、現実での昼食のために途中ログアウトをしたりでかなりの時間が経っていた。
気づけばもう夜明けの時間だ。
「なるほど、スケルトンは夜にしかでないモンスターだから。どっちにしろここまでって事か」
「そういう事よ」
「そういえば、この世界で夜明けを見るのは初めてか」
俺達のプレイ時間的に今までは見る機会がなかったからな。
「一旦街に戻るわよ。街に着く頃にはちょうど日も昇って店も開き始める事でしょうから」
この世界の住人は日が昇ると共に動き出し、日が沈むと休む。コンビニなんてという便利なものがある訳もなく、夜はほとんどの店が閉まっている。
夜も開いているのはギルドと酒場くらいのものだ。
とあるプレイヤーが夜は物が買えないと愚痴っていたのを聞いたが、ゲームに詳しくない俺からすれば当然のように感じる。
住人にだって生活はあるのだから一日中店に張り付いている訳いかないだろう。
「ロータスからすれば不思議かもしれないけれど、RPGなんて一日中店が開いているどころか、人の家に勝手入って漁っていくようなものだもの。その感覚でいたら愚痴の一つも言いたくなるのもわかるわね。ちなみに、このゲームで同じ事をすれば普通に捕まるわよ」
これだけリアルなのだからそんな風には思えないが、中にはただのゲームだとしか思っていないプレイヤーも一定数いるのだろう。
「そういえば、今日は何かやりたい事があるって言っていたよな?」
「ああ、エリアボスに挑もうと思って」
「昨日も言っていたよな?この先はエリアボスの領域だって。そのエリアボスってなんなんだ?」
ボスっていうんだから強力なモンスターの事なんだろうけど、それがなんなのかはわからない。
「各フィールドに存在するボスモンスターよ。始まりの街から次の街へ行くにはそのエリアボスを倒さないといけないの。街道を守る番人ってところかしら。いえ、より正確に言うのなら選別かしら」
「選別?」
「先へ進めばよりモンスターも強力になる。実力もないのに先へ進んでも死に戻るだけ。だから、先へ進むだけの実力があるか確かめるための存在がエリアボスよ」
とはいえ、それはエリアボスに限った話ではないのかもしれない。奥に行く程敵が強くなっていくし、フィールドによって敵の強さも違う。
つまりは自分の実力に見合った場所でまずは力をつけろという訳だ。
「あ、そうだ。もう一ついいか?またSPも溜まってきたし、新しくスキルを取ろうと思うんだけど」
そう言いながら俺はメニューを開き、ステータスを確認した。
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名前:ロータス
職業:戦士Lv7
STR:23(+6)
VIT:22(+7)
INT:11(+3)
MID:11(+3)
AGI:22(+7)
DEX:17(+4)
SP:7
スキル:剣術Lv3 眼Lv2 歩法術Lv2 逆境Lv2 集中Lv3 気配察知Lv2
称号:
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「何を取ればいいかアドバイスが欲しいという訳ね。好きなものを選べばいいとは思うけれど、貴方に向いているのは『カウンター』ね」
「どんなスキルなんだ?」
「カウンターで攻撃を当てた時に与えるダメージが上がるの。もう少し火力が欲しいと思っていたみたいだし、ちょうどいいんじゃないかしら?」
「よくわかったな」
「何年一緒にいると思っているの?」
「それもそうだ」
たしかにスケルトンを一撃で倒すには微妙に足りなかったからな。
逆境を発動させたら一撃なんだが、あれだけ囲まれていると何か事故が起きるかもしれないから迂闊には使えないし。
そうなると、与えるダメージが増えるこのスキルはよさそうだな。カウンターで合わせるのは難しくないから使い勝手もよさそうだし、これにするか。取得に必要なのは4ポイントで問題なく取得できるし。
「私が提案しておいてなんだけれど、本当にそのスキルでよかったの?他にも貴方が気にいるスキルがあったかもしれないのよ」
「その時はまたSPを溜めて取るよ」
「そうね。今は色々試した方がいいでしょうし、貴方がいいのなら何も言わないわ」
そう言ってマーネは納得してして引き下がった。
「じゃあ、街までの間にゴブリン相手にでもスキルの感触を確かめてみるといいわ」
「ああ、そうするよ」
ゴブリン相手にスキルの感触を確かめながら歩き、街に戻ってきた頃には太陽は完全に昇っていた。
街に入ると多くのプレイヤーと住人が入り乱れて行き交う姿が目につく。活気があるのはいい事だな。
「おっと」
その様子を立ち止まって見ていると、門の外に出ていこうとするパーティとぶつかりそうになり、一歩横にずれて避ける。
「荒野にもプレイヤーが増えてきたな」
今のパーティもそうだが、今日は昨日まではほとんど見かけなかったプレイヤーを荒野で見かけた。
「レベルが上がればそれに適した狩り場に移動するのは当然よ。私達が荒野を独占するのも終わりね」
「そうだな」
それでも、北の森に比べれば数は少ないが、今までみたいに所構わずスケルトン狩りをする事はできないかもしれないな。
「それより、雑貨屋に行くわよ」
「ああ、あそこか」
マーネの言葉にポーションとテントを買った店を思い出す。
そういえば、まだどっちも使ってないな。
「一応、ポーションを買い足しておくのよ。使うかどうかは別にして、用心に越した事はないでしょ」
「そうだな」
「さ、売り切れる前に行くわよ」
人波を縫って進み、俺達は以前も訪れた雑貨屋へと移動した。
「混んでるな」
外から雑貨屋の中を覗くと、中には多くのプレイヤーがひしめき合っていた。
「夜中のうちに使った分を補充しに来たのでしょうね。たぶん、開店直後が一番混むわよ」
「たしかに」
前はこんなに混んでなかったし。でも、サービス開始直後に行っていたらこんな比じゃなかったのかもしれないな。
「ところで、MPを回復する方法ないのか?自然回復以外で」
「あるわよ。マナポーションっていうMPを回復するポーションが。ただ、三番目の街以降でしか手に入らないけれど」
「駄目だな」
「駄目ね」
つまり、現状MPを回復する方法ないと。まあ、あればマーネが用意していないはずないか。
「とりあえず、ポーションを買ってくるよ。わざわざこの混雑の中に二人で突入する必要もないからマーネはここで待っていてくれ」
「ええ、お願いするわ。十本もあればいいから」
「ああ、わかった」
マーネの言葉に頷き、俺はプレイヤーでひしめく店内へと突入した。




